財務デューデリジェンスとは?M&Aにおける目的や調査内容を解説!
M&A(企業の合併・買収)は、企業成長や事業拡大の手段として重要な戦略の一つです。
しかし、その成功には「情報の正確な把握」が欠かせません。買収先の実態を正しく理解せずにM&Aを実行してしまうと、後になって想定外のリスクや損失を抱えてしまう恐れもあります。
そのために重要となるプロセスが「財務デューデリジェンス(Financial Due Diligence)」です。
本記事では、財務デューデリジェンスの概要や目的、具体的な調査内容、実施の流れ、そして注意点について、わかりやすく解説します。
なお、財務デューデリジェンスに限らず、デューデリジェンス全般については、こちらの記事(https://ligare.management-facilitation.com/contents/5126/#co-index-3)で解説していますので、併せてご覧ください。
財務デューデリジェンスとは
財務デューデリジェンス(財務DD)とは、M&Aを行うにあたり、対象会社(売り手企業)の財務情報を詳細に調査・分析するプロセスです。
買収側は、対象会社から開示された財務情報が正確かを調査することで、買収価格の適正性、財務リスクの有無の把握を行い、その結果をもとにM&Aにおける意思決定を行います。
簡単に言えば、買収側が対象会社を買収する前に、「この会社は本当に価値があるのか?」「想定していた利益が出るのか?」「将来的なリスクはないか?」といったことを把握するために行うものです。
また、財務デューデリジェンスは、公認会計士や税理士が行うのが一般的ですが、公認会計士または監査法人が行う「財務諸表監査」とは異なります。
財務諸表監査のように財務諸表の適正性について意見を表明するものではなく、目的や調査対象、実施する手続きなどが大きく異なるため、両者を混同しないようにしましょう。
公認会計士や税理士であっても、M&Aに関する財務・税務に精通しているとは限りません。
デューデリジェンスを依頼する場合は、M&A分野に詳しい専門家に依頼するよう注意が必要です。
財務デューデリジェンスの目的
財務デューデリジェンスは、以下のような目的で行われます。
財務の正確性を確認するため
対象会社の財務諸表は必ずしも正しいとは限りません。
中には、利益を過大に計上しているケースや、将来の支出が見えにくくなっているようなケースもあり、実態が決算書とはかけ離れている場合もあります。
財務デューデリジェンスでは、こうした財務数値の正確性、信頼性を検証します。
潜在的な財務リスクを洗い出すため
財務デューデリジェンスの大きな目的は、財務リスクを洗い出すことです。
M&Aの実施後に財務リスクが発覚することとなれば、買収側は大きなダメージを負うことになるため、M&Aを成功させるためには、事前にリスクを把握しておくことが重要となります。
具体的には、帳簿に載っていない債務(簿外債務)や、将来発生が予想される訴訟リスク、税務上の問題など、将来的に損害につながるリスクがないかを調査します。
企業価値を適正に評価するため
M&Aでは、企業の価値を数値化して買収価格を決定します。
財務デューデリジェンスによって得た情報は、適切なバリュエーション(企業価値評価)を行うためにも必要となります。
財務デューデリジェンスによる検出事項のうち、売上高の減少トレンド、潜在的な債務、製品の不具合等による製品補償といった影響額が定量化できる事項については、事業計画へ織り込む、もしくは株式価値に反映させることで、より適切な価格の算定に繋がります。
契約内容や条件交渉の材料とするため
M&Aの最終段階においては、財務デューデリジェンスの結果をもとに、買収可否の判断や契約の条件交渉等を行います。
財務デューデリジェンスによる検出事項のうち、定量化が難しい事項については、株式譲渡契約書へ反映することを検討します。
主に、特別補償、誓約時効(コベナンツ)、クロージングの前提条件、表明保証条項などを活用することとなります。
財務デューデリジェンスの流れ
財務デューデリジェンスの基本的な進行フローは以下の通りです。
ステップ1:専門家の選定、依頼
まず、財務デューデリジェンスを依頼する専門家を選定し、依頼します。
前述の通り、M&Aを得意とする専門家でなければ財務デューデリジェンスがうまく対応できない可能性もあります。
専門家によって、得意とする企業の規模、料金などもそれぞれ異なります。
まずは依頼したい事項を伝え、見積もりを提示してもらい、自社の希望に合う専門家を見極めましょう。
なお、M&Aのアドバイザーや仲介者がいる場合は、アドバイザーからデューデリジェンスの専門家を紹介してもらえることもあるため、相談することをおすすめします。
ステップ2:初期ミーティング(キックオフ)、スコープ・スケジュールの設定
買収側、売却側、アドバイザーなどが集まり、調査の目的やスケジュール、調査範囲(スコープ)を確認します。
調査範囲は企業の規模や取引の目的により異なりますが、M&Aを実施する目的から考え、調査項目の優先順位をつけ、スコープを絞ることも必要となります。
ステップ3:資料の開示・データルームの整備
対象会社から必要な資料(財務諸表、契約書、会計帳簿など)が開示され、一般的にオンラインで閲覧可能な「データルーム」にまとめられます。
資料内容によっては、デューデリジェンスに要する期間は変動する可能性があります。
ステップ4:調査の実施
公認会計士や税理士などの専門家が対象会社から開示された資料を精査し、分析を行います。
専門家は、資料で確認できなかった事項や追加で質問が必要な事項について、Q&Aを作成し、対象会社にヒアリングを行い、必要に応じ、現地調査を行う場合もあります。
ステップ5:マネジメントインタビュー
企業によって、経営者やキーマンに対するマネジメントインタビューを実施する場合があります。
マネジメントインタビューの目的は、経営者が対象会社について認識している課題やリスク、事業の将来性や運営状況など、定性的な情報をヒアリングし、理解を深めることです。
ステップ6:レポートの作成・報告
最終的に、調査結果をレポートにまとめ、依頼者である買収側の経営陣や関係者に結果を報告します。
このレポートが、M&Aにおける最終的な意思決定や契約交渉の土台となります。
財務デューデリジェンスの主な調査項目
財務デューデリジェンスでは、過去数年分の財務諸表を確認し、収益性、成長性、健全性等の分析を行います。ここでは代表的な分析項目をご紹介します。
1. 財務諸表の信頼性・整合性の確認
財務諸表を確認し、収益力や財務健全性などを評価することで、財務情報の信頼性を確保し、企業価値評価の前提を固めます。
対象
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュ・フロー計算書
- 株主資本等変動計算書
チェックポイント
- 会計基準に則って作成されているか(日本基準・IFRS等)
- 経常利益や営業利益に異常値がないか
- 月次/年次での変動の妥当性
- 内部資料と決算書の整合性
2. 売上・利益の構造分析
売上の主な構成要素、収益源の安定性、販管費や固定費の内訳などを分析し、継続的な収益力と将来の見通しを確認します。
対象
- 売上の内訳(商品別、顧客別、地域別、チャネル別など)
- 売上総利益率、営業利益率の推移
- 主力顧客の依存度
- 季節変動、キャンペーン、スポット案件の影響
チェックポイント
- 利益が安定しているか(単発の大型受注が利益を押し上げていないか)
- 売上が一部の顧客に偏っていないか
- 粗利の高い商品やサービスの比率はどれくらいか
3. 資産の実在性と評価の妥当性
資産の帳簿価額が実態を反映しているかを検証します。
対象
- 売掛金、未収入金
- 棚卸資産(在庫)
- 固定資産(建物、機械設備など)
- 繰延資産、のれん、ソフトウェア資産
チェックポイント
- 売掛金に長期未回収がないか/貸倒引当金の設定が適切か
- 棚卸資産に陳腐化・滞留品がないか
- 固定資産の減価償却が適切に行われているか
- 無形資産(ソフトウェアなど)の償却や評価に無理がないか
4. 負債・債務の確認とリスクの洗い出し
将来発生する可能性のある費用(債務)を確認し、財務リスクを把握します。
対象
- 借入金(短期・長期)、リース債務
- 買掛金、未払金
- 引当金(賞与、退職給付、修繕費など)
- 簿外債務(保証債務、契約外の責任)
チェックポイント
- 借入金の返済スケジュールや担保の有無
- リース取引の資産計上漏れ
- 未払費用・債務が漏れていないか
- 引当金の計上基準が会計基準に適合しているか
5. キャッシュフローと資金繰りの状況
M&A後に資金不足に陥るリスクがないかを判断します。
対象
- 営業キャッシュフロー
- フリーキャッシュフロー
- 過去の資金繰り表
- 銀行との取引状況
チェックポイント
- 利益とキャッシュが連動しているか(利益≠キャッシュに注意)
- 借入で無理に資金を回していないか
- 資金ショートのリスクはないか
- 金融機関との関係性(融資枠、借換状況)
7. 関係会社・関連当事者取引の状況
特定の人物や企業に有利な構造になっていないかを確認します。
対象
- グループ会社間の取引
- 役員や親族との取引(役員報酬、貸付など)
チェックポイント
- 時価と乖離した取引(不透明な内部取引)がないか
- 関連当事者との資金の出入り
- 取引が実質的に誰の意思で動いているか
財務デューデリジェンスを実施する際の注意点
ここでは、財務デューデリジェンスを行う際に注意すべきポイントを紹介します。
1. 情報漏洩に注意する
M&Aを進めるにあたり、契約が完了するまでは、従業員にはM&Aを行うことは開示せずに進めるのが一般的です。
売り手企業に関する未公開情報が外部に漏れると、売り手企業の株価に影響が出たり、従業員や取引先からの信用を失う可能性があるためです。
また、対象会社から開示される情報には機密情報が含まれているため、取り扱いには細心の注意が必要です。
2. 範囲と深さのバランスをとる
調査の範囲が広すぎると時間とコストがかかります。
一方で、浅すぎると重要なリスクを見落とす可能性があります。M&Aの規模や目的に応じて、最適なバランスを取りましょう。
3. 他のデューデリジェンスと連携する
財務以外にも、法務、ビジネス、税務、人事など様々なデューデリジェンスがあります。
それぞれの結果を統合して、全体的な判断を下すことが重要です。
4. 買収後を見据えた視点を持つ
財務デューデリジェンスは「今の状態」だけでなく、「今後どうなるか」も見極めるプロセスです。
買収後の統合(PMI)を見越して、財務の改善余地やシナジー効果も分析しましょう。
まとめ
財務デューデリジェンスは、M&Aを成功に導くうえで欠かせないプロセスです。
企業の財務情報を深く掘り下げることで、リスクを最小限に抑え、適正な企業価値を見極めることができます。
初めてM&Aを検討する企業にとっては、専門的な部分も多いため、信頼できる専門家(M&Aアドバイザー)と連携しながら進めることが重要です。
企業の未来を左右するM&A、財務デューデリジェンスをしっかりと行うことで、後悔しない意思決定を支えましょう。
弊社では、デューデリジェンスの中でも案件特性に関わらず重要度の高い「財務デューデリジェンス」と「税務デューデリジェンス」のサービスを提供しています。
財務税務デューデリジェンスをご検討の際は、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆

シニアアナリスト堀内槙
専門領域:株式価値算定、財務・税務DD、統合後の事業計画の策定等
地方銀行入行後、支店での窓口業務、融資事務、運用商品の提案サポートを経て、M&A本部に異動。主にバックオフィスとして、M&Aに関する提案書の作成、契約書の草案作成、法務チェックに加え、累計数百件を超える株式価値算定の経験を持つ。