老人ホームのM&A動向と最新事例

老人ホームのM&A動向と最新事例

昨今では老人ホーム運営会社オーナーにおける後継者不在問題の解決、人材確保、介護サービス領域の拡充や異業種からの新規参入を目的としたM&Aなどが活発に行われております。

この記事では老人ホームにおけるM&A動向、M&A成功に向けたポイント、最新事例について解説します。

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老人ホームの現状

ここでは老人ホームの概要、市場動向、取巻く環境について解説します。

老人ホームとは

老人ホームとは様々な種類のある介護施設の呼称です。介護施設は大きく分けて下記7つに分類されます

種類施設区分特徴
介護付有料老人ホーム民間24時間体制の介護等サービス
自立~要介護の高齢者が入居対象
人員等の配置基準、施設基準あり
住宅型有料料人ホーム民間生活支援等のサービス提供
自立~要介護の高齢者(65歳上)が入居対象
人員等の配置基準、施設基準なし
認知症高齢者グループホーム民間生活サービス、機能訓練を提供
認知症の診断を受けた要支援2又は要介護1以上の高齢者(65歳以上)
人員等の配置基準、施設基準なし
サービス付き高齢者向け住宅民間安否確認などの生活支援サービス付きの賃貸住宅
自立~要介護の高齢者(60歳以上)が入居対象
人員等の配置基準、施設基準あり
特別養護老人ホーム公的介護サービスの提供
要介護3以上の高齢者(65歳以上)が入居対象
人員等の配置基準、施設基準あり
ケアハウス(介護型)公的生活支援・介護サービスの提供
要介護1以上の高齢者(65歳以上)が入居対象
人員等の配置基準、施設基準あり
介護老人保健施設公的在宅復帰を目指すための介護施設
要介護1~5の高齢者(65歳以上)が入居対象
人員等の配置基準、施設基準あり

老人ホームの市場動向

  • 介護市場全体の市場規模は約11兆円(2022年時点)、国内の高齢化進行に伴うサービス利用の増加から、介護市場は拡大傾向にあります。
  • 高齢化の進行に伴い、要介護認定者数も著しく増加(2000年度認定者数224万人→2020年度認定者数491万人)、老人ホーム(介護施設)市場も拡大傾向にあります。
  • 老人ホーム数は2020年の14,399施設→2021年56,692施設へ増加、老人ホーム市場の明確な市場規模は定かではないものの、厚生労働省における介護費調査のうち、「短期入所」「特定施設入居者生活介護」「施設サービス」を合算した2022年の介護費は4.7兆円に上ります(2001年2.9兆円→2022年4.7兆円)。
  • 国政調査によると2020年時点の65歳以上高齢者数は3,603万人(総人口に占める割合約29%)となっています。65歳以上高齢者数は2044年に3,950万人まで増加することが推定され、2050年の65歳以上の総人口に占める割合は37%と見込まれています。
  • 以上の要因を踏まえると、今後も長期的に老人ホーム含む介護サービスの需要は増加することが見込まれ、老人ホーム市場についても拡大していくことが想定されます。

出典:「第225回社会保険審議会介護給付費分科会資料」「介護分野の最近の動向について」より弊社加工

出典:厚生労働省「介護給付費実態調査」より弊社加工

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)より弊社加工

老人ホームの課題

老人ホームを取り巻く環境において、様々な課題が存在します。主たる課題として以下3つ解説します。

1.人材不足と採用難

老人ホームを含む介護業界全体として深刻な人材不足が生じていることが最たる課題です。

人材不足の背景は、介護労働の担い手不足による採用難が要因と言えます。2021年の介護関係職有効求人倍率は3.7倍と、全業種平均1.0倍と比較し、大幅に高止まりで推移。

また、介護労働者の高齢化(2022年度平均年齢50歳)の進行も生じていることから、今後少子高齢化の進行により一層人材の確保が厳しくなることが想定されます。

正社員に限らず、パートタイマーやアルバイト、外国人労働者の活用など、働き方の多様化を進めていくことが重要であると言えます。

2.施設数増加による競争激化

老人ホームを含む介護サービスの需要は今後も増加が想定される一方、現在でも一部供給過剰となっているエリアも散見されます。

供給過剰エリアにおいては、入居者争奪戦が発展され、賃料やサービス利用料金の価格設定への影響のほか、老人ホーム紹介会社に対する紹介料の増加など、収益構造悪化に繋がっております。

人件費高騰

人件費高騰、その他物価高騰が利益を圧迫する傾向にあります。

老人ホームを含む介護業界は労働集約化産業であり、人件費比率は70%前後を占めます。

最低賃金増加、人材確保のための処遇改善は避けられないため、今後ますます利益を圧迫していくことが想定されます。

老人ホームにおけるM&A

ここでは昨今の老人ホームにおけるM&Aの特徴について解説します。

老人ホームにおけるM&A動向

老人ホームにおいては、売手サイドとしては「後継者不在」「人材不足」を背景としたM&A、買手再度としては介護事業会社における介護サービス領域の拡大や、同エリアにおけるシェア向上、新規エリアへの進出のほか、異業種又は隣接業種からの新規参入を目的としたM&Aなどが活発に行われております。

<昨今のM&A事例(抜粋)>

日付買手売手企業 
会社名規模会社名売上高所在地
2025/1/31予定㈱ニチイケアパレス上場会社Gr㈱OA総合研究所非公表東京都
2024/10/1㈱元気な介護中小・中堅企業㈱サンライフ非公表広島県
2024/9/25㈱シーユーシー上場会社㈱ノアコンツェル66億円北海道
2024/7/17㈱ブルーアースジャパン上場会社Gr㈱アルファケア非公表山梨県
2024/5/31QLSホールディングス上場会社AIAI Life Care4億円東京都
2024/1/31㈱ツクイ大会社㈱ゆいゆい非公表沖縄県
2023/5/17揚工舎上場会社トータルケア陽だまり0.9億円神奈川県
2023/5/10㈱土屋大会社(有)ノーマルライフ非公表大阪府
2023/4/28ソラスト上場会社総合ケアネットワーク4.8億円福岡県
2023/2/14㈱元気な介護中小・中堅企業㈱プレーゴ非公表岩手県
2023/1/6㈱あいらいふ中小・中堅企業㈱ちゅらしんか非公表沖縄県
2023/1/10㈱リビングプラットフォーム上場会社㈱橙果舎2億円北海道
2022/12/1ウェルビー㈱大会社(有)ナオン1.3億円福岡県
2022/9/1㈱ニチイホールディングス上場会社Gr(有)ティーアンドジー非公表大阪府
2022/1/31㈱テノ.ホールディングス上場会社㈱フォルテ非公表大阪府
2022/1/21SOMPOエア上場会社Grネクサスケア非公表神奈川県
2021/8/31リビングプラットフォーム上場会社ブルー・ケア13億円北海道

老人ホームにおけるM&Aメリット

老人ホーム運営会社において、M&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

1.後継者問題の解決
2.個人保証・担保提供の解消

3.従業員の雇用継続           
4.売却利益の獲得

5.事業の成長発展

買い手側のメリット
 

1.事業領域の拡大

2.事業エリアの拡大
3.サービスラインナップの拡充

4.優秀な人材の確保

5.市場シェア拡大による認知向上

老人ホームの売却相場

ここでは、老人ホームの売却相場について解説します。

コスト・アプローチから見た相場

中小企業におけるM&Aにおいては、時価純資産+営業権(EBITDA×2~4年程度)により算定される価格が一般的な取引レンジとなっております。

 (例)時価純資産300百万円 / EBITDA30百万円

    300百万円+(30百万円×中央値3年)=390百万円

マーケット・アプローチから見た相場

類似企業比較法における類似上場企業の財務数値を比較して算定することにより、売却価格相場を把握することも可能となります。

主にEV/EBITDA倍率(事業価値÷EBITDA)を採用することが一般的であり、直近における介護業界に属する上場企業のEV/EBITDA倍率中央値は約8倍となっています。

  (例)EBITDA30百万円 / 非事業用資産150百万円 / 無借金

     EBITDA30百万円×8倍+非事業用資産150百万円=390百万円

※売却価格の相場・計算方法は「会社の売却価格・相場を知ろう!会社売却を進める前に必須の知識を徹底解説!」にて詳細に解説しておりますので、ご参照ください。

老人ホームのM&A事例

ここでは、老人ホームにおける最近のM&A事例を4つご紹介します。

【事例①】ニチイパレスによるOA総研の子会社化

㈱ニチイケアパレス(東京都千代田区)は、㈱ネオキャリア参加である㈱OA総研(東京都新宿区)の株式を取得し、子会社化することを決定した。(株式効力発生日2025年1月31日)

ニチイケアパレスは、居宅系介護を中心に首都圏・近畿等の各地で展開している。OA総研は、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県)を拠点に、サービス付き高齢者向け住宅を中心に訪問介護、訪問看護、居宅介護支援、デイサービス等を運営している。

首都圏において、双方の持つ介護ノウハウの融合を図り、多種多様なサービスを展開することで、より最適なサービス提供に繋げることを企図し、M&Aの意思決定をした。

【事例②】ブルーアースジャパンによるアルファケアの子会社化

センコーグループである㈱ブルーアースジャパン(山梨県甲府市、以下「BEJ」)は2024年7月17日付で介護施設運営を展開する㈱アルファケア(山梨県甲府市)の全株式を取得し、子会社化した。

アルファケアは、甲府市においてショートステイを中心に介護施設を運営する老舗の介護事業者。BEJは甲府市を中心にフィットネスクラブを展開するほか、介護事業として「住宅型有料老人ホーム」を運営。

介護事業への本格参入を果たし、健康分野における提供サービスの拡充を図るべくM&Aを実施した。

【事例③】ツクイによる“ゆいゆい”の子会社化

㈱ツクイ(神奈川県)は2024年1月31日付で、沖縄県で介護事業を展開する㈱ゆいゆいの株式を取得し、子会社化した。

㈱ツクイは全国でデイサービス、在宅介護サービス、居宅系介護サービス、在宅看護サービスなどの事業を展開している。”ゆいゆい”は、沖縄県島尻郡南風原町、浦添市を中心に訪問看護・訪問介護・福祉用具貸与・医療施設型ホスピスを2ヶ所展開している。

在宅にて介護を受けていた方が、医療的療養が必要となった場合でも必要なサービスをワンストップで提供できる体制を構築し、医療サービスならびにホスピス事業の拡大、地域包括ケアの更なる進化を目的にM&Aを実施した。

【事例④】リビングプラットフォームによる橙果舎の子会社化

㈱リビングプラットフォーム(7091、以下「LPFC社」)は、2023年2月1日付で介護施設を運営する㈱橙果舎(北海道)の全株式を取得し、子会社化した。

㈱橙果舎は、北海道恵庭市内においてグループホーム及び共同住宅を3施設運営している。LPFC社は全国で介護施設65施設を運営。北海道は創業地であり、札幌市、旭川市、江別市において介護事業・障がい事業・保育事業等の福祉サービスを総合的に展開している。

橙果舎の介護事業を承継することで、ドミナント戦略の強化、北海道内におけるシェア拡大に寄与するものと判断し、M&Aを実施した。

【事例⑤】ウェルビーによる、ナオンの子会社化

ウェルビー㈱(6556)は、2022年12月1付で介護事業を展開する(有)ナオン(福岡県)の株式を取得し、子会社化した。

ナオン及び子会社である(有)クロヤマは、福岡県及び佐賀県にて有料老人ホームを含む8つの介護事業所を運営している。

ウェルビーは就労移行支援事業と児童発達支援事業及び放課後等デイサービス事業を運営する療育事業を全国で展開。ナオン及びクロヤマをグループ化することで、有料老人ホームを含む介護事業への新規参入を図り、障害児・障害者以外の社会課題の解決に向けたサービスを提供することが持続可能な企業への第一歩と考えM&Aを実施した。

老人ホームでM&Aを行う際のポイント

老人ホームでM&Aを行う際のポイントを売り手側と買い手側に分けて解説します。

売り手側

1.事業成長の実現

売手企業が、売却後に一層の事業成長の実現が期待できるか否かが重要なポイントとなります。期待できる買手であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。

2.専門家のサポート

M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

買い手側

1.シナジー効果についての調査

 買手企業、売手企業双方にどのようなシナジー効果が期待できるかを精査することが重要です。その為買収対象会社の事業特性を把握することが欠かせません。事業特性の把握を行い、M&A戦略との整合性を踏まえたうえで、案件を進めていくことが重要と言えます。

2.人材流出

買い手側にとってのM&Aの重要な目的の一つに人材確保があります。会社の売却をきっかけに従業員が退職してしまうことを避けるためには、従業員への丁寧な説明、PMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。従業員へ説明するタイミングについては、売り手側、アドバイザーも含め、慎重に検討しましょう。

3.デューデリジェンスの実施

老人ホームのM&Aにおいてもデューデリジェンスは重要です。労働集約化産業であるため、人事労務管理、マネジメント体制のほか、未払残業等簿外債務の検証、人員等の配置基準・その他法令順守、介護報酬返還リスクなどの調査は、適切な株式価値を算定するうえで重要なプロセスとなります。

まとめ

老人ホームの売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の件・交渉サポートを行います。

弊社は老人ホームにおけるM&Aに精通しているほか、財務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアドバイザー清水洋伸

専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等

大学卒業後、大手銀行に入行。

M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。

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