M&Aとは?基本の意味やメリット・デメリットを簡単に解説!
M&A(合併と買収)は、企業が経済活動の中で成長や競争力を強化するために用いる戦略の一つです。
本記事では、M&Aの基本的な意味やそのメリット、デメリットについて分かりやすく解説します。
M&Aとは?その意味と定義
M&Aとは「Merger and Acquisition」の略で、日本語に訳すと「合併と買収」を意味します。
これは、企業が他の企業を合併(Merger)したり、買収(Acquisition)することで、事業の拡大や経営資源の強化を図る戦略です。
M&Aのメリット
M&Aを実行する場合の売り手側、買い手側のメリットについてそれぞれ解説します。
売り手側のM&Aのメリット
売り手側のメリットとして以下のような事項が考えられます。
事業承継問題(後継者不在等)の解決、会社の存続
【「後継者難倒産」件数推移】
出典:帝国データバンク「全国企業倒産集計」を参考に弊社作成
日本の企業経営者の平均年齢は61歳にせまり、多くの企業が事業承継の適齢期を迎えています。
近年、国や自治体による事業承継への働きかけにより、企業の後継者問題に対する意識は高まりつつあり、後継者不在率は低下傾向となっています。
その一方で、帝国データバンクが集計している『後継者難倒産』は 2023 年 に564 件(前年475件、18.5%増)発生し、年間で初めて500件を超え、過去最多を大幅に更新しました。
後継者不在を最後のきっかけとして、事業の継続を自ら諦めるケースが増加しました。
代表者の高齢化が進むことで、病気や死亡により事業継続が困難になるほか、「後継者育成」が頓挫し、承継完了が間に合わず、事業の継続を断念するというリスクが高まってきています。
後継者問題を抱える企業にとって、M&Aは事業承継と事業成長を同時に可能とする手段となりえます。
親族や社員に後継者となりうる人物がいない場合の解決策としても非常に有効と言えるでしょう。
出典;帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」
(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p231108.pdf)
従業員の雇用の継続
M&Aを行うことで、経営者の引退後も、従業員の雇用を守ることができるというメリットがあります。
経営者にとって、従業員の雇用を守ることは重要な役割の一つです。
廃業や倒産をした場合、従業員全員の再就職先を斡旋することは容易ではありません。
M&Aにより、経営者が引退した後も、将来にわたり事業が存続することとなれば、従業員やその家族も安心して生活することができるでしょう。
さらに、より大きなグループの一員となることで、従業員の活躍の場が広がったり、従業員の育成の強化、従業員の士気向上等に繋がる場合も多くあります。
経営者の個人保証の解除
個人保証とは、企業が金融機関から融資を受ける場合に、経営者などの個人が債務の連帯保証人となることを指します。
中小企業では、経営者が個人保証を行い、融資を受けている場合が多いですが、M&Aを実施する場合、譲受側企業による融資の肩代わりを行う、もしくは保証を引き受けることで、個人保証の解除が可能となります。
経営基盤の強化、企業の成長
M&Aを行うことで、売上の拡大やコスト削減といった、譲受側企業とのシナジー効果により、事業の更なる成長が期待できます。
また、上場企業や大手企業の傘下に入るという場合、大手のグループ企業として、ブランド力や信用力、採用力などの強化が期待でき、他社との競争力の向上に繋がる可能性もあります。
創業者利益の獲得
M&Aは、経営不振の企業が行う場合もありますが、中核事業に注力することを目的として、利益がでている事業や成長している事業であっても売却するケースも多くあります。
自社株を第三者へ売却(バイアウト)することにより、その資金を利用し、やりたい事業に注力することが可能となりますし、アーリーリタイアするという選択肢も考えられます。
創業者にとって大きなメリットの一つと言えるでしょう。
売り手側のデメリット
売り手側のデメリットとして以下のような事項が考えられます。
統合作業による組織負荷
M&Aの実行後は、組織体制や人事制度、社内のシステムなどの統合作業が必要です。
さらに、統合作業は「経営面」「業務面」「意識面」など様々な領域に及びます。
各企業の風土や文化の統一には時間がかかるものであり、急速に統合作業を進めようとすると、従業員に混乱を招く場合もあります。
統合作業は、経営者にとっても、従業員にとっても、大きな負荷がかかるため、計画的に進めていく必要があります。
従業員への影響
M&A実行後も、従業員の雇用条件を維持できるようにすることが一般的ですが、スキームによっては雇用条件が変わる可能性もあるため、注意が必要です。
特に、事業譲渡を行う場合は、雇用契約はそのまま引き継がれず、従業員と買い手企業との間で結び直すことになるため、雇用条件が変更される可能性もあります。
優秀な人材の流出を防ぐためにも、M&Aを実行する前に、雇用条件を維持できるよう交渉することが重要となります。
取引先への影響
M&Aにより、経営者の交代や担当者の変更、契約条件の変更等が起きた場合、既存顧客が離れてしまったり、取引先からの反発を招く可能性もあります。
このような事態を避け、取引先との友好な関係を保つためにも、売り手側の経営者がM&A実行後も当面の間は企業に在籍し、引継ぎを行うことも考えられます。
また、M&Aを検討する際は、事前に既存顧客や主要取引先との契約内容の確認をする必要があります。
注意すべきポイントの一つとして、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC)があります。
これは、M&Aなどを理由として、契約の一方当事者に支配権(経営権)の移動が生じた場合に、契約内容に制限がかかったり、他方の当事者によって契約を解除することができるという規定です。
M&Aによって、既存の顧客や取引先との取引条件が見直され、取引が停止される可能性もあるため、契約の相手方との状況を把握し、対応策を検討することが重要です。
買い手側のメリット
買い手側のメリットとして以下のような事項が考えられます。
短期間での事業規模・エリアの拡大
M&Aにより、売り手企業が持つ有形資産だけではなく、顧客や取引先、技術、ノウハウ等の無形資産を獲得できることで、事業規模やシェア、営業エリア等を短期間で拡大することが可能となります。
近年、各業界において再編が進む中、その業界の規模が成熟している場合に、業界内のシェアを高めることを目的として同業の買収を行うケースも増加しています。
業界内における地位を高めるために、M&Aは非常に有効な手段の一つと言えるでしょう。
事業の多角化・弱点の強化
人口の減少が進行し、多くの業界で先行きが不透明となる中、自社業界の先行き不安や、単一事業のみのリスクの分散といった目的で、M&Aを活用し、異業種への進出を図るケースも増えています。
自社でゼロから新規事業を立ち上げることは時間がかかるとともに、ノウハウもないため軌道に乗るまでより難しい道のりになりますが、既にその業界の実績を持つ企業を買収することにより、新規事業の進出を短期間で実現することが可能です。
優秀な人材の確保
M&Aの大きなメリットの一つとして、多くの人材を確保できることが挙げられます。
日本は少子高齢化、人口減少の影響により、企業の主な働き手となる生産年齢人口(15歳から64歳)が大幅に減少しています。
優秀な人材の確保は今後さらに困難になることが予測されます。
優秀な人材を新卒採用で獲得することは難しく、もし採用できたとしても教育と育成には長い時間が掛かります。
中途採用は即戦力となり得るものの、新たな組織の中で活躍ができるかは未知数です。
一方で、M&Aによる人材確保は、組織として成果を出しているチームや人材をそのまま自社内・自社グループ内に迎えることができるため、非常に合理的な手段と言えるでしょう。
中でも優秀な人材や、キーマンとなる人材については、M&A後も継続して社内に残ってもらえるよう、最終契約の締結に至る前に面談等を実施するなど、M&Aについて理解を得た上で進めることも検討することも考えられます。
買い手側のデメリット
買い手側のデメリットとして以下のような事項が考えられます。
多額の資金調達が必要
企業を譲り受けるためには多額の資金が必要となります。
大企業はもちろんですが、中小企業であっても高い技術力を持つ企業や成長段階の企業などの株式は、予想以上の評価額がつく場合もあります。
そのような企業をM&Aで譲り受ける際、資金の調達は大きな課題の1つとなるため、注意が必要です。
期待していた効果が見込めない可能性がある
譲り受ける技術や従業員をすぐに活用し、想定通りの売上を上げることは難しいことです。
会社の理念、文化が違う会社が統合されるため、統合作業や組織再編も容易ではなく、大きな労力がかかるため、期待していたシナジー効果を短期間で生み出せない可能性もあります。
簿外債務や偶発債務を引き継ぐ可能性がある
M&Aにおいて、買い手企業が簿外債務や偶発債務を引き継いでしまう恐れもあります。
簿外債務とは貸借対照表には記載のない債務のことで、退職給付債務や未払給与などが挙げられます。
勤怠管理がずさんな企業など、未払いの残業代がある場合もあります。
また、顧客との紛争や環境汚染などといった、将来会社に不利益をもたらすような偶発債務を承継してしまう可能性もあります。
偶発債務があった場合、M&A後に訴訟に巻き込まれ、多額の損害が発生する恐れも考えられます。
このようなM&Aにおけるリスクを回避するためには、必ず事前にデューデリジェンス(買収監査)といった調査を行うことが重要です。
従業員への影響
売り手企業の従業員の就業規則や労働条件を全てそのまま引き継ぐことは難しいため、買い手となる企業の就業規則や労働条件を踏襲することが一般的です。
会社の理念、風土もそれまでの会社とは異なるため、新たな環境に馴染めず、従業員のモチベーションの低下が起きたり、離職してしまう可能性も考えられます。
まとめ
このようにM&Aは、売り手側、買い手側の双方にとって、非常に大きなメリットがある戦略です。
ただし、同時にデメリットもあり、M&Aを成功させるためには、繊細な交渉や事前の調査が必要とされます。
よって、M&Aの手続きを進める際は、御堂筋税理士法人グループの株式会社リガーレのような、M&Aの専門家へ相談のうえ、慎重に進めていくことが求められます。
この記事の執筆
シニアアナリスト堀内槙
専門領域:株式価値算定、財務・税務DD、統合後の事業計画の策定等
地方銀行入行後、支店での窓口業務、融資事務、運用商品の提案サポートを経て、M&A本部に異動。主にバックオフィスとして、M&Aに関する提案書の作成、契約書の草案作成、法務チェックに加え、累計数百件を超える株式価値算定の経験を持つ。