会計事務所業界のM&A動向と最新事例
会計事務所業界においては、後継者不在、事業の成長発展を目的としたM&Aが活発に行われております。
この記事では、会計事務所業界におけるM&A動向、M&A成功に向けたポイント、最新事例について解説します。
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会計事務所業界の現状
ここでは会計事務所業界の市場動向、取巻く環境について解説します。
会計事務所業界の定義
この記事における会計事務所業界は会計事務所・税理士事務所・税理士法人など、法人・個人のクライアントに対して税務会計に係るサービス提供を行う「個人・法人」を総称し会計事務所業界として定義します。
なお、それぞれの違いは下記の通りです。
形態 | 所長/代表 | 業務内容 | |
会計事務所 | 個人 | 公認会計士 | 税理士会に登録することで税理士業務を行うことができる |
税理士事務所 | 個人 | 税理士 | 公認会計士が所属していない場合、会計士だけがおこなえる監査業務はできない |
税理士法人 | 法人 | 税理士 | 公認会計士が所属していない場合、会計士だけがおこなえる監査業務はできない |
<H3>会計事務所業界の市場動向
税理士登録者数は2000年以降緩やかに増加しております。市場規模(売上高)についても2012年約1兆5,328億円に対し、2021年は1兆9,022億円まで拡大しております。(CAGR2.4%)。
一方で事業所数は減少傾向、個人事業主数の縮小(廃業等)、税理士法人化(事務所の大規模化:M&A等)が進んでいるとことが要因の一つであると考えられます。
出典:総務省統計「経済センサス」
会計事務所業界における課題
会計事務所業界の課題は以下3つに分類されます。
- 役員の高齢化
- 人材確保
- デジタル化への対応
1.代表会計士・税理士の高齢化
特に個人会計事務所における税理士・代表税理士の高齢化が課題の一つであると考えられます。
会計事務所業界においては、個人事業所が全体の約70%(2016年経済センサス)を占めているため、代表税理士高齢化における事業承継問題は喫緊に対応しなければならない重大な課題と言えます。
2.人材確保
会計士業界における事業所数は減少傾向にあるものの、それでも2021年で約3万事業所あります。
この数はコンビニ店舗数の半分強にあたる水準であり、過当な人材獲得競争が行われております。
また業界における事業所の大規模化も進んでいることから、小規模事務所における人材確保は今後ますます厳しい環境となることが想定されます。
3.デジタル化への対応
AIやRPAの発展により、単純業務に対する価値はなくなりつつあります。
記帳代行や月次試算表作成などの単純業務は効率化を図り、経営課題の解決に資するコンサルティング等高付加価値サービスの提供ができる体制を構築する必要があります。
会計事務所業界におけるM&A活用のメリット
会計事務所業界において、M&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。
売り手側のメリット
1.後継者問題の解決
2.従業員の雇用継続
3.顧問先との取引維持
4.売却益(創業者利益)の獲得
5.経営の安定・拡大
買い手側のメリット
1.優秀な人材を確保できる
2.エリア拡大・販路拡大等の事業シナジーが期待できる
3.ノウハウ・事業・経営資源等時間を掛けずに入手することが可能
会計事務所業界におけるM&A手法
会計事務所業界におけるM&Aは、一般企業(株式会社や有限会社)でよく採用される「株式譲渡」スキームを活用することはできません。
M&A手法は大きく分けて「1.出資持分譲渡」「2.合併」「3.事業譲渡」の3つに分類されます。
売手の属性(個人・法人)、譲渡対象、買手属性(個人・法人)によって活用できるスキームは下記のように異なります。
売主 | 譲渡対象 | 買主 | スキーム |
---|---|---|---|
個人 | 事業 | 個人 | 事業譲渡 |
個人 | 事業 | 法人 | 事業譲渡 |
個人 | 法人 | 個人 | 出資持分譲渡(買主は税理士に限定) |
法人 | 事業 | 法人 | 事業譲渡 |
法人 | 法人各 | 法人 | 合併 |
1.持分譲渡
持分譲渡は税理士法人の場合に活用できるスキームです。
税理士法人の出資者は税理士に限定される為、出資持分譲渡先についても税理士個人に対してしか行うことはできません。
2.事業譲渡
事業譲渡は顧問先、職員、事業用資産等の一部又は全部を譲渡するスキームです。
幅広く活用できるスキームであるものの、個別に同意が必要となる他、契約関係の再締結も必要となるため、手続きは煩雑となります。
3.合併
税理士法人同士のM&Aでもっともよく活用されているスキームです。
「吸収分割」と「新設分割」の2種類あり、合併対価は存続法人における出資持分又は現金交付等が対象となります。
消滅法人(譲渡法人)代表社員が、存続法人における社員として引き続き経営に関与するケースも多く見受けられます。
会計事務所業界の売却相場
会計事務所業界における売却相場は譲渡資産+年間顧問料の1年分、譲渡資産+営業利益の2~3年などが一般的な相場であると考えられます。
これ以外にもインカム・アプローチ(DCF法)により評価されるケースもあります。
会計事務所業界のM&A事例
ここでは、会計事務所業界における最近のM&A事例を3つご紹介します。
【事例①】税理士法人アーリークロスと税理士法人Besoの経営統合
福岡市を拠点とする総合型会計事務所であるアーリークロスが、大阪・奈良を中心に顧客基盤を持つBesoと2024年11月に経営統合。
両社の異なるDXノウハウを融合させることで、クライアント企業への価値提供の最大化が図れる他、アーリークロスは九州から関西へ影響力を拡大させることが可能となる。
なお、税理士法人Besoは経営統合後、税理士法人アーリークロス大阪事務所、税理士法人アーリークロス奈良事務所として運営することとなった。
【事例②】グロース税理士夫人と谷川会計事務所との経営統合
グロース税理士法人(愛知県)は、2024年11月付で谷川会計事務所(大阪府)と経営統合した。
グロース税理士法人は医療介護に対する税務や開業、事業承継、保険・不動産等のコンサルティングを中心に事業展開。
谷川会計事務所は大阪の河内松原を中心に近畿エリアの会計・税務業務を展開。
両社はエリア、顧客層、提供サービスが異なる為、両者のノウハウ共有化、人員体制・経営体制の強化による、より付加価値の高いサービスを広く展開することが可能と考え、経営統合した。
本件により、グロース税理士法人については、現代表が引き続き代表社員を務め、谷川会計事務所所長である、谷川氏はグロース税理士法人 大阪南オフィスの拠点長に就任し、事業運営することとなった。
【事例③】税理士法人マッチポイントと税理士法人フューチャークリエイトの合併
税理士法人マッチポイント(札幌)は、2023年10月付で税理士法人フューチャークリエイト(札幌)と合併した。
同エリアでのM&A事例となる。
両事務所はそれぞれ独自の強みを持っており、合併によって、クライアントがより広範で多様なサービスを一つの窓口で利用することができるほか、両事務所の経験・ノウハウ結集による付加価値の高いサービスを提供できる体制の構築、業務プロセスの効率化実現などを目的としたM&Aである。
なお、合併後は税理士法人マッチポイントとして事業展開し、税理士法人フューチャークリエイト代表社員である植島氏は、税理士法人マッチンポイントの共同代表に就任することとなった。
会計事務所業界でM&Aを行う際のポイント
会計事務所でM&Aを行う際のポイントを売り手側と買い手側に分けて解説します。
売り手側のポイント
1.事業成長の実現
譲渡先が、譲渡後に一層の事業成長の実現が期待できるか否かが重要なポイントとなります。
期待できる買手であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。
また、事業成長の実現が図れることは従業員の処遇改善や取引先の成長にもつながることが期待できます。
2.専門家のサポート
M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。
M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。
買い手側
1.シナジー効果についての調査
売手会計事務所、買手会計事務所双方にどのようなシナジー効果が期待できるか調査することが重要です。特にクライアントの属性(業種・規模)や、サービス提供領域・得意とする領域、経営管理体制などの把握は、重要検証ポイントとなります。
双方ノウハウ共有をすることで、より付加価値の高いサービスを提供できる体制を構築できるか、販路拡大となる機会があるか、人員体制・経営体制の強化・合理化による業務プロセスの効率化が期待できるかなど、想定シナジーの仮設・検証がM&Aを成功させるポイントと言えます。
2.人材の流出
会計事務所業界における、買手側のメリットの一つに優秀な人材(有資格者等)を包括で確保できることが挙げられます。会計事務所の売却によって、社員・従業員が退職してしまことを避けるためには、キーマンとの事前面談や、社員・従業員への丁寧な説明、PMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。キーマンとの事前面談、社員・従業員へ説明するタイミングについては、売手側、アドバイザーも含め、慎重に検討しましょう。
3.顧問先の減少
上記、人材流出と密接に関わりますが、人材流出することによって、顧問契約が解消してしまうリスクがあります。
顧問先の減少リスクを抑制するためにも、上記「人材の流出」に記載した内容を徹底することの他、売手会計事務所における所長・代表社員についても、譲渡後すぐに退任ではなく、一定期間経営に参画してもうことが重要であると言えます。
なお、様々な要因により譲渡後すぐに退任する場合は、従業員退職・顧問先解消リスクを一定考慮したうえで、株式価値の算定をすることが望ましいと思われます。
まとめ
会計士・税理士事務所、税理士法人の売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。
専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の件・交渉サポートを行います。
弊社はM&Aサービスを手掛けているほか、財務・税務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆
シニアアドバイザー清水洋伸
専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等
大学卒業後、大手銀行に入行。
M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。