アーンアウトとは?M&Aで活用する場合のメリット・デメリットを解説!

「M&Aの買収価格って、どうやって決まるの?」
そんな疑問を持ったことはありませんでしょうか?実は、M&Aでは買収時にすべての金額が確定するとは限りません。
将来の業績に連動して価格が決まる「アーンアウト」という手法が使われることがあります。
この記事では、アーンアウトの仕組みや活用の背景、メリット・デメリットを初心者にもわかりやすく解説します。
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アーンアウトとは?
アーンアウトは、M&A取引における価格調整手法のひとつで、買収後の一定期間の業績に応じて、売却価格の一部を変動させる仕組みです。
買収時に一部の代金を先払いし、残りを業績目標の達成状況に応じて後払いします。
たとえば、ある企業Aが企業Bを10億円で買収する場合、まず7億円を契約締結時に支払い、残りの3億円は、今後3年間の売上や利益目標を達成した場合に支払う、といった形です。
アーンアウトの目的と背景
アーンアウトが活用される背景には、以下のような課題がある場合に活用されます。
1.売手と買手で企業価値の評価が異なる
2.将来の業績が不透明でリスクがある
3.売手がM&A後も経営に関与する場合、インセンティブが必要
アーンアウトはこれらの課題を柔軟に調整する方法として利用されます。
アーンアウトのメリット・デメリット
ここでは、売手・買手双方のメリット・デメリットについて解説します。
売手側のメリット
1.将来の業績を反映した高値が期待できる
現時点では十分な利益が出ていなくても、将来的に成長が見込まれる場合、アーンアウトを利用することで、企業の将来価値を売却価格に反映させることができる。
2.企業に対する自信を示せる
「業績が出る自信がある」と買い手にアピールでき、価格交渉を有利に進められる場合がある。
3.業績目標の達成が報酬に直結する
M&A後も一定期間経営に関与する場合、自身の努力によって報酬(アーンアウト対価)を得られるインセンティブになる。
売手側のデメリット
1.業績未達で報酬が減るリスク
想定していた業績を達成できない場合、アーンアウト分の報酬を得られず、実質的な売却価格が下がる可能性がある。
2.コントロール権を失う中での業績責任
M&A後、買手が経営判断の主導権を握る場合、売り手の努力ではコントロールできない要素で業績が左右されることがある。
3.業績評価基準のあいまいさによる紛争リスク
指標の定義が曖昧だと、買手と評価をめぐるトラブルが発生することがある
(例:利益の計上タイミングや経費配分など)。
買手側のメリット
1.リスク分散と支払額の適正化
アーンアウトを使えば、将来の業績次第で支払額を変動させることができ、過大な買収リスクを回避できる。
2.初期コストを抑えられる
買収時に全額を支払う必要がないため、資金負担を分散でき、キャッシュフロー管理上も有利になる。
3.売手の業績向上意欲を引き出せる
売手が引き続き経営に関与するケースでは、アーンアウトがモチベーションの維持・向上につながり、業績改善が期待できる。
買い手側のデメリット
1.複雑な契約設計が必要
業績指標や算定方法、支払条件などを詳細に定める必要があり、交渉・契約コストがかかります。
2.売り手との利害対立の可能性
「業績を達成させてアーンアウトを得たい売り手」と「過度な支払いを抑えたい買い手」で目的がずれると、摩擦が生じやすくなる。
3.経営判断が制約される可能性
売り手のアーンアウト達成のために、短期業績を優先せざるを得なくなり、長期的な戦略が取りづらくなることがある。
視点 | メリット | デメリット |
売手 | 1.将来価値を価格に反映できる 2.報酬アップのチャンス 3.経営参加のインセンティブになる | 1.業績次第で報酬減 2.経営のコントロールを失う可能性 3.契約不備による紛争リスク |
買手 | 1.支払額の調整でリスク低減 2.初期支出の抑制 3.売り手のモチベーション維持 | 1.契約が複雑化しやすい 2.利害対立の懸念 3.戦略の自由度が下がる可能性 |
アーンアウトの活用事例
以下に、具体的な活用事例を3つご紹介します。
スタートアップ買収におけるアーンアウトの活用
スタートアップ企業は将来の成長性は高いものの、現時点では売上や利益が安定していない場合が多く、企業価値の評価が難しい傾向にあるため、アーンアウトを活用するケースがあります。
現在の実績ベースで一定金額を支払い、残りは将来的な売上や利益成長に応じて段階的に支払うというものです。
例)
ITスタートアップの買収で、売上が年1億円の状態だが、AIプロダクトの拡大で今後急成長が見込まれている。
→初期支払いは3億円。今後3年間で売上が10億円を超えた場合は、さらに最大5億円を追加で支払う。
オーナー企業の事業承継型M&Aでのアーンアウト活用
中小企業のオーナーが引退を目的に会社を売却する場合、事業の安定性を維持しながら買収を進める必要があります。
オーナーが一定期間経営に関与し、引き継ぎを進める期間中の業績を目標に設定し、段階的に支払額を確定させる。
例)
製造業のオーナーが後継者不在のために会社を売却。
オーナーは2年間顧問として関与し、期間中の利益が維持されれば追加報酬を受け取る。
→ 初期支払いは5億円。2年間の平均営業利益が1億円以上であれば、さらに2億円のアーンアウトを支払う。
海外企業の買収におけるアーンアウト活用
海外市場に初進出する企業が現地企業を買収する際、現地市場の不透明さからフルリスクを負うことが難しい。
一定の実績が出るまでは保守的な買収価格とし、現地法人が業績を安定させた段階で追加支払いを行う。
例)
日本企業が東南アジアのEC事業者を買収。
現地市場の変動リスクを踏まえ、最初に6億円を支払い、3年間で売上50%成長・EBITDA黒字化が達成された場合に、最大4億円を追加支払い。
アーンアウトを活用する際の留意点
このように、M&Aにおいてアーンアウトは非常に有効な手法です。しかしながら、契約設計を誤ると大きなトラブルの原因にもなりかねません。
以下では、アーンアウトを活用する際に特に注意すべき7つの重要な留意点を詳しく解説します。
1.業績評価指標の明確化
アーンアウトの金額は、将来の業績に連動して支払われるため、「何をもって成果とするか」が曖昧だと争いの原因になります。
「売上高」か「営業利益」か、「EBITDA」かなど、明確な定義を事前に決定する必要があります。
2.経営権と意思決定のバランス
アーンアウト期間中、売り手(旧経営陣)は業績目標の達成に責任を持ちますが、経営の実権が買い手に移ってしまうと目標達成が困難になる可能性があります。
そのため、売り手が継続して業務執行に関与する契約や、合意なしに重要な意思決定(予算変更、主要メンバーの異動など)を行えない条項を設けるなどの対応が有効です。
3.アーンアウト期間の設定
アーンアウトの期間が短すぎると成果が出る前に終了してしまい、一方で長すぎるとリスクが高まります。
一般的には1~3年が目安とされています。短期でKPIが見えやすいビジネスなら1年、R&D型ビジネスでは3年以上というケースもあります。
4.客観的かつ検証可能な算定方法
将来の支払い額に直結するため、恣意的な会計操作や解釈の違いが起こるリスクがあります。
算定式を契約書に明記すること(「営業利益 × 1.5 – 固定費控除」など)や、必要であれば第三者の会計士によるレビューを規定することも有効です。
5.アーンアウト金の支払方法とタイミング
いつ・どうやって支払われるかが曖昧だと、支払いの先延ばしや条件変更のリスクがあります。
主な支払い方法としては、現金払い(定期支払)、株式報酬(ストックオプション含む)、役員報酬として分割払いなどがあります。
税務面への影響も踏まえた上で設計することが重要です。
6.税務・法務上の取り扱い
アーンアウトの支払が「譲渡対価」か「給与」かによって、課税関係が大きく異なります。
具体的なリスク譲渡所得扱いなら20%前後の税率だが、給与所得扱いとされると最大55%の課税も。税理士や専門アドバイザーと協議し、明確に契約上の区分けをする必要があります。
7.不測の事態への備え
M&A後に事業環境が変化したり、外部要因(自然災害、法規制変更等)で目標達成が困難になることもあります。
そういった場合に備えて、フォースマジュール条項を設定することがあります。
「フォースマジュール(force majeure)」とは、不可抗力条項とも呼ばれる、契約上の重要な概念です。
日本語では「不可抗力」や「不可抗力事由」と訳されることが多いです。
自然災害や予測不能な事態によって、契約義務の履行が不可能・困難になった場合に、当事者の責任を免除する条項です。
アーンアウト契約では、将来の業績が支払いの根拠となるため、フォースマジュールによって事業環境が大きく変化した場合に、売り手が目標を達成できなかったとしても「売り手の責任によらない不可抗力」として一部アーンアウト支払いの救済を受けられる場合があります。
まとめ
アーンアウトは、M&Aにおける価格とリスクを調整する柔軟な手法です。
適切に設計すれば、売手・買手双方にとってメリットの大きい取引が可能になります。
しかし、その一方で業績評価の曖昧さや利害対立によるトラブルのリスクも存在します。
アーンアウトを導入する際は、専門家の助言を得ながら、慎重に検討・設計することが重要です。
弊社リガーレでは、M&Aアドバイザリー、財務・税務デューデリジェンス、セカンドオピニオンとして、バイアウトに関するご支援も提供しております。
是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆

シニアアドバイザー田澤脩平
専門領域:M&Aアドバイザリー、Projection、Valuation策定等
メガバンクに入行、中小零細から上場まで幅広い企業への法人営業に従事。その後、国内大手アドバイザリーファームにて、会計事務所のネットワーク開拓に加え、多数のM&A案件に携わる。事業会社へ転職後は自社のM&A専任者として、企業の買収・売却を実施。アドバイザリー、買手、売手の3つの面からM&Aに携わってきた経験を持つ。