不動産賃貸業のM&A動向と最新事例

不動産賃貸業のM&A動向と最新事例

不動産業界は、不動産の売買・賃貸・管理や仲介等を行う企業群を指します。

そのうち、不動産賃貸業は、不動産を賃貸し、賃料収入を得る事業を指し、主に住宅を賃貸する事業は貸家業といいます。

不動産賃貸業界は小規模な事業者が多く、近年は大規模事業者による小規模事業者の買収など、M&Aによる再編も活発になっています。

この記事では、不動産業界のうち、不動産賃貸業のM&A動向や実施するメリット、具体的なM&A事例などを紹介します。

不動産賃貸業とは

まずは、不動産賃貸業の定義や特徴について解説します。

不動産賃貸業の定義

不動産業の分類

出典:総務省「日本標準産業分類」

上表は総務省の「日本標準産業分類」による不動産業の分類を表したものです。

不動産業は大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分けられます。

不動産賃貸業は、自らが保有する不動産を第三者に賃貸し、賃料収入を得る事業を指します。

一般的に建物を貸すのが大家、土地を貸すのが地主と言われますが、いずれも不動産を貸すことで収入を得ることを業としており、不動産賃貸業にあたります。

また、日本標準産業分類では、不動産賃貸業の中でも、主に住宅(店舗併用住宅を含む)を賃貸する「貸家業」、主に事務所や店舗などの事業用不動産を比較的長期に賃貸する「貸事務所業」などに分けられています。

不動産賃貸業を始める際は、特に資格や届出は必要ないため、不動産を購入する費用があればすぐに始めることが可能です。

ただし、賃貸物件の建築にあたって、都市計画法、建築基準法、大都市法、消防法といった規制を受けます。

また、物件の賃貸にあたっては、民法、借地借家法、消費者契約法などの規制を受けるため、これらを遵守するよう注意が必要です。

不動産賃貸業の商流

不動産賃貸業における大手事業者は、用地の仕入、開発、賃貸物件の設計・施工、その後の物件の管理・運営まで一貫して自社で行います。

それに対し、小規模な商業施設やオフィスビルは、個人オーナーや小規模な事業者が手掛けている場合も多く、地場性の高い市場構造となっています。

小規模事業者は、管理・運営業務をアウトソーシングする場合が多く、入居者の募集業務は地場の不動産賃貸集会業者へ、物件の管理や修繕工事計画の立案などといったプロパティマネジメント業務は、専門の不動産管理業者へ委託することが一般的です。

【不動産賃貸業の商流】

不動産賃貸業は、ニーズの高い立地であれば長期にわたり安定した収入を見込むことができます。

その一方で、物件を取得するための初期投資が大きいため、借入金を利用し、長期にわたり、賃料収入によって投資を回収しながら、収益を確保する必要があるビジネスモデルです。

借主との契約は長期契約となることが一般的であるため、賃料収入は比較的安定しているとともに、支出についても、借入金の支払利息や修繕・管理費、租税公課など、比較的変動が少ないといえます。

不動産賃貸業は、事業を始めるにあたり、金利の変動や賃料の変化、借入金の額など様々な条件下における収支計画を作成し、入念に検討をすることが重要です。

不動産賃貸業界の現状

総務省統計局が公表している「サービス産業動向調査」によると、2023年度の不動産業・物品賃貸業全体の売上高は約4.3兆円と、新型コロナウイルスの拡大の影響を受ける前の水準に戻りつつあります。

また、そのうち不動産賃貸業・管理業だけをみると約1.9兆円と増加傾向にあります。

【不動産賃貸業の第3次産業活動指数動向】

(2015年=100、季節調整済)

出典:経済産業省「第3次活動指数」(季節調整済指数)

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/result-2.html

不動産賃貸業は不動産取引業に比べると安定的に推移してきましたが、上図の通り、2020年から2021年にかけては、新型コロナウイルス感染拡大による景気の悪化により、貸事務所業について大きく需要が減少しました。

しかし、最近では感染症の影響も落ち着きを見せつつあり、景気回復の影響からか、ここ3年程は再び増加に転じ、直近では感染症の拡大前の水準に戻りつつあります。

貸事務所業や駐車場業が上昇傾向にある一方で、人口減少が想定以上に早く進行する中、住宅賃貸業の低下に歯止めがかからず、不動産賃貸業は感染症拡大前の水準には戻り切っていない状況です。

不動産賃貸業界が抱える課題

次に、不動産賃貸業界の課題について解説します。

人口減少による需要の低下、地域格差の拡大

少子高齢化と地方の過疎化が進行する中で、全国各地に空き家が増え続けており、これによって生じるさまざまな問題が指摘されています。

まず、空き家の増加は地域の景観や安全性を損なう原因となります。

放置された空き家は、荒れ放題になりがちで、犯罪の温床になることもあります。

また、老朽化した建物からは火災が発生するリスクも高まります。

また、経済的な影響も無視できません。

空き家が増えることで、地域の不動産価値が下がり、新たな住民や事業の誘致が難しくなる場合があり、地方経済の衰退がさらに進む可能性があります。

対策としては、2014年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」があります。

この法律に基づき、地方自治体は空き家の所有者に対して適切な管理を求めることができ、改善が見られない場合には行政指導や命令を下すことが可能です。

また、自治体による空き家の有効活用支援や、空き家バンクシステムの導入も進められています。

さらに、民間レベルでの取り組みの例としては、空き家をリノベーションして新しい住宅や商業施設、コミュニティスペースとして再活用するプロジェクトが全国で展開されています。

これにより、空き家が地域コミュニティの資源として再評価されることが期待されます。

このように、空き家問題の解決には、政府、自治体、民間企業、地域住民が一体となった多角的なアプローチが求められています。

市場の縮小と中心都市への人口集中

不動産賃貸業界において、「市場の縮小と中心都市への人口集中」という課題は、特に地方都市で顕著に見られます。

少子高齢化と人口減少により、地方の空き家が増加し、不動産市場が縮小する一方で、東京や大阪などの大都市圏に人口が集中しています。

この人口流出は、地方の商業活動の低迷を招き、地方経済全体の衰退を加速させています。

地方の不動産市場においては、住宅需要の低下により物件の空室率が高くなり、資産価値の低下を招いています。

このため、不動産投資のリターンが下がり、新たな投資が抑制される悪循環に陥っている地域も少なくありません。

さらに、地方の不動産市場の縮小は、地方自治体の税収の減少にも直結し、公共サービスの質の低下や地域インフラの老朽化問題にも繋がっています。

対策として、地方創生という政策により、地方都市の活性化が図られているものの、実際の効果はまだ限定的です。

地方都市自体の魅力を高めること、例えば地方都市固有の文化や歴史を生かした観光資源の開発、移住促進策の充実、地方でのリモートワークの推進などが考えられます。

これにより、若者や子育て世代の定住を促し、地方の人口減少と市場縮小に歯止めをかける必要があるでしょう。

不動産賃貸業界におけるM&A動向

近年、以下のような理由から、不動産賃貸業界やその周辺業種におけるM&A増加傾向にあります。

これらの理由については前述の課題にも挙げていた通りですが、企業間の経営効率化や事業拡大の戦略としてM&Aが利用されるケースが増えているためです。

特に中小企業の後継者問題や経営の先行き不安は、M&Aを促進する要因の一つと言えるでしょう。

  • 人口減少や地域格差などによる需要の低下
  • 後継者不在
  • 不動産テック市場の拡大による競争の激化

また、帝国データバンクが2019年に実施した意識調査によると、近い将来(今後 5 年以内)における自社の M&A への関わり方について、『M&A に関わる可能性がある』(「買い手となる可能性がある」「売り手となる可能性がある」「買い手・売り手両者の可能性がある」の合計)企業は 35.9%という結果となっており、小規模の企業でもM&Aに前向きな企業が多くなっています。

下図の通り、M&Aに関わる可能性があると回答した不動産業者は38.6%で、全業種平均よりやや高く、とくに買いの意向のある企業の割合が他の業種より高くなっています。

出典:帝国データバンク「M&A に対する企業の意識調査」

小規模事業者が多数を占める不動産業界において、中長期的なニーズの低下や競争の激化が進んでいることもあり、大手・中堅事業者による中小事業者の買収は、今後さらに活発化すると予想されており、意識調査の結果もそれが反映されているものと考えられます。

不動産賃貸業界におけるM&A活用のメリット

不動産賃貸業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

  • 後継者問題の解決
  • 会社の存続
  • 従業員の雇用の継続
  • 個人保証・担保の解消
  • 創業者利益・売却益の獲得

買い手側のメリット

  • 不動産の獲得
  • エリアの拡大
  • コスト削減(運営の効率化等)
  • 顧客ごと譲受可能

不動産賃貸業界のM&A事例

ここでは、不動産賃貸業界の最近の事例をご紹介します。

日本エスコンによる不動産賃貸業のピカソ、優木産業、グループ6社の買収

総合不動産業の日本エスコン(東証プライム:8892)は、2021年に関西を中心に不動産賃貸事業を行うピカソ及び優木産業ならびにグループ6社の全株式を取得しました。

ピカソは、優木産業ならびにグループ 6 社ともに関西を中心に不動産賃貸事業を展開しており、賃貸マンションやオフィスビル等、優良な収益資産を多数保有。

日本エスコンは、総合不動産業として、マンション分譲や商業施設などの開発なども手掛ける上場企業です。

フロー重視の経営からストック重視の経営への転換を図っており、安定した収益の確保を目的とし、本M&Aの決断に至りました。

キムラタンによる不動産賃貸業の月光園の買収

子供服の製造卸業のキムラタン(東証スタンダード:8107)は、2024年1月、不動産賃貸業を営む月光園の全株式を取得しました。

キムラタンは、近年アパレル事業の縮小と不動産事業の拡大により、多額の赤字の解消と安定的な収益基盤の確保に取り組んでいます。

不動産事業の拡大として2022 年4月、全国に約70 の収益物件を所有するキムラタンエステート(旧和泉商事有限会社)の株式取得を実施しましたが、企業価値の回復と向上のため、収益力のさらなる強化と全社的な成長が必要であるとの認識から、静岡県伊豆の国市に3件の収益物件を保有する月光園の株式を取得することを決断しました。

このように不動産賃貸業は異業種からの参入もしやすく、人気の高い業種と言えます。

不動産賃貸業界でM&Aを行う際のポイント

不動産賃貸事業者のM&Aを行う場合は、以下のような点に確認が必要です。

<売り手側>

財務状況の透明性の担保

買い手に対して、財務状況を正確かつ透明に伝えることが重要です。

隠れた負債や将来にわたるコストが後になって表面化し、買い手企業との間で問題にならないよう、全ての財務情報を開示するようにしましょう。

このように透明性を示すことで、M&Aプロセスがスムーズに進行し、価格交渉や契約条件においても有利な立場を確保することが可能となります。

法的リスクの洗い出し

不動産賃貸業のM&Aにおいては、潜在的な法的リスクを事前に特定し、解決することが重要です。

不動産の所有権、使用権といった権利を調査するとともに、建築基準法や地方の条例等、不動産が関連する法規制に適合しているかの確認も必要となります。

M&A後のリスクを低減するためにも、日頃から法的側面について適切に管理、把握しておくことが肝要です。

<買い手側>

徹底したデューデリジェンス

不動産賃貸業におけるM&Aでは、デューデリジェンスが非常に重要です。

これは対象企業の財務状況、法的問題、不動産の状態など、あらゆる面の詳細な調査を含みます。

具体的には、物件の権利証の確認、抵当権や他の負担がないことの確認、物件の物理的状態の評価などが必要です。

さらに、テナント契約の詳細やリース期間、占有率などを把握することで、市場の状況に適合しているかを確認します。

効果的なデューデリジェンスを行うことにより、投資のリスクを適切に把握でき、M&Aの成功に繋がります。

規制の遵守確認

不動産業界では、地域ごとの法規制への遵守が不可欠です。

例えば、都市計画法、建築基準法といった規制が含まれます。

M&Aにおいては、取得する不動産がこれらの規制に準拠していることを確認することが重要です。

規制に適合していない場合、法的なペナルティや罰金、訂正命令などが発生し、財務的な安定と運営の実行可能性に重大な影響を及ぼす可能性があります。

そのため、法的な専門家と協力し、デューデリジェンスを行うなど、事前に確認を行うことが必要となります。

まとめ

不動産賃貸業の会社の売却などをお考えの際は、まずはM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、不動産賃貸業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアナリスト堀内槙

専門領域:株式価値算定、財務・税務DD、統合後の事業計画の策定等

地方銀行入行後、支店での窓口業務、融資事務、運用商品の提案サポートを経て、M&A本部に異動。主にバックオフィスとして、M&Aに関する提案書の作成、契約書の草案作成、法務チェックに加え、累計数百件を超える株式価値算定の経験を持つ。

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