商社業界の業界動向とM&A事例

商社業界の業界動向とM&A事例

商社業界におけるM&A(合併・買収)は、グローバルな競争環境の中でますます重要な戦略となっています。

近年、商社は従来の貿易業務にとどまらず、再生可能エネルギー、IT、金融などの新たな分野への進出を加速させ、M&Aを通じて事業の多角化や競争力強化を目指しています。

今回は、商社業界のM&A動向を最新の事例とともにご紹介し、今後の展望について考察します。

商社とは

まずは、商社の定義や現状について解説します。

 商社業界の定義

商社とは、主に商品やサービスの取引を行う企業で、国内外の市場で様々な商品や原材料を輸出入・販売・調達・仲介する役割を担っています。

商社は単なる仲介業者にとどまらず、時には製造・販売・物流など広範なビジネス領域に関与し、商業活動を多岐にわたる事業展開を通じて支えています。

商社は大きく分けて次のように分類ができます。

(1)総合商社(General Trading Company)

総合商社は、多くの商品やサービスを取り扱う企業で、複数の事業分野にまたがった取引を行います。

例えば、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事などの大手商社がこれに該当します。

これらの商社は、貿易だけでなく、製造、販売、金融、インフラ事業、さらには投資業務まで幅広い業務を手がけています。

(2)専門商社(Specialized Trading Company)

専門商社は、特定の分野に特化した取引を行います。

例えば、鉄鋼や化学、食品、機械などの分野に特化した商社があり、特定の業界での専門知識やネットワークを活かして取引を行います。

(3)商社グループ

商社グループは、複数の企業が連携してビジネスを展開する形態です。

グループ内で事業を分担し、それぞれが専門分野で活動する場合もあります。

これにより、効率的な事業運営が可能となります。

商社業界の現状と展望

商社業界のなかでも特に日本の総合商社は、従来の貿易業務を超えて、多様な事業分野に進出し、事業モデルを進化させています。

しかしながら、商社業界はさまざまな変化や課題に直面しています。

以下では、商社業界の現状と展望について、いくつかの重要な側面を挙げて説明します。

1. グローバル化と多角化

商社業界は、世界中の市場で事業を展開しており、特に新興国や発展途上国市場において活発に活動しています。

これにより、商社は単なる貿易仲介者としてだけでなく、投資家やインフラ開発者としての役割も担っています。

アジアやアフリカ、南米などの新興市場に積極的に進出し、地元企業との提携や現地法人の設立を通じ、市場シェアの拡大を目指しています。

これにより、商社は安定的な収益源を確保し、リスク分散を図っています。

加えて、従来の貿易業務に加えて、製造業、金融業、IT関連事業、さらには再生可能エネルギーやテクノロジー関連分野など、多角的な事業展開を進めています。

これにより、多様な収益源を得て、リスクを分散しながら成長しています。

2. デジタルトランスフォーメーション(DX)と技術革新

商社業界でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進行しています。

AI(人工知能)、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーンなどの新技術を取り入れ、業務の効率化や新たなビジネスモデルの創出を目指しています。

情報技術を活用して、業務プロセスの最適化や効率化を進めています。

たとえば、貿易業務における書類管理や物流管理をデジタル化することで、コスト削減や業務の迅速化を実現しています。

また、IT企業やスタートアップ企業への投資を積極的に行っており、特に人工知能やフィンテック、エネルギー分野などでの革新を重視しています。

これにより、新たなビジネスチャンスを創出しています。

3. 資源調達とエネルギー分野

日本の商社は、天然資源(石油、天然ガス、鉱物など)の調達において重要な役割を果たしています。

しかし、近年のエネルギー分野における環境意識の高まりや、再生可能エネルギーへのシフトが進んでおり、商社業界もその対応を迫られています。

従来の化石燃料(石油、天然ガス)から、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーへの転換が加速しています。

商社は、再生可能エネルギーの開発や投資にも積極的に取り組んでおり、環境意識の高い市場に対応しています。

また、世界的な資源需要の変動や地政学的リスク(戦争や貿易摩擦など)により、資源価格が不安定な状況が続いています。

商社は、これらのリスクを管理し、安定した供給源を確保するために多様な調達先を確保し続けています。

4. M&Aとグローバル戦略

商社業界では、M&A(合併・買収)活動が活発に行われています。

商社は、事業の多角化や新興市場への進出、またはテクノロジー企業の買収を通じて、競争力を強化しています。

資源確保や新技術の導入、業界間の統合を目的としたM&Aを進めています。

特に、デジタル技術を持つ企業や再生可能エネルギー関連の企業に対する投資が増加しています。

特に、アジアやアフリカなどの新興市場でのM&A活動を活発化させており、現地企業との提携や買収により、市場アクセスを確保しています。

5. コーポレートガバナンスとサステナビリティ

商社業界では、企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティが重視されるようになっています。

特に、環境への配慮、社会的影響への対応、そして透明性の高い経営が求められています。

環境・社会・ガバナンス(ESG)基準に対応するため、投資先企業のESG評価を強化しています。

再生可能エネルギーや環境保護活動、社会貢献活動を企業戦略に取り入れることで、持続可能な成長を目指しています。

近年、企業の透明性を求める声が高まり、商社業界もコーポレートガバナンスや情報開示の強化に取り組んでいます。

これにより、株主や投資家との信頼関係を築いています。

 商社業界のM&A事例と活用のメリット

このような商社業界において、M&Aは譲渡側・譲受側双方にとって有効な経営戦略の一つになり得ます。

ここでは、商社業界のM&A事例や、双方のメリットについて、詳しく説明します。

豊田通商、子会社を通じ米国のRadius Recycling, Inc.の全株式を取得

2025年3月25日、豊田通商㈱は、完全子会社である豊田通商アメリカ(Toyota Tsusho America, Inc.)を通じて、Radius Recycling, Inc.(米国オレゴン州、以下:Radius社)の株式の全てを取得することを決定。

豊田通商は、大手総合商社であり、各種物品の国内取引、輸出入取引、外国間取引、建設工事請負、各種保険代理業務等、幅広い業務を展開している。

Radius社は、北米トップクラスのリサイクル企業で、鉄・非鉄金属の回収、加工、リサイクルを行っている。

本M&Aにより、Radius社の強みと、豊田通商が持つ再生資源を軸としたクローズドなサプライチェーンを構築する機能を掛け合わせることで、北米における再生資源の供給を強化する。

阪和興業、兼松トレーディングの全株式を取得

2025年3月17日、阪和興業㈱は、兼松㈱の100%子会社である兼松トレーディング㈱の全株式を、2025年4月1日付けで譲り受けることに合意し、譲渡契約を締結した。

阪和興業は、鉄鋼、鉄鋼原料、各種金属、食品、エネルギー、生活資材、木材、機械等の国内販売及び輸出入を行っている。

一方、兼松トレーディングは、国内外での一般鋼材の流通を軸に、厚板溶断、建具の設計・施工、チタン製品等の特殊鋼の販売など幅広い事業を展開しており、本M&Aにより、サプライチェーンの向上や新たな創造を図るとともに、国内鉄鋼流通分野の競争力強化を図る。

伊藤忠商事など、元ビッグモーターの事業を譲受ける新会社WECARSを設立

2024年5月1日、伊藤忠商事㈱、伊藤忠エネクス㈱は、㈱ジェイ・ウィル・パートナーズとともに「㈱WECARS」を設立し、㈱ビッグモーター及びその子会社のすべての事業を会社分割により承継した。

伊藤忠商事は、伊藤忠エネクスとともに、WECARS経営層から現場にいたるまで人材を投入し、グループの総合力をもって、「お客様第一」のコンセプトに基づき、マーケットインの発想で事業の再建と成長に向けて取り組む。

伊藤忠商事が英国自動車整備事業や北米建材事業等で培った事業再建のノウハウを最大限活用し、伊藤忠エネクスが給油所、カーディーラーやレンタカー事業等の運営をはじめとした現場力の強みを発揮することで、一体となって一つひとつの事業に丁寧に磨きをかける「ハンズオン経営」を実践していく。

売り手側のメリット

商社業界におけるM&A(合併・買収)では、売手と買手双方にとって特有のメリットがあります。

ここでは、売手と買手それぞれにとって、商社業界特有のM&Aにおけるメリットと考慮すべきポイントについて詳しく見ていきます。

1. 競争力強化と市場での地位確立

売主の企業が特定の分野で競争力が低下している場合、M&Aにより強力な企業と組むことで、事業の競争力を強化することができます。

特に、買収先企業が強いブランド力やリソースを持っている場合、そのネットワークや市場シェアを活かすことができ、売主企業が市場での地位を再確立する手助けになります。

2. 従業員への安定提供

経営が不安定になり、将来の見通しが不確実な場合、M&Aを通じて企業が大手企業に統合されることで、従業員の雇用の安定性を確保できる可能性があります。

買収先企業がより強力な経営基盤を持っている場合、従業員に対する給与や福利厚生も改善される場合が多く、従業員のモチベーション向上にも繋がります。

3. 経営の負担軽減

M&Aは、経営者にとって日々の経営負担や経営リスクを軽減する手段となることがあります。

特に、事業運営に苦しんでいる場合や、経営が難しくなっている場合には、M&Aによって自社の問題を解決し、将来のリスクを回避できます。

また、経営者が会社の後継者問題や事業の維持管理に悩んでいる場合にも、M&Aが一つの解決策となります。

買い手側のメリット

1. 多角化によるリスク分散

商社業界では、資源、エネルギー、製造、流通、IT、金融など、多岐にわたる事業を展開しています。

M&Aを通じて、商社は新たな事業領域に参入し、事業の多角化をさらに進めることができます。

この多角化によって、特定の業界や市場に依存しないビジネスモデルを確立し、景気や市場動向の変動に対するリスクを分散することができます。

例えば、資源市場が不安定でも、ITや再生可能エネルギー、金融事業など、異なる分野で収益源を確保することが可能となります。

2. グローバルネットワークの強化

商社は、国内外の多くの企業と取引関係を持っているため、M&Aによって、グローバルなネットワークをさらに強化することができます。

特に、新興市場や発展途上国の企業とのM&Aは、商社が現地市場に迅速に参入し、事業基盤を広げるために有効です。

商社は、他国でのビジネス展開を加速し、現地での競争優位性を築くことができます。

たとえば、アジアやアフリカ市場での事業拡大を目指して、現地企業を買収することで、地元の規制や商習慣に迅速に適応できます。

3. 資源や製品の安定供給確保

商社は資源開発や供給チェーンに強みを持つため、M&Aを通じて、資源や製品の安定的な供給を確保することができます。

特に、鉱山開発やエネルギー資源の確保は、商社の重要な業務の一つです。

資源価格が不安定な時期でも、安定した供給源を持つ企業を買収することで、商社は資源調達のリスクを軽減し、長期的な競争力を高めることができます。

例えば、鉱山開発や石油・天然ガスの探鉱事業を展開する企業を買収することで、商社は安定した供給網を構築し、リスクの低減を図ります。

4. シナジー効果によるコスト削減と効率化

商社業界では、幅広い事業を展開しているため、M&Aを通じて関連する事業分野を統合することによって、シナジー効果を生み出し、コスト削減や効率化が実現できます。

たとえば、物流や流通、管理部門での重複を削減したり、複数の事業領域にまたがる資源を共同で活用することで、全体的なコスト構造を改善することが可能です。

商社は、規模の経済を活かして、より効率的に事業を運営することができるため、競争力を高めることができます。

5. 新技術・新事業分野への迅速なアクセス

商社は伝統的な貿易業務を超えて、テクノロジーや再生可能エネルギー、IT、ヘルスケアなどの新たな分野にも進出しています。

M&Aを通じて、最新の技術や新しいビジネスモデルを持つ企業を迅速に取得することができ、これにより競争力を強化できます。

特に、デジタル化が進んでいる現代において、商社はITやAIなどの先端技術を有する企業を買収することで、デジタル領域での競争優位を築けます。

例えば、再生可能エネルギー事業や電動車関連の企業を買収することで、商社は持続可能なエネルギーや技術革新の分野に迅速に対応できます。

商社業界でM&Aを行う際のポイント

商社業界でM&A(合併・買収)を進める上で、特に注意すべきポイントはいくつかあります。

競争が激しく、急速に進化する市場環境において、M&Aが成功するかどうかは、慎重な計画と詳細な検討にかかっています。

以下に、商社業界特有の注意点を挙げていきます。

1. 事業ポートフォリオの整合性とシナジーの確認

商社は多角的な事業を展開しているため、M&Aを通じて買収する企業が自社のポートフォリオにどのようにフィットするのかを慎重に検討することが重要です。

特に、M&A後にどのようなシナジー効果が期待できるのかを明確にし、事業が複数の分野でバランスよく連携できるかを確認する必要があります。

買収対象が既存の事業との統合で効果を発揮できるか(コスト削減、顧客基盤の拡大、技術革新の加速など)。同様に、買収先の事業が自社の他の事業と重複し、競合する場合は慎重に対処する必要があります。

2. グローバル展開と地域ごとの法規制の理解

商社は国際的なビジネスを展開しており、M&Aを通じて新たな地域や市場に進出する場合、現地の法規制やビジネス慣習を十分に理解することが不可欠です。

各国の法律や規制が異なるため、買収先の事業運営がその国や地域の法規制に適合しているかをチェックすることが重要です。

これには、貿易規制、税法、労働法などが含まれます。

また、文化や商慣習の違いが経営に与える影響を考慮し、現地企業との文化的・組織的な統合がスムーズに進むかを評価することも重要になります。

3. 資源やエネルギー関連のリスクの評価

商社業界では、特に資源やエネルギー関連事業(石油、天然ガス、鉱物など)が重要な要素となります。

これらの分野では、価格変動や供給リスク、環境規制の影響などが大きいため、M&Aを実施する際には以下の点に留意する必要があります。

資源の価格は非常に不安定であるため、資源関連事業を買収する場合は、将来の価格動向や供給リスクを十分に分析し、リスクヘッジ策を講じる必要があります。

また、環境保護規制が強化されている中で、資源開発やエネルギー事業を行う企業が買収対象となる場合、今後の規制強化が事業に与える影響を慎重に評価する必要があります。

まとめ

商社業界のM&Aをお考えの際は、売却・買収いずれの立場であってもM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の選定や探索、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、商社業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンス、セカンドオピニオンのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアドバイザー田澤脩平

専門領域:M&Aアドバイザリー、Projection、Valuation策定等

メガバンクに入行、中小零細から上場まで幅広い企業への法人営業に従事。その後、国内大手アドバイザリーファームにて、会計事務所のネットワーク開拓に加え、多数のM&A案件に携わる。事業会社へ転職後は自社のM&A専任者として、企業の買収・売却を実施。アドバイザリー、買手、売手の3つの面からM&Aに携わってきた経験を持つ。

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