訪問看護業界のM&A動向とM&A事例

訪問看護業界のM&A動向とM&A事例

訪問看護業界は、高齢化の進行や在宅医療の推進などを背景に、今後さらに市場の拡大が見込まれています。

しかし、訪問看護業界は小規模事業者が多く、人材不足や経営の効率化といった課題も浮き彫りになっています。

こういった状況で、訪問看護事業者は戦略的にM&Aを検討するケースも増えています。

本記事では、訪問看護業界におけるM&Aの動向や、M&Aを進める際のポイントなどを詳しく解説します。

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訪問看護とは

訪問看護とは、看護師等が病気や障害のある利用者の家庭に訪問し、療養上の世話や必要な診療の補助を行うサービスを指します。

利用者本人や家族の思いに沿った在宅療養生活の実現に向けて、健康の維持・回復等、生活の質の向上ができるよう、予防から看取りまでを支えるものです。

訪問看護のサービス提供者は、病院・診療所または訪問看護ステーションに大別され、それぞれ看護人材の人員に関する基準が定められています。

訪問看護ステーションの職員としては、看護師が約6割を占めるほか、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、保健師、助産師等が在籍しています。

利用者は年齢や疾患、状態によって、医療保険又は介護保険のいずれかが適用となります。

訪問看護業界の現状

ここでは訪問看護業界の現状や課題について詳しく解説します。

訪問看護ステーションの需要

日本の訪問看護業界は、高齢化の進行に伴い、市場が拡大し続けており、介護・看護需要への対応が急務となっています。

日本の高齢化は今後も急速に進み、高齢化率は2023年10月時点で29.1%、2065年には37.9%となると推計されています。

65歳以上の高齢者人口は、2043年に3,953万人でピークを迎えると予想されています。

また、厚生労働省の公表資料によると、2022年の日本における訪問看護利用者数は、要支援、要介護合わせて約69万人となっており、年々増加しています。

(出典)厚生労働省 社会保障審議会資料

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123919.pdf

国としては在宅医療を推進しており、今後も利用者の増加が見込まれます。

訪問看護の市場規模、事業所数の推移

医療保険および介護保険の訪問看護を行う訪問看護ステーションの数は、2008年以降増加し続けており、2008年と比べると2倍以上に増加しています。

一方、介護保険の訪問看護を行う病院・診療所の数は減少傾向にあります。

(出典)厚生労働省 社会保障審議会資料

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123919.pdf

下図は平成29年及び令和3年の都道府県別の訪問看護ステーション数を表しています。平成29年から令和3年までの5年間で、すべての都道府県において増加しており、特に都市部での増加が著しくなっています。

(出典)厚生労働省 社会保障審議会資料

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123919.pdf

訪問看護ステーションの経営状況と課題

前述の通り、訪問看護ステーションの事業所数は年々増加しています。

これは、高齢化の進行により需要が高まっていること、設備投資が少ないこと、人員配置基準の人員数が少ないことなどから、新規参入しやすいという要因が考えられます。

また、訪問看護ステーションの経営状況は、厚生労働省の「令和5年度介護事業経営実態調査結果」によると、税引前収支差率(コロナ補助金を含まない)の平均は5.9%で、前年比マイナス1.3%と悪化しています。

平均の収支差率はプラスではあるものの、事業所数の増加により競争が激化している地域もあり、経営改善が必要となっている事業所も多いと考えられます。

また、2024年度には介護報酬と診療報酬のダブル改訂が行われました。

「地域包括ケアシステムの推進」、「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」、「制度の安定性・持続可能性の確保」といった背景から、介護報酬の改定率は+1.59%、診療報酬の改定率は+0.88%といずれもプラス改訂となりました。

これにより、新規参入の増加や既存の事業所の新たなエリアへの進出による競合の増加が考えられます。

また、いずれの改訂においても、増加分の6割以上が賃上げに充てられており、高い給与を提示する事業所が増える可能性もあり、さらに人材の獲得競争が激化することが想定されます。

訪問看護業界におけるM&A活用のメリット

訪問看護業界において、M&Aを活用する場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

後継者問題の解決

経営者が高齢になり、後継者がいない場合でも、M&Aを活用することで廃業を回避し、事業を存続させることができます。

従業員の雇用継続

M&Aにより従業員の労働環境を守り、雇用を継続することが可能です。

利用者へのサービスの継続

M&Aにより事業が引き継がれれば、利用者が引き続きサービスを受けることができます。

ブランド力、信用力の向上による経営の安定

大手の介護事業者の傘下へ入る場合、経営の安定化を図ることができます。

また、大手のブランド力により、人材の採用が有利に行える可能性もあります。

買手側のメリット

訪問看護ステーションの拡充、事業の拡大

高齢者の増加により、訪問看護ステーションの需要が高まっているなか、訪問看護ステーションを増設したい、または介護事業者が新たに事業の柱として追加したいといった場合は多くみられます。

M&Aを活用することで、自社で訪問看護ステーションの新設や新規事業の立ち上げを行うよりも、迅速かつ効率的に事業規模の拡大が可能です。

看護師、保健師などの人材獲得

訪問看護ステーションは参入障壁が低いため、事業者数は増加している一方で、看護師や保健師などの職員の確保が難しい傾向があります。

そのような専門人材を確保することを目的の一つとするM&Aも多く見受けられます。

シナジー効果の創出

訪問看護事業と親和性の高い介護事業などが既存事業である場合、既存事業とのシナジーにより、収益性、サービスの品質などの向上が期待できます。

訪問看護のM&A事例

ここでは、訪問看護業界のM&A事例を紹介します。

【事例①】㈱ARIAによる訪問看護ステーション縁の訪問看護事業の事業譲受

大阪府と兵庫県で「NewGate訪問看護ステーション」(以下、NewGate)を運営する㈱ARIAは、2024年9月1日、訪問看護ステーション縁(えにし 以下、縁)が運営する訪問看護事業を事業譲受しました。

縁は2023年に看護師の代表者により開設されましたが、代表者が経営者としての未熟さを痛感したことから事業譲渡を検討するに至りました。

㈱AKIRAは、人材不足で苦しむ小規模事業者を廃業させず、M&Aすることで地域医療に貢献したいとの思いから、事業譲受を決定されました。

【事例②】介護事業等の㈱ツクイによる訪問看護・訪問介護・福祉用具貸与・医療施設型ホスピス展開の㈱ゆいゆいの買収

㈱ツクイは、2024年1月31日に沖縄県にて訪問看護・訪問介護・福祉用具貸与・医療施設型ホスピス2か所を展開する㈱ゆいゆいの株式を取得し、完全子会社化しました。

㈱ツクイは、全国的にデイサービス、在宅介護サービスなどを展開しており、本M&Aにより、ゆいゆいと連携を図り、在宅で介護を受けていた利用者が、医療的療養が必要となった場合でも必要なサービスをワンストップで提供できる体制を構築し、医療サービスならびにホスピス事業の拡大させていきたいと考えています。

【事例③】セントケア・ホールディング(2374)による㈱ミレニアの買収

2017年4月、セントケアHDは、訪問看護事業を主業とする㈱ミレニアの全株式を取得し、子会社化しました。

セントケアHDグループは、在宅介護サービスを中心とする介護事業を展開しています。

ミレニアは、東京都内において訪問看護事業所を9か所運営している会社です。

ミレニアは債務超過に陥っていたものの、収益は改善傾向にあり、セントケアHDは、グループ内での連携やノウハウの共有などにより、長期的にグループの企業価値向上に貢献するものと判断し、本M&Aに至ったようです。

訪問看護業界でM&Aを行う際のポイント

訪問看護業界でM&Aを行う際の注意点、ポイントを解説します。

売手側のポイント

自社の経営状況や強みの把握、事業成長の実現

M&A時に買い手側から会社や事業を高く評価してもらうためには、経営状況を把握し、問題点はできる限り解決し、強みを強化しておくことが大切です。

また、M&A後に、買い手側が一層の事業成長の実現が期待できるか否かが重要なポイントとなります。

期待できる買手であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。

また、事業成長の実現が図れることは従業員の処遇改善や取引先の成長にもつながることが期待できます。

専門家のサポート

M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。

M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

買い手側のポイント

法的規制の遵守

訪問看護事業は健康保険法、介護保険法などの規制下にあり、人員や運営に関する基準が定められています。

M&Aを行う際は、このような法規制を遵守し、必要な許認可の継続性を確保する必要があります。

買収後に法令違反が発覚した場合、事業停止処分を受ける可能性もあります。

M&Aの実行前には、デューデリジェンスを行い、コンプライアンスのチェックをすることが重要となります。

人材の流出の防止

訪問介護業界におけるM&Aの買手側のメリットとして、看護師や保健師などの人材を包括的に獲得できることが挙げられます。

しかし、M&Aの実行後、従業員とのコミュニケーション不足や待遇面での配慮が欠けていたといったことが原因で、従業員が退職してしまい、サービスの提供が困難になる場合も考えられます。

訪問看護事業は人材への依存度が高い事業であるため、質の高い看護師などの職員の流出を防ぐことが重要です。

そのためには、従業員への丁寧な説明やPMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。

キーマンとの事前面談や従業員への説明のタイミングについては、売り手側やアドバイザーと相談しながら慎重に進めるようにしましょう。

まとめ

訪問看護業界のM&Aをお考えの際は、売却・買収いずれの立場であってもM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の選定や探索、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、訪問看護業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンス、セカンドオピニオンのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアナリスト堀内槙

専門領域:株式価値算定、財務・税務DD、統合後の事業計画の策定等

地方銀行入行後、支店での窓口業務、融資事務、運用商品の提案サポートを経て、M&A本部に異動。主にバックオフィスとして、M&Aに関する提案書の作成、契約書の草案作成、法務チェックに加え、累計数百件を超える株式価値算定の経験を持つ。

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