M&A戦略とは?策定方法やポイントを徹底解説!
昨今、業種を問わず成長戦略の一貫でM&Aが活発に行われております。
そもそもM&Aはなんのためにするのでしょうか?M&Aを成立ではなく“成功”させるうえで、この問いかけが重要なキーワードとなります。
M&Aはあくまで「経営戦略を実現する為の手段の一つ」であり、目的ではありません。
すなわち経営戦略上、M&Aが選択肢となり得る場合に、経営戦略に基づき、M&Aの基本的な方針を定めます。
このM&Aの基本的な方針をM&A戦略と呼びます。
では、具体的にどのようなM&A戦略があるのか?この記事ではM&A戦略策定の手順・ポイントを解説します。
M&A戦略策定のプロセス
ここからは具体的なM&A戦略策定プロセスについて解説します。
M&A戦略の位置づけ
M&A戦略はあくまで経営戦略から派生する為、M&A戦略策定までは下記の手順を踏みます。

Step1~2は、経営戦略策定フェーズにあたり、現状把握及び市場調査(内部環境分析及び外部環境分析)を通じて、会社全体の戦略ならびに事業毎の戦略を立案します。
SWOT分析や、アンゾフの成長マトリクス、5フォース分析、バリューチェーン分析等活用できるフレームワークは多種ありますが、ここでは経営戦略策定に係るフレームワークの詳細説明は割愛します。
重要なことは策定した全社戦略・事業戦略の実現方法の選択(Step3)であり、ここで外部成長(M&A)を選択肢とすることが得策か否かの判断をします。
M&Aを選択肢とする場合に、経営戦略をベースに、M&A戦略を策定(Step4)する手順となります。
M&A戦略の5類型
ここからは、具体的なM&A戦略の策定方法について解説します。
M&A戦略はアンゾフの成長マトリクスをベースに大きく分けて下記5つの項目に類型されます。それぞれ具体的に解説します。
- 市場浸透型M&A戦略
- 製品開発型M&A戦略
- 市場開拓型M&A戦略
- 多角化型M&A戦略
- 垂直統合型M&A戦略
1.市場浸透型M&A戦略
市場浸透型M&A戦略は既存の製品を用いて既存の市場への投下を強化していく戦略を言います。
同市場における競合買収や、ロールアップ(相対的に規模の小さな会社を連続的に買収)を行うことで、規模拡大によるシェア拡大、効率化による収益拡大、競争力向上などを狙いとした戦略です。
市場浸透型M&A戦略の事例は下記の通りです。
(事例1)リビングプラットフォームによる一連のM&A(ロールアップ)
リビングプラットフォームは、介護事業からスタートし、現在は介護・障害者支援・保育の3つの事業を展開している。
同社は既存事業の強化・新規事業への参入の両面からM&Aを積極的に活用。
2020年度以降では下記8社のM&Aを実施している。
2020年 | 10月 | : | 吸収分割スキームにて、介護事業及び障がい者支援事業を連結子会社に承継 |
2021年 | 10月 | : | 介護事業拡大を図るため、ブルー・ケア㈱を子会社化 |
2022年 | 1月 | : | 保育事業拡大を図るため、(有)ID・アーマンを子会社化 |
2月 | : | 介護事業拡大を図るため、「(有)アートアシスト グループホームつぶろい」を事業承継 | |
2023年 | 1月 | : | 介護事業拡大を図るため、(有)トゥルースを子会社化 |
2月 | : | 介護事業拡大を図るため、㈱橙果舎を子会社化 | |
3月 | : | 介護事業拡大を図るため、㈱エコの7施設を吸収分割により事業承継 | |
2024年 | 3月 | : | 介護事業拡大を図るため、(有)シニアケアの2施設を事業譲渡により承継 |
(事例2)ウェルシアによる㈱コクミン及び㈱フレンチの子会社化
ウェルシアホールディングス㈱はドラッグストアを展開する㈱コクミンと、薬局運営の㈱フレンチを2022年6月1日付で子会社化した。
コクミンが運営するドラッグストア173店舗のうち、44店舗で調剤薬局を併設、調剤で成長してきたウェルシアとの親和性が高く、経営規模の拡大と経営体質の強化が見込まれると考え、M&Aを実施した。
2.新製品開発型M&A戦略
新製品開発型M&A戦略は、新規製品を既存市場に投下することで、既存市場内で成長を目指す戦略です。
一般的には「製品ラインナップ拡充」や「新技術開発」を目的としたM&Aとなる為、「自社と関連性のある製品・サービスの買収」や「ブランド力を有する商品・事業の買収」、「自社での開発が困難な技術の獲得を目指した買収」などが戦略として挙げられます。
新製品開発型M&A戦略の事例は下記の通りです。
(事例1)ジェイフロンティアによるECスタジオの子会社化
ジェイフロンティアは、化粧品やサプリメントのD2Cブランドを展開するECスタジオを2022年7月15日付で子会社化した。
ジェイフロンティアは、D2Cビジネスを通じて、「末病・予防・健康維持」を支えるプロダクトの開発・提供を行っている。
ECスタジオは商品企画力に強みを有しており、ジェイフロンティアとしては「健康食品・化粧品分野」における取扱い商品のポートフォリオ拡充を図ることで、より広範に顧客の健康維持に貢献できると考えた。
今後の競争力強化、顧客の心身の健康維持を強力に推進できるものと判断し、M&Aを実施した。
(事例2)日本サーモエナーによるバイオマスボイラーメーカー2社の子会社化
㈱タクマは連結子会社である日本サーモエナー(以下「サーモエナー」)を通して、㈱第一産業(以下「第一産業」)及び㈱産機エンジニアリング(以下「産機エンジ」)を子会社化した。
サーモエナーは、商業施設や工場などの熱源装置として利用される小型貫流ボイラや真空式温水発生機といった汎用ボイラの製造・販売・メンテナンスを主要事業としている。
第一産機は、農畜産業に由来する堆肥やもみ殻といった副産物を燃料とする小型バイオマスボイラの製造・販売などを、産機エンジはその設計を手掛けている。
国内の汎用ボイラ市場では、低・脱炭素化に貢献する製品の需要が拡大傾向。
サーモエナーは、再生可能エネルギーである木質バイオマスを燃料とする貫流ボイラ・温水発生機を取り扱っているが、バイオマスボイラ事業の更なる拡大のため、第一産機及び産機エンジが手掛ける農畜産業の副産物を燃料とする小型バイオボイラを製品ラインナップに加えることで、顧客ニーズに応える体制の強化が図れると考え、M&Aを実施した。
3.新規市場開拓型M&A戦略
新規市場開拓型M&A戦略は、既存の製品を用いて新たな市場を開拓していく戦略です。
「新たな地域への進出」や「新たな顧客層への販路拡大」を目的としたM&Aであり、拠店の拡充やクロスセル、営業力強化による収益拡大を狙いとした戦略です。
具体的には「自社の進出していない地域で営業基盤を有する同業の買収」や「違った顧客層を有する同業の買収」、「海外での事業基盤を有する同業の買収」などが戦略として挙げられます。
新規製品開発型M&A戦略の事例は下記の通りです。
(事例1)朝日印刷によるKinta Press&Packaging(M)Sdn.Bhd(以下「KPL社」)の子会社化
朝日印刷㈱は、マレーシアの印刷会社であるKPL社の株式65%を取得し、2023年10月31日付で子会社化した。
KPL社は、マレーシアに製造拠点を有する印刷会社であり、高価格帯の化粧品・食品向け製品を中心に幅広い製品群のコンセプト作成から製造・納品まで行うことを強みに、同国において確固たる地位を確立。朝日印刷は海外事業推進を重要な事業戦略の一つとして掲げており、KPL社との協業並びに連携した営業提案活動によるグループ全体でのシナジー創出を図ることによる企業価値向上を目指してM&Aを実施。
(事例2)メイホーホールディングスによるエムアンドエムの子会社化
㈱メイホーホールディングス(7369)は子会社の㈱スタッフアドバンスを通じて、業務請負などを手掛けるエムアンドエム(岩手県山田町)より人材派遣事業を2023年1月1日付で譲り受けた。
スタッフアドバンスは福島県、宮城県、山形県で人材派遣事業を手掛けているが、岩手県にも派遣先を広げることを目的にM&Aを実施。
4.多角化型M&A戦略
多角化型M&A戦略は、新規の製品を用いて、新規の市場を開拓していく戦略です。
コア事業が成熟産業かつ成長が見込めない場合に異業種へ進出するケースや、事業ポートフォリオ拡充による収益基盤のリスクヘッジ、成長市場やニッチ市場への参入・強化などを狙いとした戦略です。
多角化型M&A戦略の事例は下記の通りです。
(事例1)四国旅客鉄道による東京セフティの子会社化
四国旅客鉄道㈱(以下、「JR四国」)は、施設警備・交通誘導警備・イベント警備を手掛ける東京セフティ㈱(香川県)の全株式を取得し、2023年3月29日付で子会社化した。
JR四国は非鉄道事業分野において、ホテル業、駅ビル・不動産事業、飲食・物販事業などを展開。
本件の株式取得により、警備保障業務への参入及びノウハウの獲得を実現するとともに、四国の経済・文化の発展に寄与する地域コングロマリットの形成を目指してM&Aを実施。
(事例2)楽天による一連のM&A
楽天はオンラインモール事業者として1997年に創業、2000年のジャスダック上場以降積極的にコングロマリット型M&Aを展開し、事業を成長させている。
具体的に下記のようなM&Aを実施し、事業ポートフォリオを拡充している。(※M&A変遷は抜粋)
2001年8月 :㈱ビーズシーク(中古品販売・買取サービス)を買収
2001年9月 :㈱フープス(無料ホームページコミュニティ「HOOPS」の運営)を買収
2002年9月 :ワイノット㈱(グリーティングカードサービス「ワイノットeカード」運営)を買収
2002年10月 :㈱メディオポート(ゴルフ場予約サービス「golf port」を運営)を買収
2003年9月 :マイトリップ・ネット㈱(後の楽天トラベル㈱)を買収
2003年11月 :DLJディレクトSFG証券㈱(後の楽天証券㈱)を買収
2004年9月 :㈱あおぞらカード(後の楽天カード㈱)を買収
2009年2月 :イーバンク銀行(後の楽天銀行)の連結子会社化
5.垂直統合型M&A戦略
垂直統合型M&A戦略はサプライチェーン(開発、生産、調達、販売)における「川上」又は「川下」企業を買収する戦略です。
サプライチェーンを内製化していくことで、品質・コスト・納期等の向上を図り、収益力改善・競争力向上を狙いとしたM&Aです。
具体的には「卸売会社による小売企業の買収」、「建材流通会社による建設会社の買収」、「卸売会社における物流会社の買収」などが戦略として挙げられます。
垂直統合型M&A戦略の事例は下記の通りです。
(事例1)大林組によるサイプレス・スナダヤの子会社化
大林組は国産ヒノキ製品製造を手掛ける㈱サイプレス・スナダヤ(以下「サイプレス」)を2023年2月1日付で子会社化した。
大林組は、「脱炭素」「価値ある空間・サービスの提供」「サステナブル・サプライチェーンの共創」を目指しており、その実現のための施策として、木造木質化建築における川上から川下までのサプライチェーン全体を持続可能で最適なものとする循環型ビジネスモデルを掲げ、大規模建築のノウハウを最大限に活かした非住宅木造木質化建築に取り組んでいる。
サイプレスは、国産ヒノキ製品製造の最大手で、国内では数少ない原木から製品への一貫生産を手掛け、高い加工技術、大規模生産能力及び価格競争力を有している。
両社が協同して製品開発や販路拡大を行い、高品質な製品を競争力のある価格で安定供給することで、中長期的に非住宅木質化建築全体の課題である、サプライチェーン強化を目的とし手M&A実施。
(事例2)エディオンによる室山運輸の子会社化
㈱エディオンは、2024年8月1日付で、物流会社である㈱室山運輸の全株式を取得し子会社化した。
エディオンは店頭における商品販売だけでなく、配送から設置・工事などのアフターフォローに至るまで、お客様の暮らしを永続的に支える企業でありたいと考え営業活動を行っている。
Eコマースの普及など物流需要が高まる中、物流業界においては人材不足やトラック不足などが深刻な問題となっている。
室山運輸は、近畿から中四国地方を中心に長年物流業界に携わってきた企業、室山運輸をグループ化することで、サプライチェーンにおける物流課題の解決が図れると考え、M&Aを実施。
まとめ
- M&Aは目的ではなく手段
- M&A戦略は大きく分けて5つに分類される
- 市場浸透型M&A戦略
- 製品開発型M&A戦略
- 市場開拓型M&A戦略
- 多角化型M&A戦略
- 垂直統合型M&A戦略
弊社はM&A戦略策定、ターゲット企業の選定からアドバイザリー業務も手掛けております。
M&Aご検討の際は、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆

シニアアドバイザー清水洋伸
専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等
大学卒業後、大手銀行に入行。
M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。