空調・衛生工事業界のM&A動向と最新事例

空調・衛生工事業界のM&A動向と最新事例

空調・衛生工事の需要は近年高まっており、今後も市場規模は底堅く推移する見込みとなっています。

それに伴い、空調・衛生工事業のM&A件数も増加傾向にあります。

この記事では、空調・衛生工事業界のM&A動向や実施するメリット、具体的なM&A事例などを紹介します。

空調・衛生工事業界とは

まずは、空調・衛生工事業界の定義や特徴について解説します。

空調・衛生工事業界の定義・特徴

空調・衛生工事会社とは、建設物の空調・衛生設備にかかる工事の請け負いを主業とする企業を指します。

この業界の設備工事としては、主に、冷暖房・空気清浄・換気などをコントロールする空調設備工事、給排水・給湯・汚水処理などを行う衛生設備工事が挙げられます。

その他、スプリンクラーなどを設置する消火設備工事や特殊管(冷蔵、冷凍、輸送管など)の設備工事なども含まれます。

空調・衛生工事会社は、空調・衛生工事を専業とする専業系と、電気、通信工事を含めた設備工事全般を担う総合系に大きく分かれています。

大手事業者は空調・衛生工事をあわせて手掛けているケースが多く、中小事業者は空調工事のみ、衛生工事のみを手掛けることが比較的多くなっています。

なお、空調・衛生工事業界で売上高首位の高砂熱学工業は、空調工事のみを手掛けています。

空調・衛生工事事業は、通信工事や電気工事などの設備工事と比較して、建築物を引き渡した後のアフターサービスやメンテナンス、トラブル対応の重要性が比較的高い傾向があります。

空調・衛生設備は15~20年以上経過すると経年劣化により故障発生率が高まるほか、メーカーの部品供給の停止で修理ができなくなるなどのリスクがあり、管の入れ替えや最新システムへの切り替えなどといった修繕・メンテナンス発生します。

そのため、空調・衛生工事事業においては継続的な対応力が重要であり、不動産担当者から指名されて工事を請け負うケースも多くあります。

 また、空調・衛生工事は、冷暖房、換気、給排水、衛生、消火施設など工事種目が多く、その工事種目ごとに法規類や国家資格制度が定められています。

また、管工事の建設業許可の取得には、管工事施工管理技士などの資格を持つ専任技術者が必要となります。

空調・衛生工事業界の商流

空調・衛生工事業界では、主に元請けと一次請けが受注の主流であり、工事の一部を請け負う協力会社を確保しながら施工の対応を行っています。

また、建築設備工事の発注方式には、「分離発注方式」「一括発注方式」「コストオン方式」の3種類があり、中でも、官公庁や金融機関、生産工場等で利用されることが多いのは、分離発注方式です。

方式内容発注者
分離発注方式施主が建築と電気設備、空調衛生設備などの設備を別々に発注する方法。施主
一括発注方式施主が建築と設備を一括して、建築会社に発注する方法。 設備会社は建築会社の下請けとして発注される。建築会社
コストオン方式施主が建築会社と設備工事会社を選定しそれぞれ直接価格を決定、各々の工事費に設備工事の現場管理経費を加え、建築会社に発注する方法。 あらかじめそれぞれの分野にかかる金額と施工責任が明確になる。建築会社

空調・衛生工事業界の現状

国土交通省の「建設工事施工統計調査報告」によると、空調・衛生工事業界が該当する管工事業の完成工事高は、2021年度で約8.3兆円でした。

これは、空調・衛生工事を含む設備工事業全体の完成工事高約31.6兆円のうち、電気工事業に次いで大きな市場となっています。

国土交通省の「設備工事業に係る受注高調査結果」によると、管工事の主要20社の受注高は、2011年度以降、資材価格の高騰や人件費の上昇などにより工事費が上昇傾向にあることも一因となり、民間工事がけん引し、増加傾向となりました。

2019~20年度は、新設住宅着工数の減少やコロナ禍の影響があり、受注高も減少しましたが、2021年度は建築投資に回復の動きがあることなどから増加、2022年度は都心部での再開発など民間非住宅投資が堅調なことなどから、統計が確認できる2001年度以降で過去最高となっています。

今後、オフィスビル向け需要はゆるやかに縮小する可能性があるものの、再開発、リニューアルなどのニーズは持続するとみられ、長期的には本業界の需要は底堅く推移すると考えられます。

空調・衛生工事業界が抱える課題

次に、空調・衛生工事業界の課題について解説します。

少子高齢化による深刻な人手不足

前述の通り、空調・衛生工事業界の需要は今後も堅調に推移することが予想されているものの、業界内の人手不足は深刻な問題となっています。

空調・衛生工事業界を含む建設業全体の就業者数は平成9年のピーク時の685万人から減少傾向が続き、令和4年には479万人と、ピーク時から約30%減少しています。

また、少子高齢化に伴い、55歳以上の労働者が増加している一方で、29歳以下は減少傾向にあります。

設備工事業はいわゆる労働集約型の産業であり、施行の品質向上のためには、若手の人材を確保し、技術を伝承していく育成が必要不可欠です。

しかし、近年の受注競争の激化は、収益の低下を招き、その対応として納期を短縮し短期間で収益を出す必要があるため、社員に集合教育を行う時間や段階的な OJT を実施することが難しいのが現状です。

設備工事業を営む多くの企業は、人材の育成・能力開発の重要性を強く認識しているものの、中小企業が全体の約 80%を占める設備工事業業界において、一社単独では解決できない人材育成に関する課題も多くなっています。

2024年問題による利益の減少

建設業界の2024年問題とは、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制に伴い、長時間労働が常態化している建設業界において対応が迫られているものです。

時間外労働の上限規制の猶予期間が終了する2024年4月以降、労働時間が短くなることで、社員の賃金の減少に繋がり、離職率が上がる可能性もあるため、現在よりも人手不足や人材採用の状況が悪化すると言われています。

この規制に対応するためには、従業員を今よりも多く確保する必要があり、小規模の空調・衛生工事会社では対応に限界があります。

また、2023年4月からは月60時間超の時間外労働への割増賃金率が25%から50%に増額されるため、業績面での影響も小さくありません。

割増賃金率の引き上げのほか、年次有給休暇の消化日数増加による人件費の増加や、時間外労働の上限規制による稼働時間の減少など、会社の利益の減少に繋がるという問題も懸念されています。

資材価格の高騰     

人件費の高騰に加え、資材価格の高騰も、設備工事会社の工事コストの高騰の要因となっています。

建設資材や各部材は、近年価格の高騰が続いています。

新型コロナウイルスの影響を受けて、需要が減少していたところ、2021年以降は需要が再拡大したことにより、資材や部材の価格が高騰しています。

さらに、ウクライナとロシアの紛争による影響を受け、2022年以降はさらなる価格高騰を続けている状況です。

資材コストが急激に高騰する中、早期の仕様決定や、資材調達先の見直し、精度の高い原価管理などが重要となっています。

空調・衛生工事業界におけるM&A動向

近年、以下のような理由から空調・衛生工事業界やその周辺業種におけるM&Aが活発になっています。

設備工事の総合化の推進

空調・衛生工事会社では、設備工事の総合化を積極的に進める傾向にあります。

一方で、自前での総合設備化は時間がかかり、ノウハウ蓄積も難しいことから、大手各社の中期経営計画等によると、M&Aを経営戦略の一つとしている企業が多く存在しています。

近年のM&A実績では、電気設備工事会社による空調設備工事会社のM&Aが多くなっており、空調工事への事業拡大意向が強まっているようです。

なお、空調・衛生工事業界ではM&Aが盛んに行われていますが、中小規模の企業の買収が大半であり、大規模な業界再編はみられません。

これについては、最近の空調・衛生工事業界の市場環境が良かったことも一因と考えられます。

競争力の強化

空調・衛生工事業界の特徴として、中小企業が多いということが挙げられます。

そのため、中小企業同士の競争が激しくなりやすく、競争力の強化を図る手段として、M&Aは非常に有効と言えます。

関連する業種が多く、シナジーが生じやすい

空調・衛生工事事業には、電気設備、通信設備、給排水設備など、関連事業が多くあり、関連事業を買収することで、一括したサービスの提供が可能となります。

企画から保守点検まで、トータルサポートができる体制の構築ができるようになるといったケースもあります。

また、総合設備企業であれば、強化したい設備事業の買収により、サービスの質の向上を図ることができます。

後継者不在、人材不足問題の解決

建設業界のM&Aが増えている理由として、巨大な市場規模に加え、前述のような業界の高齢化、人手不足も挙げられます。

建設業の会社を売りたいという経営者の方は、後継者不在を理由に売却するケースが非常に多い一方、買い手の買収ニーズとしても、人材の確保を目的の一つとしている場合が多いため、売り手と買い手の双方にとってM&Aは非常に有効な課題解決の手段といえます。

また、前述の2024年問題の解決策として、M&Aにより、強い採用力を持つ大手の空調・衛生工事会社のグループに入るという手法も注目されています。

空調・衛生工事業界におけるM&A活用のメリット

空調・衛生工事業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

  • 大手グループの傘下に入ることによる経営基盤の安定
  • 後継者問題の解決
  • 廃業の回避
  • 従業員の雇用の継続
  • 個人保証・担保の解消
  • 売却益(創業者利益)の獲得
  • 経営の安定・拡大
  • 知名度の向上
  • 人材獲得しやすくなる(大手と組むことで採用活動が有利になる)

買い手側のメリット

  • 事業規模の短時間での拡大
  • 経営資源の獲得
  • ノウハウ、シナジー効果の獲得による収益性の向上
  • 容易に新規参入が可能(異業種)
  • 拠点、エリアの拡大
  • 仕入、購買の協同化によるコスト削減

空調・衛生工事業界のM&A事例

ここでは、空調・衛生工事業界における最近のM&A事例をご紹介します。

日本エコシステムによる村川設備工業の買収

2023年4月、日本エコシステム(東証スタンダード9249)は、愛知県を中心とした官公庁、建設会社からの建設空調設備工事、給排水・衛生設備工事の元請受注を行う村川設備工業の全株式を取得しました。

日本エコシステムは、社会インフラサービス企業として、公共性の高い3事業「公共サービス事業・環境事業・交通インフラ事業」を展開している上場企業です。

日本エコシステムは、村川設備工業の子会社化により、中期経営計画で掲げている電気・空調衛生設備分野の技術者の増員と事業拡大、顧客のポートフォリオ化に繋げることを狙いとして、本M&Aを決断しました。

ETSホールディングスによるユウキ産業の買収

2021年11月、ETSホールディングス(JASDAQ1789)は、大阪を中心に空調・水処理・電気工事業などを営むユウキ産業の全株式を取得し、完全子会社化しました。

ユウキ産業は、栗田工業の特約店として、阪急阪神ビルマネジメントや南海ビルサービスなどの主要顧客に対する、空調工事、水処理工事、各種環境測定などを行っている会社です。

一方、ETSホールディングスは、送電線、内線工事を主体とする上場企業です。

ユウキ産業の子会社化により、ユウキ産業の保有する優良顧客とのリレーションを活用し、共同営業体制を取り、ユウキ産業の強みである空調工事と、ETSホールディングスの強みである電気工事の一括受注体制を整備することで、業容拡大が期待できるとの判断から、本M&Aに至りました。本件は、周辺事業者による事業領域の拡大型のM&Aの例と言えます。

空調・衛生工事業界でM&Aを行う際のポイント

空調・衛生工事業界でM&Aを行う際に留意すべきポイントを解説します。

人材の流出

空調・衛生工事会社では人材不足が深刻化しています。

企業間での人材の取り合いも起きており、中でも施工管理ができる人材は貴重です。

買い手側にとってM&Aの重要な目的の一つに人材確保があるため、会社の売却をきっかけに従業員が辞めてしまうことは避けたいものです。予期せぬ人材流出を防ぐためには、従業員への説明やPMI(M&A後の統合プロセス)がポイントです。

従業員へ説明をするタイミングについては、売り手側、買い手側、アドバイザーも含め、慎重に検討しましょう。

保有している建設業許可の確認および引継ぎ

空調・衛生工事会社を引き継ぐ際は、建設業許可の引継ぎができるかという点に留意する必要があります。

管工事業の許可は、500万円以上の管工事を請負うために必要となる許可業種で、専門工事業の1つです。

元請業者として管工事を請負い、下請業者に対し、合計4,500万円以上の発注を行う場合は、管工事業の特定建設業許可が必要となります。

買い手側企業は、国土交通省が定めている建設業許可の要件を満たす必要があります。

参照:国土交通省HP「許可の要件」

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000082.html

これらの要件は、1人で担っても問題ありませんが、M&A実行後に退任する現経営者などがこの役割を担っている場合、買い手側企業にこの役割を担う者がいなければ要件を満たせなくなります。

M&A後も建設業許可の要件を満たせるか否かについては、早い段階で確認しておく必要があるでしょう。

また、M&Aの実行時に、事業譲渡の手法を活用した場合は、買い手側企業に管工事の建設業許可を引き継げないため注意が必要です。

買い手側企業が管工事の建設業許可を取得している場合は問題ありませんが、取得していない場合には、管工事の建設業許可を改めて取得しなければ営業できません。

許可の取得には約3カ月かかりますので、注意してM&Aを進めましょう。

まとめ

空調・衛生工事事業の会社の売却などをお考えの際は、まずはM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、空調・衛生工事業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアナリスト堀内槙

専門領域:株式価値算定、財務・税務DD、統合後の事業計画の策定等

地方銀行入行後、支店での窓口業務、融資事務、運用商品の提案サポートを経て、M&A本部に異動。主にバックオフィスとして、M&Aに関する提案書の作成、契約書の草案作成、法務チェックに加え、累計数百件を超える株式価値算定の経験を持つ。

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