調剤薬局業界のM&A動向と最新事例
調剤薬局業界は、医薬品の仕入の部分で規模の経済が利きやすいため、業界大手企業を中心に規模拡大を目的としたM&Aが活発に行われている業界です。
本記事では、調剤薬局業界における市場動向、M&A事例、ならびにM&A成功に向けたポイントについて解説します。
調剤薬局業界とは
ここでは、調剤薬局業界の概要、業界を取り巻く環境(市場動向や課題)について解説します。
調剤薬局業界の概要
調剤薬局は医師の処方箋に基づき患者に医薬品を提供するサービスを行う業界です。
医薬品の販売には許認可が必要であり、認可の種類によって販売可能な医薬品目が異なってきます。
処方箋に応じて医療用医薬品を販売できるのは薬局のみとなっています。
近年では一般用医薬品を対象としてきたドラッグストアなどで調剤薬局を併設するケースも出ています。
調剤薬局の収入源は、薬自体の代金にあたる「薬剤料」、特定の医療材料や医療機器の代金にあたる「特定保険医療材料料」、処方薬を調剤する作業に対する「調剤技術料」、服薬についての情報提供や支援に対する「薬学管理料」の4つで構成されます。
全ての項目は処方箋ごとに算定されるため、実質的には処方箋枚数が調剤薬局の収益に直結する仕組みとなっています。
加えて、大きな収益源となるのが薬価差です。
薬価差とは、国の公定価格として定められた薬価と医薬品卸会社からの仕入価格との差額のことであり、この差額が大きいほど利益に上乗せされることになります。
一般的には、卸会社との取引量が多いほど仕入単価が下がるため、薬価差も大きくなりやすいという側面があり、規模の経済が働くことになります。
またこれは、調剤薬局業界においてM&Aが活発に起こる理由の一つとも言えます。
もう一つ、調剤薬局において重要な要素が立地です。周辺エリアの人口動態や病院の所在・診療科目が処方箋枚数や技術料に大きく影響を及ぼします。
基本的には、病院やクリニックの近くに店舗を構える「門前薬局」が優位とされており、M&Aにおいても重視される項目になっております。
調剤薬局業界の市場動向
厚生労働省のデータによると全国の薬局店舗数は62,375(令和4年度末時点)を超えており、年々増加を続けています。
増加の背景として、高齢化社会の進行により医薬に対する需要が高まっていること、また2000年代以降医薬分業が加速的に進んでいることが考えられます。
参照:厚生労働省「衛生行政報告例の概況」
令和4年度の調剤医療費は7兆8,332億円にのぼり、そのうち業界大手10社が占める割合は約20%程度となっております。
【売上ランキングと店舗数】
企業名 | 売上高(百万円) | 売上シェア | 店舗数 |
アインホールディングス | 357,571 | 4.6% | 1,231 |
日本調剤 | 302,805 | 3.9% | 742 |
ウエルシアホールディングス | 256,889 | 3.3% | 2155 |
クオールホールディングス | 165,099 | 2.1% | 947 |
マツキヨココカラ&カンパニー | 159,754 | 2.0% | 971 |
スギホールディングス | 158,777 | 2.0% | 1569 |
ツルハホールディングス | 125,961 | 1.6% | 936 |
メディカルシステムネットワーク | 109,904 | 1.4% | 450 |
東邦ホールディングス | 93,789 | 1.2% | 705 |
スズケン | 87,344 | 1.1% | 559 |
トーカイ | 52,287 | 0.7% | 154 |
※売上高(百万円)の数値は、調剤売上高のみの数値。
大手企業の寡占率を見ても分かる通り、小規模かつ地域密着で運営する事業者の数は多く、5店舗以内の企業体が全体の半数を占めているとも言われています。
ただし、法改正による薬価の引き下げやサービス提供の多様化など調剤薬局業界を取り巻く環境は日々変化し続けており、オーナーの高齢化なども相まって小規模事業者にとっては厳しい経営環境となっています。
市場全体の寡占化はまだまだ進んでいないものの、売上上位の大手企業を中心に積極的な買収攻勢が続けられており、今後さらに業界再編が進んでいくものと考えられます。
調剤薬局業界の抱える課題
調剤薬局業界特有の課題として、以下4点を解説します。
診療報酬の改定
医療技術の進歩や経済状況の変化に合わせて、2年に一度診療報酬の見直しが行われています。
近年の改定の傾向は、調剤業務自体の比重が下がり、服薬指導や疾病予防の情報提供スキルの重要性が高まっています。
また、年々調剤医療費が増加し続けている現状を受け、国としてもより厳しい調剤報酬改定を行う可能性もあり、薬の調剤だけに留まらず業務の幅を広げていくことが求められています。
薬剤師の確保
薬剤師の有資格者数は年々増えており、厚生労働省によると令和2年時点では32万人を超える薬剤師が薬局・病院などに従事しています。
一方で、多くは都市部に集中しており地方の薬局においては、深刻な薬剤師不足が続いています。
小規模の事業者ほど採用活動にまで注力する余裕はなく、ますます地方における薬剤師不足が進むことが予想されます。
多機能化へのサービス拡充
調剤薬局に対して求められるサービスは時代とともに拡がり、あらゆるニーズに対応することが必要な状況となっています。
具体的には、在宅医療や地域包括ケアシステムの取り組み、オンラインでの対応、電子処方箋の導入などがトレンドとなっています。
高齢化社会において、高齢者が出来るだけ住み慣れた地域での自立生活を実現するために、調剤薬局の役割も重要になってきます。
その一貫として、オンライン服薬指導や電子処方箋の対応等のDX化は大手企業を中心に取り組みが本格化しており、自社での取り組みが難しい中小事業者との差別化になってきます。
競争環境の変化
前述した通り、ここ数年間で調剤薬局店舗数は増加を続けており、競争環境は厳しくなっています。
特に、ドラッグストアやコンビニエンスストア等の大手チェーンが参入し、店舗併設型の調剤薬局が増えていることで、顧客獲得競争へと繋がっています。
更にはデリバリービジネスの拡大により、自宅への宅配などが拡充すれば、将来的にEC事業者などの参入増加も予想されます。
これらの業界課題は、特に資金やブランド力に乏しい個人経営の調剤薬局にとって対策が難しいものであり、ますます小規模事業者が淘汰される状況となることが考えられます。
調剤薬局業界におけるM&A動向とM&A事例
調剤薬局業界のM&A動向
調剤薬局業界においては、以下のような目的でM&Aが増えております。
- 規模の拡大
- 他地域展開
- サービスの多様化
調剤薬局業界の最近のM&A事例
ここからは、調剤薬局業界における最近のM&A事例をご紹介します。
クオールHDによる、調剤薬局18店舗運営の有限会社ダイナの買収
クオールホールディングス株式会社は、2024年5月16日付で有限会社ダイナ(山梨県甲府市)の株式を100%取得し、グループ化しました。
クオールHDは中期目標連結売上高3,000億円・営業利益250億円の達成に向け、積極的な新規出店・M&Aを活用して事業拡大を図っています。
グループとして地域に密着した「かかりつけ薬局」を志向しており、更なる地域医療・在宅医療への貢献に資することから、ダイナ社の株式取得を行いました。
本件で山梨県へ初展開となり、今後も全国に安心・安全な医療を提供することを目指しています。
くすりみらいによる埼玉のベルマックの全株式取得
東京都と埼玉県で在宅医療や調剤薬局事業を行う株式会社くすりみらいは、株式会社ベルマック(埼玉県草加市)の全株式を取得しました。
ベルマックは1977年創業の埼玉県における調剤薬局のパイオニア的企業であり、草加市内において2店舗を開設しております。
本株式取得を通じ、両社の事業ノウハウやリソースを融合することで双方の事業成長を加速させ、両社一体となって、埼玉県南エリアにおける薬局サービスの充実を推進しています。
地域ヘルスケア連携基盤とエムエム薬局他2社の資本業務提携
株式会社地域ヘルスケア連携基盤は、調剤薬局4店舗を運営する有限会社エムエム薬局、有限会社エムアペックス、有限会社ももたろう薬局(岡山県岡山市)の株式を取得しました。
本件の株式取得を含めグループ全体で約200店舗の調剤薬局を運営しており、さらに地域ケアモデルの主たる担い手である調剤薬局の連携を進めています。
ファーマライズHD、調剤薬局展開のGOOD AIDを買収
ファーマライズホールディングス株式会社は、2024年1月GOOD AID株式会社(愛知県名古屋市)を完全子会社化しました。
GOOD AIDは、、関東・中部・関西地方に25 店舗の調剤薬局を運営しており、「セルフメディケーション薬局」をテーマに零売薬局、調剤薬局、訪問看護、医薬品EC、D2C などの複数のヘルスケア事業を展開しています。
ファーマライズHDは、中期経営計画に基づいた「調剤事業を核とした事業展開による収益獲得強化」の一環として大都市圏の店舗展開強化につながるGOOD AID社の株式取得を決定しました。
ウエルシアHDによるドラッグ併設型調剤薬局運営のとをしやの全株式取得
ウエルシアホールディングス株式会社は、株式会社とをしや薬局の株式を100%取得し、完全子会社化しました。
ウエルシアグループは、「地域No.1の健康ステーション」を目指し、「調剤」、「カウンセリング」、「深夜営業」及び「介護」を軸とした店舗づくりを行い、国内2,812店舗(2024年2月時点)を展開しています。
とをしや薬局は、長野県の中信エリアにてドラッグストア併設型調剤薬局20店舗、調剤薬局1店舗を運営し地域で高い信頼を得ています。
とをしやの持つ地域でのブランドに対してウエルシアグループのノウハウや経営資源をプラスすることで更なるグループの成長につながると考え、本件株式取得を行いました。
調剤薬局業界におけるM&A活用のメリット
調剤薬局業界におけるM&A活用によるメリットは以下のようなことが想定されます。
売手側のメリット
- 規模拡大による仕入コストや運営コストの削減
- 採用力の強化
- 後継者問題の解決
- 個人保証・担保の解消
- 売却益(創業者利益)の獲得
- 経営の安定化
買手側のメリット
- 市場シェア、事業規模の拡大
- 経営資源、人材の確保
- 専門領域に特化した事業者の内製、サービスの拡充
- 新規エリアや新規顧客の獲得
調剤薬局業界でM&Aを行う際のポイント
許認可について
薬局の開設には、いくつかの重要な許認可が必要となるため、M&Aを行う際には許認可の有効性について必ず確認をされることとなります。
特に薬剤師資格の保有者がM&A後も勤務可能であり、引き継がれることが重要です。
店舗の立地について
店舗の立地は、処方箋枚数ひいては収入に大きく影響を及ぼすため、特に重要視されるポイントとなります。
門前薬局である方が好まれる傾向にあり、さらには病院・クリニックの規模や診療科目の内容によって売却のしやすさが変わってきます。
近隣周辺の競合店舗の有無や大手チェーンのドラッグストアなどが出店しているかどうかも買手企業が確認する部分となります。
まとめ
調剤薬局の会社の売却などをお考えの際は、まずはM&Aの専門家へ相談しましょう。
専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。
会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。
リガーレは、調剤薬局業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。