ホテル・旅館業界のM&A動向と最新事例

ホテル・旅館業界のM&A動向と最新事例

ホテル・旅館業界とは

まずは、ホテル・旅館業の定義や種別について解説します。

ホテル・旅館業界の定義

旅館業とは旅館業法において「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。旅館業は「人を宿泊させる」ことであり、生活の拠点を置くような場合、例えばアパートや間借り部屋などは貸室業・貸家業であって旅館業には含まれません。また、「宿泊料を受けること」が要件となっており、宿泊料を徴収しない場合は旅館業法の適用は受けません。

厚生労働省HPより引用
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130600.html

ホテル・旅館業の種別

旅館業には旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業の3種類があります。

  • 旅館・ホテル営業

施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの

  • 簡易宿所営業

宿泊する場所を多人数で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、下宿以外のもの

  • 下宿営業

施設を設け、1月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業

ホテル・旅館業界の市場推移

次に、ホテル・旅館業界における市場推移、コロナ禍による影響と回復動向について解説します。

日本人国内旅行者の市場推移

図:日本人国内旅行消費額の推移

出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」

観光庁「旅行・観光消費動向調査」によると、2023年、国内におけるホテル・旅館等への宿泊を伴う旅行の日本人国内旅行消費額は17兆7,660億円(前年比29.4%の増加)となり、コロナ禍前の2019年比においても3.6%の増加となりました。

コロナ禍の2020年以降は、外出自粛制限に伴う国内旅行需要の大幅な減少や入国制限により市場も大幅に縮小しましたが、アフターコロナとなった2023年には見事にV時回復、自粛の反動からかコロナ禍前の水準をも上回る消費額となりました。

訪日外国人旅行者の市場推移

図:訪日外国人旅行者の年間推移

出典:国土交通省 観光白書 令和5年版

訪日外国人旅行者数は、2019年(令和元年)までは、ビザの戦略的緩和や訪日外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充、CIQ 3 体制の充実といった施策を進めるとともに、航空・鉄道・港湾等の交通ネットワークの充実、多言語表記をはじめとする受入環境整備、魅力的なコンテンツの造成、日本政府観光局等による対外プロモーション等により、過去最高を更新していましたが、2020年(令和 2年)及び2021年(令和3年)の訪日外国人旅行者数は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、水際措置の強化の継続などにより、年間を通じて大きく減少しました。2022年(令和4年)の訪日外国人 旅行者数は、6月の外国人観光客の受入再開後、10月の入国者数の上限撤廃、個人旅行の解禁、 ビザなし渡航の解禁等の水際措置の大幅緩和等により大きく増加し、同年12月には2019年同月比 で54.2%まで回復、年間では約383万人(2019年比88.0%減)となりました。2023年(令和5年)も回復 傾向が続き、4月は、2022年(令和4年)10月以降単月では最多の194.9万人となり、2019年同月 比で66.6%まで回復しました。

国土交通省 観光白書 令和5年版より引用
https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001630305.pdf

2023年度通期での速報値は未発表ながら、2019年に迫る水準まで回復しているものと考えられます。

ホテル・旅館業界におけるM&A動向

近年、以下のような理由からホテル・旅館業界やその周辺業種におけるM&Aが活発になっています。

M&Aによる人材不足解消

図:産業別入職率・離職率(2021年)

出典:国土交通省 観光白書 令和5年版

厚生労働省「雇用動向調査」から2021年(令和3年)の宿泊業、飲食サービス業の入職率・ 離職率をみると、入職率は「生活関連サービス業、娯楽業」に次いで2番目に高く、また離職率は最も高くなっており、雇用の流動が激しいことがわかります。観光産業における賃金や雇用の構造的な課題により、人員不足が深刻化している中、アフターコロナによるまん延防止等重点措置の全面解除や全国旅行支援の開始、水際措置の大幅緩和等により人員不足感は更に高まっています。

国土交通省 観光白書 令和5年版より引用
https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001630305.pdf

それらの課題を解決するためにM&Aを積極的に検討する買手企業が増加しており、また売手企業にとっても大手資本傘下となることでブランド価値を向上させ従業員の流出を防ぐ効果が期待できる等の理由からM&Aを選択するケースが増加しています。

M&Aによる経営再建

ホテル・旅館業界の中で目立つM&A類型として、経営再建型のM&Aをあげることができます。

高級リゾートホテルを運営する星野リゾートや大江戸温泉物語&リゾーツは、経営が悪化した民間宿泊施設や地方旅館、公共宿泊施設等を買収し、ブランドと経営ノウハウを提供することで経営再建を実現しています。

経営が悪化した後のホテル・旅館等においては、比較的低価格で物件を獲得できるケースも多く、投資回収までの期間も自社開発物件に比べ短期で見込まれることが魅力となっています。

また、それらのケースでは、より資産効率を上げて運営規模を拡大するために、REIT法人に資産を売却する手法もよく選択されています。

訪日客の取り込み

アフターコロナにより、2020年以降急激に落ち込んでいた訪日外国人旅行者が増加傾向にあることから、一旦は縮小を余儀なくされた訪日客向け集客施策も、急ピッチで再開する必要があります。

訪日客需要の取込及び人手不足の解消を目的に、関東エリアで知名度の高い大江戸温泉物語と関西エリアに強い湯快リゾートの経営統合も発表される等、今後も訪日客の取込をキーワードとした資本提携等が増加する可能性が高まっています。

ホテル・旅館業界におけるM&A活用のメリット

ホテル・旅館業界におけるM&Aを活用したメリットは以下の通りです。

売手側のメリット

  • 後継者問題の解決
  • 会社の存続・発展
  • 従業員の雇用維持、処遇改善
  • 大手資本入り、ブランド強化による人材不足の解消
  • 個人保証や担保の解消
  • 創業者利益・売却益の獲得 など

買手側のメリット

  • 新規エリア・新規顧客の獲得
  • 人材不足の解消
  • 訪日客の取込
  • 資本効率化
  • 新規コンセプト開拓 など

ホテル・旅館業界のM&A事例

ここでは、ホテル・旅館業界における最近のM&A事例をご紹介します。

三菱地所によるロイヤルパークホテルの株式取得(不動産×ホテル)

不動産大手である三菱地所株式会社が、株式会社ロイヤルパークホテルの発行済株式全てを株式交換により取得し、完全子会社としました。

ホテル事業の拡大を企図した買手ニーズと、三菱地所が掲げる長期経営計画基づき、ノンアセット事業の強化・拡大において重要な役割を果たすことで、既存ホテルの収益拡大と新規事業機会の獲得を通して益々発展することが見込まれる等の売手ニーズが合致し、本件が実現しました。

穴吹興産による祖谷渓温泉観光の株式取得(不動産×ホテル)

不動産大手である穴吹興産株式会社は、中四国にてホテル事業を展開する穴吹エンタープライズ株式会社を通じて、祖谷渓温泉観光株式会社および有限会社祖谷温泉の株式を取得し、子会社しました。

「和の宿 ホテル祖谷温泉」をはじめとする”大歩危祖谷温泉郷”のブランド構築やプロモーション戦略等を通じ、四国・瀬戸内地域全体の観光促進にとって大きな相乗効果を生み出す

との両社の考えが合致し、本件が実現しました。

まとめ

ホテル・旅館業において会社の売却等をお考えの際は、まずはM&Aの専門会社へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、ホテル・旅館業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスや財務コンサルティングのみにも対応しておりますので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

取締役COO青山佳敬

専門領域:マネジメント、M&Aアドバイザリー

地方銀行入行後、法人向けファイナンス業務を担当。

その後、監査法人系M&Aアドバイザリーファームへ出向し、以後長期に渡りM&Aアドバイザリー業務に従事。国内ミドルマーケット案件を中心に多くの案件に責任者として関与、事業会社の後継者問題解決・企業価値向上に寄与。

2021年御堂筋税理士法人グループに入社、2022年からは株式会社リガーレとしてM&Aアドバイザリー業務を中心としたソリューションサービスを提供している。

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