不動産仲介業のM&A動向と最新事例
不動産業界は、不動産の売買・賃貸・管理や仲介等を行う企業群を指します。
不動産業に関する業務内容は幅広く、事業者の規模も大手企業から中小企業、個人事業主など多岐にわたります。
また、異業種の企業が一部不動産業を行うケースや、異業種からの新規参入も多く、M&Aでの買収において人気の業種でもあります。
この記事では、不動産業界のうち、不動産仲介業のM&A動向や実施するメリット、具体的なM&A事例などを紹介します。
不動産仲介業とは
まずは、不動産仲介業の定義や特徴について解説します。
不動産仲介業の定義
不動産業の分類
出典:総務省「日本標準産業分類」
上表は総務省の「日本標準産業分類」による不動産業の分類を表したものです。
不動産業は大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分けられます。
不動産仲介業は、不動産の売買や賃借などの取引において、不動産のオーナーと買主、借主を仲介(媒介)することにより報酬を得る事業を指します。
不動産仲介業は、宅地建物取引法に基づき、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けなければ事業を営むことができません。
また、各事業所の従事者の5分の1以上は宅地建物取引士国家資格保持者でなければならず、重要事項の説明など不動産仲介の主な業務は宅地建物取引士が行う必要があります。
不動産仲介業は、賃貸アパートやマンションの仲介を専任する事業者や、事業用建物や商業施設など、大規模な建物の売買を行う大手事業者まで、事業者の規模も多岐にわたります。
不動産適正取引推進機構(RETIO)によると、2022年度末時点で宅建業者数は前年度比+0.9%の129,604業者で、9年連続で増加が続いています。
そのうち従業者5人未満の事業者数は109,019業者と全体の84.1%であり、小規模事業所が圧倒的に多い構造となっています。
不動産仲介業の商流
不動産仲介業のビジネスモデルは、不動産の買主と売主、または貸主と借主をマッチングし、双方から手数料を受け取るものです。
報酬額は、宅地建物取引業法で上限価格が設定されています。国土交通省によると、売買又は交換の媒介・代理の依頼者の一方から受けることのできる報酬額は、売買の代金又は交換に係る宅地又は建物の価額に応じて、一定の割合を乗じて得た金額を合計した金額以内とされています。また、賃貸借の場合は、賃料の1.1ヶ月分以内(居住用の場合は基本的に貸主と借り主の双方から0.55ヶ月分以内、承諾がある場合はいずれか一方から1か月分以内)とされています。(下表参照)
報酬額の上限の算定方法
物件価格等 | 報酬限度 |
200万円以下の部分 | 5.5% |
200万超400万円以下の部分 | 4.4% |
400万円超の部分 | 3.3% |
賃貸契約 | 0.55か月分 |
出典:国土交通省資料を基にリガーレ作成
不動産仲介業界の現状
経済構造実態調査によると、2022年の不動産代理業・仲介業の年間売上高は約4.4兆円でした。
また、公益財団法人不動産流通推進センターの統計によると、2021年度の売買物件の新規登録件数は約126万件、成約報告件数は約19万件、賃貸物件の新規登録件数は約340万件でした。
2019年度にデータの集計範囲が変わったため前年のデータとの比較はできませんが、2018年度まで売り物件の新規登録件数は増加、賃貸は横ばい傾向に続き、それ以降はコロナ禍の影響を受けて減少傾向となっています。
2021年度の売り物件の新規登録件数は引き続き減少しましたが、賃貸件数は回復しています。
不動産仲介業界が抱える課題
次に、不動産仲介業界の課題について解説します。
人口減少による需要の低下、地域格差の拡大
少子高齢化が進行し、65歳以上の高齢者の割合が増える一方で生産年齢人口(15歳~64歳)の割合は減少し続けています。
不動産仲介業の主要顧客は生産年齢人口に属する人々であり、結婚や出産といったライフステージの変化に伴い発生することが多く、生産年齢人口の減少は不動産仲介業にとって大きなマイナス要素と言えます。
地域別に見ると、地方では少子高齢化に加え、人口の都市部への流出、過疎化の流れがあり、需要の低下が懸念されます。
その1つの兆候として、空き家率の増加が挙げられます。2023年10月時点の住宅・土地統計調査によると、国内の住宅総数に占める空き家の割合は過去最高の13.8%、空き家の数も899万戸と過去最多となっており、景観・環境の保全や防犯、倒壊などの事故防止といった観点からも問題視されています。
サービス産業の生産活動量を示す第3次産業活動指数の動向(下図)を見ると、不動産代理業・仲介業の活動指数は2014年の消費税増を機に一時下落した後、おおむね上昇傾向を示してきましたが、2019年には減少に転じ、さらに2020年には新型コロナウイルスの影響により、さらに大きく減少しました。
なかでも、住居賃貸仲介の活動指数は、2013年から減少傾向を示しており、2019年には大幅に低下しました。
こうした傾向には少子高齢化による人口減少の影響がすでに現れている可能性が考えられます。
不動産取引業の内訳系列の動向
出典:経済産業省「第3次産業活動指数」
(https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20200826hitokoto.html)
後継者の不在
少子高齢化が進み、後継者不在の課題を抱える企業は非常に多くなっています。
2023年の全国「後継者不在率」動向調査によると、企業の後継者不在率は全国・全業種平均で53.9%と、減少傾向にはあるものの、依然として高い水準です。
なお、不動産業においては平均と同程度の水準(54.5%)となっています。
中小企業におけるM&Aの普及や事業承継税制の拡大などにより、後継者不在率は低下しつつありますが、未だ事業承継や後継者の育成に課題を抱えている企業は少なくありません。
不動産テック市場の拡大
近年、不動産テックの市場が急速に拡大し、注目を集めています。
不動産テックとは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと」です。
閉鎖的な状態が続いてきた不動産業界において、オープンデータやビッグデータなどを活用し、不動産の取引、評価、業務などを変革する技術が誕生しています。
2021年ではデジタル改革関連法が施行され、2022年5月から不動産取引の電子契約が解禁されました。
このような技術革新や法改正により、今後のビジネスモデルの変化が期待されます。
競争が激化している不動産業界において、不動産テックの導入や活用にかかる対応力の差は、業界再編の促進要因になるとも考えられます。
不動産仲介業界におけるM&A動向
近年、以下のような理由から、不動産仲介業界やその周辺業種におけるM&Aが非常に活発になっています。
これらの理由については前述の課題にも挙げていた通りですが、事業拡大や競争力の強化を目指したM&Aが増加しています。
- 人口減少や地域格差などによる需要の低下
- 後継者不在
- 不動産テック市場の拡大による競争の激化
また、帝国データバンクが2019年に実施した意識調査によると、近い将来(今後 5 年以内)における自社の M&A への関わり方について、『M&A に関わる可能性がある』(「買い手となる可能性がある」「売り手となる可能性がある」「買い手・売り手両者の可能性がある」の合計)企業は 35.9%という結果となっており、 小規模の企業でもM&Aに前向きな企業が多くなっています。
下図の通り、M&Aに関わる可能性があると回答した不動産業者は38.6%で、全業種平均よりやや高く、とくに買いの意向のある企業の割合が他の業種より高くなっています。
出典:帝国データバンク「M&A に対する企業の意識調査」
小規模事業者が多数を占める不動産業界において、中長期的なニーズの低下や競争の激化が進んでいることもあり、大手・中堅事業者による中小事業者の買収は、今後さらに活発化すると予想されており、意識調査の結果もそれが反映されているものと考えられます。
不動産仲介業界におけるM&A活用のメリット
不動産仲介業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。
売り手側のメリット
・後継者問題の解決
・会社の存続
・従業員の雇用の継続
・個人保証・担保の解消
・創業者利益・売却益の獲得
買い手側のメリット
・不動産の獲得
・節税効果が高い
・周辺領域への進出、事業領域の拡大
・新規エリアへの進出
・顧客ごと譲受可能
不動産仲介業界のM&A事例
ここでは、不動産仲介業界の最近の事例をご紹介します。
不動産仲介業6社の経営統合による飯田グループホールディングスの誕生
2013年11月、不動産仲介業を営む、タクトホーム、アーネストワン、アイディホーム、東栄住宅、一建設、飯田産業の6社が経営統合し、共同持株会社である飯田グループホールディングスが誕生しました。
経営統合後は、6社の既存事業である戸建て・分譲マンション・注文住宅などを展開し、仕入れコストの削減や業務の効率化などのシナジーが実現しました。
今後もこのような不動産仲介業同士の経営統合などの事例は増えていくことが予想されます。
大東建託による不動産仲介・不動産信託受益権仲介事業を展開するライジング・フォースの買収
大東建託(東証プライム:1878)は、建設・不動産会社であり、賃貸管理、仲介において業界トップ、賃貸住宅の建築請負から一括借り上げを行う「賃貸経営受託システム」で圧倒的な存在感を持っています。
大東建託グループは、コアビジネスの強化を含めた生活総合支援企業となることを目指す中で、自社開発・買取リノベ再販事業の拡大が重要課題であり、大口不動産投資家とのリレーションを持ち、かつ大東建託グループが対応していない不動産信託受益権売買仲介も行っているライジング・フォースとの協業は高いシナジーをもたらすとの考えから、本M&Aの実行に至りました。
不動産仲介業界でM&Aを行う際のポイント
不動産業の中でも宅地建物取引業者である不動産仲介事業者のM&Aを行う場合は、以下のような点に確認が必要です。
宅地建物取引士の人数
不動産仲介業を営むには、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けた宅地建物取引業者である必要があります。
宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法と国土交通省令によって、事務所ごとに従業員5人に1人以上の割合で専任の宅地建物取引士(宅建士)を設置することが義務付けられており、宅建士の人数が不足してしまうと、事業を営むことができないため、注意が必要です。
個人経営の事業所や小規模な事業所では、経営者が宅建士である場合も多く、宅建士が経営者のみであれば、M&Aで買収しても、宅建士の人員不足により営業ができなくなることがあります。
M&Aを実施する前に、売手の従業員数を確認すると共に、宅建士の数や継続して雇用できるかを確認しておくことが肝要です。
宅地建物取引業者の免許更新回数
宅地建物取引業の免許は、1つの都道府県内で営業する事業者は都道府県知事発行の免許、都道府県をまたいで営業する事業者は国土交通大臣発行の免許となり、どちらも5年ごとの更新が必要となります。
例えば東京都だけで営業する場合は「東京都知事(1)第◯◯◯◯号」、国土交通大臣発行のものは「国土交通大臣(1)第◯◯◯◯号」と表記された免許が発行され、宅地建物取引業者は発行された免許を事業所内に掲示することが義務付けられています。
免許の()内の数字は更新回数を表しており、この数字は、M&Aで買収しても変わりません。
更新回数の数字が大きいと、業歴が長く、信用力の高い会社だという評価を得やすい傾向がありますので、この数字はM&Aでの買収先を選ぶ際の確認要素の1つです。
なお、個人事業者が法人成りした際や、都道府県知事免許を国土交通大臣免許に切り替えた際などは数字が(1)に戻ります。更新回数と事業年数が一致しないこともあるため、確認が必要です。
まとめ
不動産仲介業の会社の売却などをお考えの際は、まずはM&Aの専門家へ相談しましょう。
専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。
会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。
リガーレは、不動産仲介業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆
シニアアナリスト堀内槙
専門領域:株式価値算定、財務・税務DD、統合後の事業計画の策定等
地方銀行入行後、支店での窓口業務、融資事務、運用商品の提案サポートを経て、M&A本部に異動。主にバックオフィスとして、M&Aに関する提案書の作成、契約書の草案作成、法務チェックに加え、累計数百件を超える株式価値算定の経験を持つ。