学習塾業界のM&A動向と最新事例

学習塾業界のM&A動向と最新事例

学習塾業界においては、少子高齢化による業界市場縮小、競争激化による差別化戦略等を背景に大手企業が買手となるM&Aが活発に行われております。

この記事では学習塾業界の市場動向、M&A事例、ならびにM&A成功に向けたポイントについて解説します。

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学習塾業界とは

ここでは、学習塾業界の概要、業界を取り巻く環境(市場動向/課題)について解説します。

学習塾業界の概要

学習塾業界は小学生、中学生、高校生などを対象として、学校における公教育とは別に、常設の施設において補習教育、または進学指導等を行う教育施設を運営する企業群を「学習塾業界」として定義しております(学校法人が運営する予備校は除く)。

塾における指導形態は大きく分けて「集団指導型」「個別指導型」の2つに分類され、教育の内容・目的別に「総合塾」「専門塾」「進学塾」「補習塾」の4つに分類されます。

(指導形態)

集団指導型1人の講師が4人以上の生徒を指導する形態
個別指導型1人の講師が3人以下の生徒に対し個別に指導する形態

(教育の内容・目的別)

総合塾・すべての学年・目的に対応している学習塾。 ・進学と補習の両方の目的に対応した授業を開校 ・小学生・中学生・高校生・高卒生等幅広い学年に対応
専門塾・「中学受験専門」「高校補習専門」「個別指導専門」等、 提供する指導方法やカリキュラム等が決まっている
進学塾・受験合格を目的として、学校の授業以上の内容を学ぶ
補習塾・学校で習った内容の復習を行う

その他学習塾業界の固有の特徴として、以下4が挙げられます。

  1. 学習塾の開業には公的な認可が不要である為、参入障壁が低い
  2. 地元密着型の個人塾が多い
  3. 単独事業所が全体の約6割を占めている一方、売上高は単独事業所以外の事業所が約8割を占めている(一人あたり売上高は単独事業所以外の方が大幅に高い)
  4. 大規模な学習塾が主要都市に集中している一方、小規模な学習塾は人口密度の低い地方に多い
  5. 固定費高くなりやすい一方、売上には季節変動がある(夏季講習の8月、冬季講習の12~1月)に増加する傾向)

経営形態別事業所・売上・従業員数

 事業所数売上高平均従業者数従業員一人あたり売上高
総数49,7071兆336億円7人290万円
単独事業所28,413 (57%)2,502億円 (24%)4人221万円
単独事業所以外21,294 (43%)7,834億円 (76%)11人323万円
※出所:総務省・経済産業省「経済センサス(活動調査)」(2020)

学習塾の売上高・受講生数の月次推移

※出処:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」

学習塾業界の市需動向     

学習塾業界の市場規模は1兆円前後(学習塾の売上高ベース:経済産業省「経済構造実態調査」)で推移しております。

生徒数は、少子化による影響を受け直近10年間で1割程度減少しているものの、子供一人あたりにかける教育費は増加傾向にあることから、売上高は底堅く推移しております。(「学習塾の売上推移」「小・中・高校生の生徒数推移」ご参照)

2021年度においては指導のオンライン化によるコロナ禍での学習サポートの充実、学習指導要領の改訂などが一因となり、前年比+17%と過去10年において最も成長率の高い年度となる一方、2022年度以降の成長率は微増、少子化による生徒数の減少から、長期的には市場縮小が予想されております。

学習塾の売上推移

※出所:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査』

小・中・高校生の生徒数

※出所:文部科学省「学校基本調査」

学習塾業界の抱える課題

学習塾業界特有の課題として、以下2点解説します。

少子化による生徒数の減少

少子化による生徒数の減少を背景に、中長期的には市場縮小が余儀なくされる恐れがあります。

特に「集団指導型」の塾において、昨今においてもすでに生徒数が確保できない等の慢性的な問題を抱えており、事業所数は減少傾向にあります。

今後生徒数減少により、一層競争が激化することが想定される為、経営の効率化を進めるとともに、他社との差別化を図る事業戦略を実行することが極めて重要となります。

人材採用難と人件費負担増

学習塾業界においては、講師不足も深刻な問題となっております。

特に、「個別指導塾」では社員より大学生アルバイトの方が多い傾向にあるが、実労働時間に対する報酬額の魅力低下、少子化による大学生人数の減少を背景に、アルバイト講師を採用することが困難な環境が続いております。

今後採用面における競争も一層激化することが想定され、優秀な講師を採用するためには、労働条件改善・福利厚生充実等が必要不可欠であり、人件費負担増加は避けられない課題と思われます。

学習塾業界におけるM&A活用のメリット

学習塾業界において、M&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

  • 後継者不在問題の解決
  • 個人保証・担保の解消
  • 従業員の雇用継続
  • 経営の安定・拡大
  • 売却利益の獲得

1.後継者不在問題の解決

親族・経営者・従業員において、後継者として適任者が存在しない、株式取得資金の支払いが困難なことなどを理由に、事業承継を行うことができないケースが多々あります。

M&Aを活用することで、事業及び従業員・取引先等の経営資源を第三者へ承継することが可能となるため、後継者問題について解決することができます。

2.個人保証・担保提供の解消

親族や従業員への承継の場合、当該後継者が一人立ちできるまで、オーナー個人保証を継続せざる負えないケースが少なからず存在します。

M&Aにおいては、買手企業が変わり担保・保証の提供をすることによって、売手オーナーの個人保証・担保提供は解消されます。

3.従業員の雇用継続

後継者不在問題が解決しない場合の選択肢は、IPOを除けば「廃業」又は「M&A」の2つしかございません。

廃業となれば、長年会社へ貢献してくれた従業員を解雇しなければなりません。

一方M&Aを活用すれば、従業員の雇用・労働条件を維持することが可能となります。

4.経営の安定・拡大

買手企業は、売手企業より事業規模が大きく、財務の健全性も高いことが一般的です。

M&Aにより買手企業の経営資源も活用することで、オーガニック成長(自社リソースによる成長)に比べ、高い成長が期待できるほか、経営の安定化にも繋がると考えられます。

5.売却利益の獲得

M&Aによる価格と、親族内承継・従業員承継に伴う価格は評価方法が異なります。

また親族内承継・従業員承継の場合、後継者の資金負担を抑える必要性が生じるため、M&Aによる価格は、その他承継方法による価格と比べ高くなることが一般的です。

すなわちM&Aでは長年経営に従事し、会社を成長させてきた対価をきっちり得ることができると言えます。

買い手側のメリット

  • 優秀な人材の確保
  • 新規エリアへの進出
  • 指導方法などのノウハウ獲得

1.優秀な人材の確保

学習塾業においては人材確保が課題となっております。

M&Aでは顧客基盤、人材等包括で獲得することが可能であるため、優秀な人材を纏めて獲得できることは最大のメリットの一つと言えます。

2.新規エリアへの進出

新規エリアへの進出を図るうえでも、M&Aは有効的であると考えられます。

自社で新たなエリアへ進出するためには、市場調査、拠店投資、人材確保、認知活動、受講生獲得等相応の期間と費用が発生します。

M&Aであれば、ノウハウ・人材・顧客基盤等を包括で獲得することができる為、垂直立ち上げにて時間を掛けずに新規エリアへ進出することが可能となります。

3.指導方法などのノウハウ獲得

M&Aでは事業・ノウハウ・人材等を包括で獲得できます。

その為、自社とは異なる優れた指導方法・ノウハウを獲得することができる為、より付加価値の高いサービスを提供できる体制構築が期待できます。

学習塾業界の売却相場

ここでは、学習塾業界の売却相場について解説します。

コスト・アプローチから見た相場

中小企業におけるM&Aにおいては、時価純資産+営業権(EBITDA×2~4年程度)により算定される価格が一般的な取引レンジとなっております。

(例)時価純資産200百万円 / EBITDA直近3期平均50百万円

   200百万円+(50百万円×中央値3年)=350百万円

   ※EBITDA:営業利益+減価償却費

※売却価格の相場・計算方法は「会社の売却価格・相場を知ろう!会社売却を進める前に必須の知識を徹底解説!」にて詳細に解説しておりますので、ご参照ください。

マーケット・アプローチから見た相場

類似企業比較法により、類似上場企業の財務数値を比較して算定することにより、売却価格相場を把握することも可能となります。

主にEV(事業価値)÷EBITDA倍率を採用することが一般的です。

直近における学習塾業界のEV/EBITDA倍率中央値は5.6倍となっています。(出所:SPEEDA>学習塾・予備校業界上場企業>EBITDA倍率マイナス先除外中央値)

(例)EBITDA50百万円 / 非事業用資産100百万円 / 無借金

   EBITDA50百万円×5.6倍+100百万円=380百万円       

 ※売却価格の相場・計算方法は「会社の売却価格・相場を知ろう!会社売却を進める前に必須の知識を徹底解説!」にて詳細に解説しておりますので、ご参照ください。

学習塾業界のM&A事例

ここでは、学習塾業界における最近のM&A事例をご紹介します。

1.㈱成学社による㈱一会塾の子会社化(学習塾×学習塾)

個別指導を展開する成学社は、学習塾を展開する㈱一会塾の全株式を取得し、2024年6月1日付で子会社化した。

一会塾は、医学部・難関大学に特化した「一会塾」を2教室運営、塾生一人ひとりに合わせた授業形態(少人数制クラス指導、マンツーマン個別指導)を設け、独自に開発した医学部・難関大学に特化したカリキュラムを実施している。

医学部・難関大学受験マーケットへの進出、双方の持つノウハウ共有によるグループとしての更なる発展を目指してM&Aを実施。

2.㈱早稲田アカデミー(4718)による㈱幼児未来教育の子会社化(学習塾×異業種)

学習塾を展開する東証プライム上場企業である㈱早稲田アカデミーは、未就学児を対象とした幼児教室を展開している㈱幼児未来教育(東京都:売上高103百万円)の全部式を取得し、2024年1月31日付で子会社化した。

新たな事業領域への進出、ならびに未就学児向けの教育ノウハウの共有、新たな顧客層との接点強化による業容拡大を目指して、M&Aを実施。

3.㈱TBSホールディングスによる㈱やる気スイッチグループホールディングスの子会社化(異業種×学習塾)

やる気スイッチグループは、個別指導塾「スクールIE」、運動教室や学童保育事業を展開している。

多様な映像アーカイブと映像技術を持つTBSグループは、知育・教育と親和性があると考え、「知育・教育事業」に本格進出することを意思決定。

やる気スイッチグループの教育ノウハウや顧客基盤とTBSのクリエイティブ力・コンテンツ制作力を掛け合わせることで、新たな知育・教育事業の共創を目指すことを目的として、M&A実施。

学習塾業界でM&Aを行う際のポイント

売り手側

1.企業成長の実現

譲渡後に一層の企業成長の実現が期待できるか否かは重要なポイントとなります。

期待できる企業であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。

また、企業成長の実現が図れることは従業員の処遇改善や取引先の企業成長にもつながることが期待できます。

2.専門家のサポート

M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。

M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

買い手側

1.売手が抱える課題を把握する

 学習塾業界は、労働集約型産業であることから、未払い残業代の有無、その他簿外債務リスクの検証は必要不可欠であると考えられるため、取引前にデューデリジェンスを実施することをおすすめします。

2.シナジー効果について調査

買収により、買手企業、買収対象会社双方にどのようなシナジー効果が期待できるかを精査することが重要です。

既存取引先に新たなサービスが展開できる、スケールメリットにより業務の効率化やコスト削減が実現できる等、具体的かつ定量的に分析・検証することが重要となります。

3.人材の流出

学習塾業界においては、優秀な人材(講師)が生徒を集める原動力になっているため、買収後に優秀な人材が流出してしまうと、当初企図したM&A戦略の実現が困難となるリスクがあります。

優秀な人材の流出を防ぐために、従業員への丁寧な説明、PMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。

まとめ

学習塾の売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の検討を行います。

リガーレは、警備業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアドバイザー清水洋伸

専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等

大学卒業後、大手銀行に入行。

M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。

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