印刷業界のM&A動向と最新事例

印刷業界のM&A動向と最新事例

印刷業界は、事業領域の多角化やスケールメリット・コストメリットによる収益力向上を図ることを目的としたM&Aが活発に行われております。

この記事では、印刷業界の特色や市場動向、M&A動向・事例、M&A成功に向けたポイントについて解説いたします。

印刷業界とは

ここでは、印刷業界の概要、業界を取り巻く環境(市場動向/課題)について解説いたします。

1.印刷業界の概要と印刷カテゴリ

印刷業界とは、様々な媒体の印刷を行う業界を差します。

大きく分けて「商業印刷」「出版印刷」「証券印刷」「事務用印刷」「包装印刷」「建装材印刷」「その他印刷」に分類され、2023年度においては、商業印刷が全体の約35%を占めております。

カテゴリ主要製品
商業印刷ポスター、カタログ、パンフレット、チラシ、店頭販促物、カレンダーなどに係る印刷
出版印刷新聞、雑誌、書籍、地図などに係る印刷
証券印刷有価証券、商品券、乗車券、入場券などに係る印刷
事務用印刷伝票などのビジネスフォーム、事務用品などに係る印刷
包装印刷包装(紙・プラスチックなど)、ラベルなどに係る印刷
建装材印刷壁紙など建装材、内装材、家電製品の化粧材などに係る印刷
その他の印刷磁気カード、プリント基板、CD・DVD、玩具などに係る印刷

 

出所:経済産業省「生産動態統計」弊社一部加工

2.印刷工程

印刷業の工程は、企画・編集・製版などの印刷前工程(プリプレス)、印刷(プレス)、製本・加工などの印刷後工程(ポストプレス)の3段階に分かれます。

従来は、印刷業の主な差別化・付加価値要素はプリプレスにあったが、デジタル化の進展に伴い、プリプレスにおける印刷会社の事業部分は縮小傾向にあります。

3.印刷手法

印刷手法は、製版の方式から凸版、凹版、孔版、平版の4つに分類されます。

現在最も一般的な印刷手法は平版印刷(オフセット印刷:インキをブランケットに転写してから紙に印刷する方式)です。

1990年代以降、デジタル化の進展に伴い、版を作らずそのまま印刷する「デジタル印刷」が登場、当該印刷は無版・短納期が特徴となっていることから「オンデマンド印刷」とも呼ばれます。

オフセット印刷などと比べると印刷の質は多少劣るが、製版コストが削減できる等のメリットを活かし、小ロットかつ低価格での印刷や、大ロットのバリアバル印刷に対応可能なことから、導入が進んでいます。

製版方式印刷方式対象製品特徴
凸版活版印刷 フレキソ印刷新聞、段ボール、名刺などコストが安い 画質より文字印刷向き
凹版グラビア印刷包装資材(紙、フィルム)、写真集、雑誌、紙幣など微細な濃淡が表現でき、写真画像の再現性が高い
孔版スクリーン印刷ステッカー類、時計、ガラスなど電子部品など様々な素材に印刷可能
平版オフセット印刷新聞、ポスター、チラシ、書籍など鮮明、大量ロットを安価に印刷可能

 4.印刷業界の市場動向

印刷・同関連業全体の出荷額は2008年以降減少傾向となり、2020年時点で約4.6兆円となっております。

コロナ禍の影響や紙媒体から電子書籍・インターネット広告へ需要がシフトしている等の要因から、市場規模は縮小傾向が継続しております。

一方、印刷カテゴリのうち、包装印刷においては市場規模が拡大トレンド。

コロナ禍以降、食料品を始めとする生活必需品や医薬品の堅調な需要、EC経由などの宅配の増加が要因として挙げられます。

出所:経済産業省「工業統計(産業統計表)」、「経済センサス-活動調査」

5. 印刷業界の抱える課題

印刷業界特有の課題として、以下2点が挙げられます。

紙媒体の減少

デジタル化の進行により、紙媒体の印刷物減少ならびに市場縮小は避けられない業界全体の課題となっています。

従来以上に印刷技術に特化して差別化を図るとともに、新たな事業を展開することが重要と言えます。

価格競争の激化

そもそも印刷業界は大手2社(凸版印刷、大日本印刷)の市場シェアが約70%と圧倒的に高く、市場規模が縮小していくなかで、中小規模の印刷会社は厳しい環境が続いています。

加えてネット印刷の台頭による価格破壊が行なわれており、中小規模の印刷会社は対抗するうえで値下げせざる負えない状況に陥っています。

印刷業界におけるM&A動向

近年、以下のような理由から印刷業界におけるM&Aが活発になっております。

既存事業強化

主に印刷会社による同業間によるM&A。

スケールメリット・コストメリットによる収益力向上、得意分野の異なる事業領域を取得(包装印刷や特殊印刷等)や海外における印刷事業拡大を目指したM&Aが活発に行われている。

異業種企業とのM&A

避けられない市場縮小から事業多角化を進める印刷会社が多く、特にデジタルマーケティングやIT関係企業とのM&Aを積極的に展開している。
また異業種企業が印刷内製化を目的とした印刷会社のM&Aも活発に行われている

印刷業界におけるM&A活用のメリット

人材派遣業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

  • 後継者問題の解決
  • 従業員の雇用継続
  • 個人保証・担保の解消
  • 売却益(創業者利益)の獲得
  • 経営の安定・拡大

買い手側のメリット

  • 新たな技術の獲得
  • 販路やシェア拡大等、生産効率の改善等のシナジー効果により収益性の向上が期待できる
  • 優秀な人材を確保できる

印刷業界の売却相場

ここでは、印刷業界の売却相場について解説いたします。

コスト・アプローチから見た相場

中小企業におけるM&Aにおいては、時価純資産+営業権(EBITDA×2年~4年程度)により算定される価格が一般的な取引レンジとなっております。

(例)時価純資産300百万円 / EBITDA直近3期平均30百万円

   300百万円+(30百万円×中央値3年)=390百万円
※EBITDA:営業利益+減価償却費

マーケット・アプローチから見た相場

類似企業比較法により、類似上場企業の財務数値と比較して算定することにより、売却価格相場を把握することも可能となります。

主にEV(事業価値)÷EBITDA倍率を採用することが一般的です。直近における印刷業界のEV/EBITDA倍率中央値は4.5倍となっています。

(計算例)EBITDA30百万円 / 非事業用資産200百万円 / 無借金

     30百万円×4.5倍+200百万円=335百万円

※評価方法の詳細はこちらの記事で解説しておりますので、ご参照ください。

https://ligare.management-facilitation.com/contents/4417/

※SPEEDA:印刷サービス業界における上場企業集計値(中央値)

印刷業界のM&A事例

ここでは、印刷業界における最近のM&A事例をご紹介します。

1.朝日印刷(3951)によるKinta Press&Packaging(M)Sdn.Bhdの子会社化(印刷×印刷)

朝日印刷㈱は、マレーシアの印刷会社であるKinta Press&Packaging(M)Sdn.Bhd(以下「KPL社」)の株式65%を取得し、2023年10月31日付で子会社化した。

朝日印刷は、医薬品・化粧品包材の製造・販売を行う印刷包材事業及び包装システム事業を展開。海外事業推進を重要な事業戦略の一つとして掲げ、ASEANでの事業拡大に取り組んでいた。

KPL社は、マレーシアに製造拠点を有する印刷会社であり、高価格帯の化粧品・食品向け製品を中心に幅広い製品群のコンセプト作成から製造・納品まで行うことを強みに、同国において確固たる地位を確立。

朝日印刷は海外事業推進を重要な事業戦略の一つとして掲げており、KPL社との協業並びに連携した営業提案活動によるグループ全体でのシナジー創出を図ることによる企業価値向上を目指してM&Aを実施。

2.城野印刷所による三恵印刷の子会社化(印刷×印刷)

印刷業を手掛ける㈱城野印刷所(熊本県)は、チラシ制作やパンフレット・ポスター制作などを展開する三恵印刷㈱(大分県)の全株式を取得し、2022年11月6日付で子会社化した。

三恵印刷が外注していた輪転機によるチラシ印刷を城野印刷所が担うなどのスケールメリットの他、各種業務を共通のデジタルツールやグループウェアにデジタル化することによる業務効率化、共同仕入によるコストダウン等による収益性向上等のシナジーを想定し、M&Aを実施。

3.イムラ封筒による、ハシモトコーポレーションの子会社化(異業種×印刷)

㈱イムラ封筒(3955)は印刷業を手掛ける㈱ハシモトコーポレーション(神奈川県:売上高389百万円)の全株式を取得し、2022年2月1日付で子会社化した。

イムラ封筒は、パッケージソリューション事業をコア事業として、封筒業界トップの地位を確立している。

ハシモトコーポレーションはイムラ封筒のパッケージソリューション事業の主力工場を支える印刷会社。印刷工程の内製化による業務の一貫化・効率化を目指してM&Aを実施。


4.山口証券印刷によるトラッドの子会社化(印刷×異業種)

山口証券株式会社は、スマートフォンアプリやIoTシステム開発を手掛ける株式会社トラッドの全株式を取得し、2022年9月30日付で子会社化した。

山口証券印刷は特殊印刷・加工、鉄道・バス関連制作、システム・アプリ開発などを手掛けている。

山口証券印刷のDX化を推進するとともに、相互の強みを活かしながら、「IoT×印刷の可能性追求」「新サービスの企画・展開」など、より付加価値の高い製品の開発・提供を目指してM&Aを実施。

印刷業界でM&Aを行う際のポイント

印刷業界におけるM&A成功のポイントを解説いたします。

売り手側

1.企業成長の実現

譲渡後に一層の企業成長の実現が期待できるか否かは重要なポイントとなります。

期待できる企業であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。

また、企業成長の実現が図れることは従業員の処遇改善や取引先の企業成長にもつながることが期待できます。

2.自社の強みを整理

買手企業が正しく企業価値を把握するためにも、技術や設備、取引基盤、社員スキルなどの棚卸を行い、強みを訴求することが重要となります。

3.専門家のサポート

M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。

M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

買い手側

1.人材の流出

印刷業界における、買い手側にとっての重要な経営資源の一つに人材確保があげられます。

会社の売却をきっかけに従業員が退職してしまうことを避けるためには、従業員への丁寧な説明、PMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。

従業員へ説明するタイミングについては、売り手側、アドバイザーも含め、慎重に検討しましょう。

2.売手企業の特性を把握

対象企業の収益構造、事業領域、設備、主要取引先及び業界を把握したうえで、統合後のシナジー効果(スケールメリット、コストメリット、多角化の実現可能性等)を検証することが重要なプロセスとなります。

3.専門家のサポート

M&AにおいてはM&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。

M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

まとめ

印刷会社の売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の検討を行います。

リガーレは、人材派遣業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

松本綾

シニアアドバイザー清水洋伸

メガバンクでのファイナンス業務を経て、アドバイザリー業務並びに財務デューデリジェンス業務に従事。

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