「後継者のいない会社」を買う場合のメリット・デメリットや方法について解説!
昨今、業種を問わずM&Aが活発に行われていますが、どのような会社を買うことが多いかご存じでしょうか? その解答が「後継者のいない会社」です。
売手のM&A目的は大きくわけて、下記3つに分類され、「後継者のいない会社」を買う行為は「事業承継型M&A」に分類されます。
この記事では、「後継者のいない会社」を買う場合のメリット・デメリットや具体的な方法について解説いたします。
類型 | 特徴 | |
事業承継型M&A | ✓ | 「親族・従業員において後継者が不在」かつ事業継続意思のある企業が選択肢としてM&Aを活用 |
✓ | 後継者不在問題を解決し、従業員の雇用継続・取引先との取引継続に加え、事業の成長発展を目的として第3者に経営権を移転するM&Aを指す | |
成長戦略型M&A | ✓ | 後継者の有無は関係なく、成長戦略の実現を加速させていくことを目的に、自社に不足している経営資源を有し、目指している成長戦略の実現が可能となりえる第3者に対して経営権を移転するM&Aを指す |
再建型M&A | ✓ | 後継者の有無は関係なく、資金難、過剰債務等の理由により、企業の再建を目的として第3者に経営権を移転するM&Aを指す |
「後継者のいない会社」の現状
M&Aの多くは「事業承継型M&A」ということは、「後継者のいない会社」が多数存在していることに他なりません。
ここでは「後継者のいない会社」を取りまく環境について解説いたします。
後継者のいない会社がどれくらい存在するのか?
帝国データバンクによる最新の調査情報によると直近での後継者不在率は53.9%(代表者平均年齢60.8歳)です。
後継者不在率は減少傾向にあるものの、それでも53.9%が後継者不在であり、潜在的には約180万社程度の中小企業が後継者問題に対応する解決策を見出していく必要があります。(中小企業数336万社×53.9%)
出典:後継者不在率:帝国データバンク・全国企業「後継者不在率」動向調査(2023)
中小企業数:中小企業庁公表、中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)
「後継者のいない会社」が取れる選択肢
後継者のいない会社が取れる選択肢は、以下4つに分類されます。
中長期の期間が必要となる選択肢として、「後継者育成」及び「IPO」が対象となり、短期間で対応可能となる選択肢が「M&A」及び「廃業」となります。
企業存続を前提とした場合、M&A以外では「後継者育成」「IPO」の2つしか選択肢がありません。
その2つとも対象企業が限定される他、時間を要する手法。
後継者不在企業における代表の平均年齢約61歳を考慮すれば、今後当面は「事業承継型M&A」が増加することが想定されます。
選択肢 | 備考 | 所要期間 | |
後継者育成 | ✓ ✓ | 親族・社内役員・従業員・外部招聘を対象とした育成 後継者候補が存在することが前提 | 中長期 |
IPO | ✓ | 成長企業に限定される | 中長期 |
M&A | ✓ ✓ | 成長の期待できる第3者へ経営承継 対象となる企業は限定されない | 短期 |
廃業 | ✓ | 従業員・取引先が困る | 短期 |
「後継者のいない会社」を買うことのメリット
買手メリットは大きく分けて、以下3つに分類されます。
1. 短期間で事業成長が図れる
2. 時間をかけずに新規事業へ参入できる
3. 優秀な人材を確保できる
1.短期間で事業成長が図れる
「後継者のいない会社」の有する経営資源を承継することで、M&A後に成長を加速させることが期待できます。
例えば売手企業の既存取引先への販売機会の獲得、双方の強みを活かしたマーケティング戦略による成長の実現、内製化や生産効率改善による利益率改善・リスクヘッジなどが挙げられます。
2.時間をかけずに新規事業へ参入できる
新規事業を始めるためには、その事業に精通した人材が必要不可欠となります。
特に新たに許認可が必要となる事業への参入を検討した場合、人材だけではなく、許認可取得から事業収益黒字化まで相応の時間を要する他、事業の失敗に至るリスクが内在されます。
当該事業領域を持つ売手企業を買うことで、売手企業のもつノウハウ・取引先等の経営資源を包括で手に入れることができます。
時間を掛けずに低リスクで新規事業へ参入できることは大きなメリットであると言えます。
3.優秀な人材を確保できる
技術者や有資格者など、優秀な人材を獲得することは企業規模に関わらず多くの企業における経営課題であると言えます。
「後継者のいない会社」であっても、経営を承継する人材が不在なだけで、優秀な人材が在籍している企業は多数存在します。
M&Aでは、売手企業に在籍する優秀な人材を包括で承継できます。時間を掛けずに優秀な人材を確保できることは大きなメリットであると言えます。
「後継者のいない会社」を買うことのデメリット・リスク
「後継者がいない会社」を買うことについての、リスク・デメリットは以下4つに分類されます。
1. 簿外債務の承継
2. キーマンとなる人材の流出
3. 成長シナジーが実現できない可能性
4. M&Aに係る投資コスト
なお、このリスクやデメリットは後述する「「後継者のいない会社」を買収する前に事前にすること」に記載している内容を励行すること、買う前に「デューデリジェンス」を行うことで、ある程度リスクを抑制することが可能となります。
(デューデリジェンスについては別記事「M&Aにおけるデューデリジェンスとは?種類や目的を解説! 」 で詳しく解説しております)
1.簿外債務の承継
売手企業の財務情報に示される資産・負債は必ずしも実態が計上されているとは限りません。
デューデリジェンスをせず、M&A専門家が作成した「企業概要書」や売手企業決算書の数値のみで判断して、買収した場合、買収後に想定していなかった負債があったり、想定していた資産がなかったりするリスクがあります。
M&Aスキームによってはこのリスクを排除することは可能ですが、株式譲渡の場合、このリスクを完全に排除することはできません。
買収前にデューデリジェンスを実施のうえ、可能な限り適正な資産・負債を把握することが重要となります。
2.キーマンとなる人材の流出
売手企業において優秀な人材(キーマン)は、重要な経営資源の一つです。
買収後にキーマンが流出してしまうと、当初企図したM&A戦略の実現が困難となるリスクがあります。
買収前にキーマンを把握し、キーマンの流出を防止するために、買収前の丁寧な説明や面談、買収後のPMI(M&A後の統合プロセス)が重要と言えます。
3.成長シナジーが実現できない可能性
買収後に当初企図した成長シナジーが実現できず、売手企業を買収することが逆に足枷となってしまうリスクがあります。
このリスクを抑制するためには、売手企業のビジネスモデルや事業特性、強み、弱み等を十分に理解する必要があります。
また、買手側においてもM&Aをする目的(=M&A戦略)が明確となっていないまま、買収をする場合にこのリスクが膨らむことにご留意ください。
売手企業がM&A戦略に沿った企業であることを前提に、デューデリジェンスを経て売手企業のビジネスモデル・事業特性を把握したうえで、意思決定することがリスクを抑制するための重要なプロセスと言えます。
4.M&Aに係る投資コスト
「後継者のいない会社」を買うには相応の投資金額(売手企業の会社(又は事業)に対する対価(時価純資産+営業権)、M&A専門家に対する費用)が必要となります。
投資金額はあくまで売手との交渉となりますが、前提として買手企業における投資基準を設けることが重要と思われます。
売手企業における「正常収益力」「実態財務」の他、想定シナジーの実現性を考慮のうえ、「投資金額が買収後の想定収益の●年以内回収できる」といった一つ(又は複数)の意思決定基準を持つことが、「高値掴みによるM&Aの失敗」を抑制する一つの手段であると言えます。
「後継者のいない会社」の買収スキーム
「後継者がいない会社」を買うスキームは、大きく分けて「①株式譲渡」「②事業譲渡」「③会社分割」の3つに分類されます。
「①株式譲渡」は売手企業の全て(包括承継)、「②事業譲渡」及び「③会社分割」は売手企業の一部事業・資産の承継と言った違いがあります。
全てのスキームに一長一短がありますが、「売手企業の要望」「買手企業におけるM&A戦略」「売手企業の財務特性」等を考慮したうえで、買収スキームを検討する必要があります。
なお、スキームの詳細は別記事「M&Aスキーム(手法)とは?」にて詳しく解説しております」
<H2>「後継者のいない会社」を買収する方法
「後継者のいない会社」を買収する方法は、下記3つの選択肢があります。
1. M&Aマッチングプラットフォームへの登録
2. M&A専門家を活用
3. ターゲットとする企業へ直接アプローチ
「後継者のいない会社」の情報は公表されません。
買収を積極的に検討していても、能動的に活動しなければいつまでたっても、M&A戦略に合致した会社を見つけることができないため、上記3つの方法により積極的に活動していくことが重要です。
以下それぞれ詳しく解説いたします。
M&Aマッチングプラットフォームへ登録
M&Aマッチングプラットフォームとは、売手又は代理人であるM&A専門家が売手企業の情報(特定されない範囲)を登録し、プラットフォームへ登録している買手(又はM&A専門家)が個別にアプローチできる媒体です。
昨今ではプラットフォームを利用する売手も多く存在します。「後継者のいない会社」の買収を検討したい方は、プラットフォームへ登録のうえ、情報収集ならびに関心のある会社へ個別アプローチすることをお勧めします※。
なお、登録者数の多いプラットフォームは下記の通りです。(順不同)
※プラットフォームへの登録には月額費用が発生する他、プラットフォーム内で成約した場合に別途成功報酬の支払いが発生することにご留意ください。
・BATONZ(バトンズ):https://batonz.jp/
・TRANBI(トランビ):https://www.tranbi.com/
・M&Aサクシード :https://ma-succeed.jp/project
・M&Aクラウド:https://macloud.jp/
2.M&A専門家を活用
M&A仲介/FA会社(銀行・証券会社含む)とコンタクトを取り、ターゲットとする業種・事業領域・規模・エリア等を伝え、希望に合致する案件を紹介してもらうよう連携することが重要です。
プラットフォームは比較的小規模の売手企業が多い為、ターゲットとする企業規模によってはM&A仲介/FA会社より個別に情報を入手する方が得策です。
なお、プラットフォームでM&Aを成約する手数料より、M&A仲介会社を活用した手数料の方が高水準であることにご留意ください。
M&A仲介/FA会社によっては相談料や情報提供料等、契約締結前に手数料が発生するケースもある為、信頼できるM&A仲介/FA会社を選定し、事前に手数料体系等を確認することをおすすめします。
3.ターゲットとする企業へ直接アプローチ
最後にターゲットとする企業を直接リストアップし、M&A専門家を通さずに直接候補先企業へアプローチする選択肢もあります。
手数料が発生しないことが最大のメリットと言えますが、アプローチする段階で、買手側の実名が相手に伝わるため、場合によっては情報が拡散される可能性があることに留意が必要となります。
「後継者のいない会社」の買収に向けて事前にすること
最後になりますが、買収検討前に事前にすることとして、一番重要なことは「M&A戦略」を立てることが挙げられます。
M&Aが活発している、競合している同業他社がM&Aをした、と言った情報は日々入ってくると思いますが、それだけを理由にM&Aを検討することはお勧めできません。
なぜM&Aが必要なのか?どういった経営資源を有する企業が対象となるのか?など事前に目的を整理することが、M&Aを成功させる為に必要不可欠であると言えます。
M&A戦略を立てる際に役立つフレームワークとして、以下2つご紹介します。
SWOT分析
自社における事業の状況を【内部環境】強み(Strength)、弱み(Weakness)、【外部環境】機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの要素に分解し、自社を取り巻く環境整理、成長戦略の方針を以下4つの観点より分析。
その戦略を実現するうえで、M&Aを活用すべきか、又はオーガニック成長(自社の経営資源のみでの成長)を図るのかを検討します。
① プラス要因を伸ばしていく戦略【強み×機会】
② マイナス要因を回避する戦略【弱み×機会】
③ 機会を活かす為に、弱みを克服する戦略【機会×弱み】
④ 強みを活かして脅威を切り抜く戦略【強み×脅威】
アンゾフの成長マトリクス
企業成長を図るうえでの方向性を、【製品】と【市場】の2軸に分け、それぞれ【既存】と【新規】に分類したうえで、戦略を立てるフレームワークです。
以下4つの戦略に分類したうえで、成長戦略を検討、M&Aを具体的に検討するうえでも役立つフレームワークです。
① 既存の製品及び既存の市場で成長を図る(市場浸透戦略)
② 新製品を既存市場に投入して成長を図る(新製品開発戦略)
③ 既存の製品を新規市場へ展開して成長を図る(新規市場開拓戦略)
④ 新製品を開発し、新たな市場に投入して成長を図る(多角化戦略)
まとめ
① 「後継者のいない会社」であっても魅力のある経営資源を有する会社は多く存在します。
② 「後継者のいない会社」が取れる選択肢は限られているため、「事業承継型M&A」は今後益々増加することが想定されます。
③ 成長戦略を実現するうえで、「後継者のいない会社」を買うことはメリットが大きい一方で、リスクも伴います。自社のM&A戦略を明確にすること、買収前にデューデリジェンスを実施することで、リスクを抑制することが可能となります。
株式会社リガーレは、多くの「事業承継型M&A」支援を手掛けております。M&Aご検討の方は、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆
シニアアドバイザー清水洋伸
専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等
大学卒業後、大手銀行に入行。
M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。