自動車部品製造業界のM&A動向について

自動車部品製造業界のM&A動向について

日本の基幹産業の一つと言える自動車産業。この自動車産業は今、100年に1度の大変革時代に突入したと言われており、これを支える自動車部品製造業界にも同様に変革が求められています。

この記事では、この激動の環境下に晒されている自動車部品製造業界の課題や展望、M&A事例やメリット、M&Aを進める上での留意点などをご紹介します。

自動車部品製造業界とは

まずは、自動車部品製造業界の定義や特徴について解説します。

自動車部品製造業界の定義

自動車部品製造業界の定義について説明します。

自動車部品業界は、自動車の製造および保守に必要な部品やシステムの設計、製造、販売を行う産業のことを指します。

また、自動車メーカーはティア構造(詳細後述)と呼ばれるサプライチェーンを構築しており、これらの1次・2次・3次下請け企業に中堅中小企業が多く含まれています。

自動車部品業界の主なカテゴリ

  • エンジン・パワートレイン部品:エンジン、トランスミッション、クラッチ、エキゾーストシステムなど
  • シャシー・サスペンション部品:ブレーキシステム、ステアリング、サスペンション、車軸など
  • 電気・電子部品:バッテリー、センサー、エレクトロニクス、照明システムなど
  • 内装部品:シート、ダッシュボード、インフォテインメントシステム、内装トリムなど
  • 外装部品:バンパー、グリル、ドア、ミラー、ウィンドウシステムなど
  • その他の重要部品:タイヤ、ホイール、オイルフィルター、エアフィルターなど

自動車部品製造業界の現状

1.ティア構造

自動車業界におけるティア構造は、自動車メーカーとその部品サプライヤーとの関係を階層化したものであり、サプライチェーン管理の基本概念です。

この構造は、自動車の製造プロセスを効率化し、各サプライヤーの役割を明確にするために用いられます。

  • ティア1(Tier 1)サプライヤー

各自動車メーカー(OEM:Original Equipment Manufacturer)に直接部品を供給します。

これには、エンジン、トランスミッション、電子制御ユニット(ECU)などの主要なコンポーネントが含まれます。

高度な技術力と開発能力を持つとともに、OEMと密接に協力して、新製品の開発や既存製品の改良を行います。

  • ティア2(Tier 2)サプライヤー

ティア2サプライヤーは、ティア1サプライヤーにユニット部品やサブアセンブリを供給します。

特定の製品や部品に特化した技術と製造能力を持つとともに、ティア1サプライヤーの要求に応じたカスタマイズや品質管理が求められます。

  • ティア3(Tier 3)サプライヤー

ティア3サプライヤーは、ティア2サプライヤーに原材料や基本的な部品を供給します。

特に、基本的な部品の製造については、中小零細企業が担っており、この製造分野に特化していることが多く見られます。

<ティア構造の目的と効果>

  • 効率的なサプライチェーン管理

各ティアのサプライヤーがそれぞれの専門分野で部品を供給することで、サプライチェーン全体の効率性が向上します。

  • リスク分散

サプライチェーンが多層構造になっていることで、特定の部品供給に問題が発生しても、他のティアからの供給によってリスクが分散されます。

  • 技術革新の推進

各ティアがそれぞれの専門領域で技術開発を行うため、全体としての技術革新が促進されます。

また、各自動車メーカーは、ティア1企業を中心に協力会を組織していることが一般的です。

トヨタ自動車であれば、部品メーカーを中心とする協豊会(加盟200社以上)、設備・建設・運送会社を中心とした栄豊会(加盟120社以上)などがあります。

2.自動車生産台数の推移

日本の自動車生産台数は、国内外の経済状況や政策、技術革新など様々な要因によって左右されます。

自動車部品製造業者は、この自動車の生産台数の変化に大きな影響を受けます。

以下に日本の自動車生産台数の推移に関する概略を示します。

(1)1960年代~1970年代: 急成長期

1960年代から1970年代にかけて、日本の自動車生産は急速に拡大しました。

この時期は、高度経済成長期とも重なり、国内外での需要が急増しました。

トヨタ、日産、ホンダといった主要メーカーが次々と市場に新モデルを投入し、生産能力を拡大しました。

(2)1980年代: 安定成長期

1980年代には、日本の自動車産業は世界的なリーダーシップを確立しました。

この時期は、品質と効率性が重視され、ジャストインタイム生産方式やカンバン方式などの革新的な生産技術が導入されました。

(3)1990年代: バブル崩壊と調整期

1990年代初頭のバブル経済崩壊により、国内の需要が減少し、自動車生産も一時的に低迷しました。

しかし、輸出市場の拡大とともに、次第に回復基調に戻りました。

(4)2000年代: グローバル化と新興市場の台頭

2000年代には、グローバル化が進展し、日本の自動車メーカーは新興市場への進出を強化しました。

特に、中国やインドなどのアジア市場での需要拡大が顕著であり、生産拠点も海外にシフトする動きが見られました。

(5)2010年代: 電動化と自動運転技術の進展

2010年代には、電動化や自動運転技術が進展し、自動車産業は大きな変革期を迎えました。

トヨタや日産を中心に、ハイブリッド車や電気自動車の生産が本格化しました。

(6)2020年代: コロナ禍とサプライチェーンの課題

2020年: パンデミックの影響により、生産工場の一時停止や需要の減少が直撃し、生産台数が大幅に減少しました。

2021年: ワクチン普及とともに経済活動が再開されるも、半導体不足や物流の混乱が続き、生産台数は引き続き低迷しました。

2022年: 半導体不足の影響が残りつつも、徐々に回復の兆しが見られましたが、依然として生産台数は低水準に留まりました。

2023年: 経済の正常化とともに、生産が回復しつつあるが、サプライチェーンのボトルネックが解消されるまでには至らず、完全な回復には時間がかかる見通しです。

乗用車国内生産台数(1970年-2022年)

(出典:一般社団法人 日本自動車工業会(JAMA)「四輪車生産台数」)

国内自動車生産台数(2021年-2023年)

(出典:MarkLines「自動車生産台数速報 日本 2023年」)

自動車部品製造業界が抱える課題と展望

ここでは、自動車部品製造業界が抱える課題と展望について、述べていきます。

自動車部品製造業界が直面する主な課題

1.価格競争と収益性の低下

サプライヤー企業は多くの場合、大手自動車メーカーや一次サプライヤーからの価格圧力に直面しています。

これにより、収益性が低下し、経営が厳しくなるケースがあります。また、2024年7月大手自動車メーカーが自社の製品製造に必要な金型を下請け企業に保管させ、その保管費用を適切に負担していなかったことが報じられました。

この行為は下請け企業にとって大きな経済的負担となり、一部の企業は経営難に陥る可能性も指摘されています。

2.品質管理の徹底

不良部品が原因で人命を失うことに繋がりかねないため、当然ながら製品の安全性、信頼性が極めて重要です。

重要保安部品(車の走行、操作、制御に関連する装置、または火災などの重大事故に至る装置)は特に品質の管理が徹底されています。

サプライヤー企業は、自動車メーカーと連携を取りながら、製造プロセスや検査基準の見直しを常に行い、不良品の削減に努めています。

3.人手不足と熟練工の高齢化

高度な専門知識と経験を持つ熟練工の高齢化が進み、技術継承が課題となっています。

加えて、少子高齢化により、若い労働力の確保が難しくなっています。

熟練した人材の育成には時間がかかり、また、離職率が高いと知識の継承が難しくなります。人材不足や人材の定着率の低さは、品質管理の一貫性を損なう原因となります。

最新の技術や自動化設備を導入することにより、人材の代替や補完を実現できますが、その導入には高いコストがかかるため、なかなか実現できずにいます。

4.環境規制への対応

環境規制が強化される中、カーボンニュートラルに向けて各自動車メーカーは大きな指針を出しています。

これに伴い、サプライヤー企業も同様に、製造プロセスや製品の環境負荷を低減するための対応が求められています。

具体的には、製造工程でのエネルギー消費を削減、再生可能エネルギーの導入を推進すべく、太陽光パネルの設置、原材料の見直しや新開発などが挙げられます。

<参考>

トヨタ自動車:トヨタは2050年までに新車販売時のCO2排出ゼロを目指す「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、EVやFCVの開発、再生可能エネルギーの利用、生産プロセスの改善を進めています​(JAMA 一般社団法人 日本自動車工業会)​。

日産自動車:日産は「Nissan Green Program 2022」を策定し、CO2排出削減と環境保護に向けた取り組みを強化しています。EV「リーフ」の普及促進や、エネルギー効率の高い生産技術の導入を行っています。​

5.EVシフトによる部品の変更

欧州では2030年、日本・北米は2035年までにガソリン車及びディーゼル社の新車販売を中止すると発表されています。

これにより、将来的にはガソリン車からEVへ生産がシフトされていきます。ガソリン車の部品点数は3万点以上ある中、EVはその半分程度とも言われています。

また、EV部品の生産には、従来の内燃機関車の部品製造とは異なる設備やプロセスが必要です。

これに対応ができない場合、サプライチェーン再構築の波に晒されることが懸念されます。

自動車部品製造業界の展望

自動車部品製造業界の今後の展望について説明します。

1.電動化の進展

自動車業界全体で電動化が進んでおり、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の普及が加速しています。

バッテリーや電動モーター、電子制御システムなどの新しい技術や部品に対する需要が増加しています。

2.自動運転技術の発展

自動運転技術が進化し、ADAS(先進運転支援システム)や完全自動運転車の開発が進んでいます。

センサーやカメラ、通信システムなど、自動運転に必要な部品の需要が増加しています。

3.コネクティッドカーの普及

車両同士やインフラと通信するコネクティッドカーが普及し、通信技術やデータ管理の重要性が増しています。

ソフトウェアやデジタルインフラに対する需要が高まっています。

4.環境規制の強化

環境保護の観点から、排出ガス規制や燃費基準が強化され続けています。

これにより、軽量化技術やエネルギー効率の高い部品の開発が求められます。

5.グローバルサプライチェーンの変動

地政学的なリスクや貿易摩擦、新型コロナウイルスの影響などにより、サプライチェーンの見直しが進んでいます。

地域ごとの生産や調達の最適化が必要です。

自動車部品製造業は、これらの大きな波に直面しており、変革を余儀なくされています。

自動車部品製造業界のM&A事例と活用のメリット

このように自動車産業においては、自動車の在り方の変容に伴い、各自動車メーカー及びサプライヤー企業への要求は高まる一方です。

この環境変化に対応するためには、M&Aは有効な手段の一つと言えます。

ここでは、自動車部品製造業界のM&A事例や、売手・買手双方のメリットについて、詳しく説明します。

豊田合成、自動車部品製造子会社を浜名プラスチック親会社へ譲渡

2023年11月、豊田合成株式会社(愛知県清須市)は、子会社の豊田合成インテリア・マニュファクチュアリング株式会社(以下「TGIM」)の全株式を、取引先の株式会社浜名プラスチック(静岡県湖西市)の親会社である株式会社エッチ・ピー・エス(静岡県湖西市)に譲渡することを決定した。

TGIMは自動車内装用プラスチック製品の製造販売業を営む。事業環境が急速に変化する中、TGIMの更なる成長を目的とする。

同業の浜名プラスチックグループになり、最適な生産体制の構築、生産の効率化や物流コストの低減を図ることで事業成長を期待する。

松尾製作所がFCMを買収

2023年2月、株式会社松尾製作所(愛知県大府市)はFCM株式会社(大阪市)を買収した。

株式会社松尾製作所は、自動車向けのモーター、インバーターなどの電装部品を扱う。FCM株式会社の技術を取り込むことにより、電子部品へのめっき加工と化学処理加工、電線用導体などの伸線加工を主とした導電機能材を加え、サービスの拡充を図る。

ジャパン・インダストリアル・ソリューションズがNSK子会社に第三者割当増資

2023年5月、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合(以下「JIS」)は、日本精工株式会社の連結子会社であるNSKステアリング&コントロール株式会社(以下「NS&C」)の議決権50.1%に相当する種類株式を第三者割当の方法により発行する。

JISは、自動車部品を含む複数の日本の製造業において経営改善の実績と経験を持ち、それらを踏まえた知見や情報ネットワークを有している。

ステアリング事業の改善、スタンド・アローン化の推進(ガバナンス構造・プロセスの見直し)などを進める。

売り手側のメリット

1.後継者問題の解消

自動車部品製造業界の中小企業では後継者問題が深刻化しているケースが多いです。

M&Aを通じて経営権を買手企業に引き継ぐことで、オーナーの引退後も企業が存続し、従業員の雇用も守られることになります。

2.経営の安定と持続性の確保

自動車メーカーの動向やマーケット環境など、外部環境は常に変化しています。

これに対し、中小企業は規模の小ささゆえに経営リスクが大きく、経済状況の変動や市場競争の激化に対して脆弱です。

M&Aを通じて大手企業や資金力のある投資家に買収されることで、経営基盤が安定し、持続的な成長が期待できます。

3.収益性の向上

  • 物流:物流コストの低減

買手企業の物流網とトータルで考えることができます。

効率的な物流ルートの確保や、コスト競争力のある専門業者との取引により、物流コストの圧縮が図れます。

  • 原材料仕入及びスクラップ材の収益率向上

製造プロセスにおいて活用される原材料のスケールメリットを享受できる可能性があります。

企業単体で仕入れるよりも、大手グループにてまとめて仕入れる方が単価を低減できる効果を期待できます。

また、スクラップ材についても、同様です。

  • 管理部門の集約

買手企業が一体で管理する場合、総務、経理、人事、経営企画などの業務は買手企業で担うケースがあります。

そのため、人材の配置転換によって人手不足の解消や新たな分野へリソースを供給できる可能性があります。

  • カーブアウト

現状のままでは譲渡対象事業の成長が見込めない場合、カーブアウトすることによって、経営資源をコア事業に集中することが実現できます。

4.技術の伝承と進化、新たなノウハウの導入

大手企業や先進的な企業が買手の場合、最新の製造技術やマーケティング手法が導入されます。

これにより、品質向上や生産効率の向上、R&Dの推進が期待できます。

買い手側のメリット

1.事業領域の拡大

買手にとって、中小企業を買収することによって新たな事業領域へ進出し、市場シェアを拡大、競争優位性を高めることができます。

また、特定の地域や市場でのプレゼンスを強化することが可能です。

2.技術やノウハウの取得

中小企業が持つ独自の技術やノウハウを手に入れることで、製品開発力や生産効率を向上させることができます。

新しい製品ラインや技術を迅速に市場に投入することができるようになります。

3.コスト削減と効率化

経営資源の統合により、スケールメリットを享受できます。これにより、調達コストの削減や生産効率の向上が見込まれます。

重複する部門や業務を統合することで、運営コストの削減が図れます。

4.製造キャパシティーの確保

自動車部品製造業界では、量産体制を求められることもあります。

そのため、製造する工場、設備、製品の保管場所、物流網、人材などの確保が必要です。

M&Aを通じ、これらを短期間で取得することができます。

自動車部品製造業界でM&Aを行う際のポイント

自動車部品製造業界でM&A(合併・買収)を行う際には、業界特有の要素や特性を考慮する必要があります。

以下に主なポイントをまとめます。

1.技術力の評価

対象企業の技術力や研究開発能力を評価します。

  • 活用され得る市場分野
  • 特許、意匠権、商標登録などの有無
  • 技術力の源泉は、設備なのか人材なのか
  • 高い技術力が損益計算書にまで反映されているか

また、この技術力を基にしたシナジーの見極めも必要になります。

2.顧客関係の維持

対象企業と主要取引先との関係が維持されるかを検証します。

主要取引先との取引基本契約書にて、主要株主や経営者が変わる場合は、事前説明及び事前承諾が必要なケースがあります。(CoC)

3.設備の状況

既存の設備及び人員体制での生産能力を把握する必要があります。

工場で取り扱い可能な素材や大きさ、加工技術、稼働率、従業員の勤務形態(2交代、3交代)などが挙げられます。

また、今後控えている新規設備の導入、更新投資の要否、修繕費の見積もりを事前に把握しておくことも重要です。

4.その他

  • 騒音:近隣住民との関係性、訴訟問題に発展していないか
  • 環境汚染対策:排水や汚染物質を適切に処理できているか
  • 災害時の対応:災害で生産活動が停止するリスク、BCP対応など

まとめ

自動車部品製造業界のM&Aをお考えの際は、売却・買収いずれの立場であってもM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の選定や探索、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、自動車部品製造業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンス、セカンドオピニオンのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

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