歯科医院業界のM&A動向について

歯科医院業界のM&A動向について

国内において、歯科医院の診療所数はコンビニよりも多いと言われています。

現在、この歯科医院業界では、M&Aを通じた事業統合が進んでいます。

この記事では、この歯科医院業界の課題や展望、M&Aのメリット、M&Aを進める上での留意点などをご紹介します。

歯科医院業界とは

まずは、歯科医院業界の定義や現状について解説します。

歯科医院業界の定義

歯科医院は、個人経営の診療所から、大手医療法人による複数の診療所を運営するチェーンまで、さまざまな形態があります。

また、特定の診療分野に特化した専門歯科医院や、総合的に幅広い診療を行う総合歯科医院など、その役割や提供するサービス内容も異なります。

歯科医院では、歯科医師や歯科衛生士が主に以下のような診療や治療を行います。

  • 一般歯科:虫歯の治療、歯周病の治療、歯のクリーニング、詰め物やクラウンの装着。
  • 予防歯科:定期的な検診、フッ素塗布、シーラント、口腔衛生指導など。
  • 歯科矯正:歯並びや噛み合わせの矯正、ブレースやアライナーの提供。
  • 口腔外科:親知らずの抜歯、インプラント手術、口腔がんの検査や治療。
  • 小児歯科:子供向けの歯科診療、乳歯のケア、成長段階に応じた歯の治療。
  • 審美歯科:ホワイトニング、歯の形や色の修正、ラミネートベニアの装着。
  • 義歯・インプラント:入れ歯の製作や調整、インプラント治療。

歯科医院業界の現状

厚生労働省の調べによると、2022年時点における国内の歯科医師数は約105,000人であり、年々増加傾向にあります。

(出典:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」)

また、勤務先の内訳を見てみると、診療所所属が約90,000人、病院勤務が約11,000人ということで、歯科医師の85%が診療所の開業もしくは勤務医であることが分かります。

(出典:厚生労働省「施設・業務の種別にみた歯科医師数」)

一方で、歯科医師の平均年齢をみれば診療所及び病院勤務のいずれも毎年上昇しています。

特に、診療所の平均年齢は54.8歳と高い水準です。

全体の歯科医師数は増加傾向にも関わらず、高齢な歯科医師が引退できずに継続勤務し、若年層への代替わりが行われていないことが見てとれます。

(出典:厚生労働省「年齢階層別にみた診療所に従事する歯科医師数及び平均年齢の年次推移」)

(出典:厚生労働省「年齢階層別にみた病院に従事する歯科医師数及び平均年齢の年次推移」)

また、地域によっては、歯科医師数が過剰な東京や、逆に不足している地方部が存在するなど、地域格差も問題となっています。

都市部では競争が激しく、地方では後継者不足や開業歯科医師の高齢化が課題となっています。

(出典:厚生労働省「都道府県別にみた医療施設に従事する人口10万対歯科医師数」)

診療所の院長は、診療と経営の両面で多くの責任を担っています。

診療業務については、院長は通常、診療の最前線に立つことが多く、直接的な肉体労働が多いです。

長時間の立ち仕事や患者の口腔内での作業は体力を消耗します。

また、患者とのコミュニケーション、治療計画の説明、フォローアップなども担います。

医療技術や治療法の進化に対応するために、定期的な研修や勉強が必要で、これには時間と労力がかかります。

その傍ら、医院内の経営管理業務も行います。

財務管理や予算編成、設備の購入・保守、業務の効率化を図るためのルールやプロセス設計、スタッフのシフト管理や教育、業務の調整などを行います。

スタッフのモチベーション維持や問題解決にも関わるため、精神的にも負担があります。

歯科医院業界の展望

歯科医院業界は、技術革新や社会的な変化により、今後もさまざまな発展と課題が見込まれます。

以下に、歯科医院業界の主な展望について説明します。

1. 高齢化社会の影響

日本の高齢化は急速に進行しており、高齢者人口の増加に伴い、歯科医療の需要が増大しています。

特に、高齢者向けの歯科サービス、例えば義歯の製作や調整、歯周病の治療、インプラント治療などが重要性を増しています。

また、要介護高齢者を対象とした訪問歯科診療のニーズも拡大しています。

これにより、歯科医院は高齢者に特化したサービスの提供や設備の充実が求められるようになるでしょう。

2. 予防歯科の重要性の増加

予防歯科の重要性がますます高まっています。

これには、定期的な歯科検診やプロフェッショナルクリーニング、フッ素塗布、シーラントなどの予防的措置が含まれます。

患者の意識が治療から予防へと移行する中で、歯科医院は予防歯科サービスの提供を強化することが求められています。

長期的な患者との関係構築が、歯科医院の収益性向上にも寄与するでしょう。

3. デジタル技術の進展

デジタル化は歯科業界全体に大きな変革をもたらしています。

例えば、デジタルスキャナーやCAD/CAM技術を用いた補綴物の製作、3Dプリンターによるインプラントやクラウンの精密な製作、さらにはAIを活用した診断や治療計画の作成が進んでいます。

これにより、治療の精度と効率が向上し、患者満足度の向上につながることが期待されています。

4. 訪問歯科診療の拡大

高齢化社会の進展に伴い、訪問歯科診療の需要が増加しています。

特に、要介護高齢者や通院が困難な患者に対して、歯科医師や歯科衛生士が自宅や施設を訪問して診療を行うサービスは、今後さらに重要性を増すでしょう。

この分野での事業拡大やサービスの質向上が、歯科医院にとっての新たな成長機会となる可能性があります。

歯科医院業界のM&A活用のメリット

このように歯科医院業界は、歯科医師の高齢化、地域格差、サービス内容の差別化、技術革新など様々な課題を抱えています。

その中で、M&Aは売手買手双方にとって有効な経営戦略の一つになり得ます。

ここでは、M&Aのメリットについて説明をします。

売り手側のメリット

1.後継者問題の解消

後継者がいない場合や後継者の育成が困難な場合、M&Aを通じて事業を適切な経営者に引き継ぐことで、医院の運営を継続できます。

2.業務負担からの解放

医院の運営には多くの責任やストレスが伴います。

診療による肉体的な負担に加え、スタッフの管理を含めた経営負担から解放され、精神的な負担を軽減できます。

3.地域社会への貢献

経営が難しくなった場合でも、M&Aを通じて医院を売却することで、患者へのサービスを維持し続けることができます。

新しい経営者が医院を引き継ぐことで、患者にとっても安心してサービスを受けることができます。

4.事業の成長機会の創出

事業をより大きな組織に引き継ぐことにより、新しい経営陣や人材の確保、デジタル分野や設備への追加投資など、医院の成長や発展の機会が広がる可能性があります。

買い手側のメリット

1.エリアの拡大

新しい地域やエリアに進出する機会を得ることができ、地理的な領域を広げることができます。

また、既存の患者リストや顧客基盤を取得することで、新たな患者の獲得にも繋がります。

2.人材確保と技術の融合

歯科医師や医院のスタッフを引き継ぐことで、経営や診療に関する専門知識やノウハウを持つ即戦力人材を確保できます。

エリアの制限はありますが、拠点間の人材交流も図ることが可能となります。

また、買収する医院が最新の技術や設備を持っている場合、それらの技術を自院でも利用することができ、診療の質を向上させることができます。

3.スケールメリットによる収益性の向上

既存の収益モデルや顧客ベースを引き継ぐことで、即時に収益を上げることが可能です。

また、複数の医院を運営することで、コスト削減や効率化が図れる場合があります。

4.低リスクでの開業

特に独立開業する場合は、開業準備の時間を大幅に短縮できると共に、既に運営中の医院を引き継ぐため、即座に診療を開始でき、収益を早く上げることが可能です。

また、既存の患者リストや顧客基盤を引き継ぐことで、新たに患者を獲得するための時間とコストも削減できます。

歯科医院業界でM&Aを行う際のポイント

歯科医院業界でM&A(合併・買収)を行う際には、業界特有の要素や特性を考慮する必要があります。

以下に主なポイントをまとめます。

1.診療エリアと患者の評価

医院の立地や地域性が業績に影響を与えるため、地域の市場状況や競争環境を考慮する必要があります。

地域の人口動態や競合他院の状況を把握し、M&A後の競争優位性を確保するための施策を検討します。

加えて、患者の年齢層や性別、医院長個人に紐ついている患者はどの程度か等を確認し、M&A後に患者が不安を感じないよう、スムーズな移行を心掛けることが重要です。

患者の信頼を損なわないよう、事前のコミュニケーションや移行計画を十分に行います。

2.診療スタッフと診療プロセス

新しい経営者が既存のスタッフとの関係をスムーズに引き継ぐことが重要です。

スタッフの雇用契約や労働条件、給与体系を確認し、引継ぎ後の雇用条件についての取り決めを行います。

また、スタッフの士気やモチベーションが離職のリスクや診療の質に直接影響します。

M&A後にスタッフの不安を解消し、円滑な移行を図ることが成功の鍵となります。

また、既存の診療プロセスや標準的な業務手順を把握することも重要です。

特に、院長や医師の診療スタイルやプロセスが、新しい経営者に適合するかを確認します。

特に複雑な治療法や特有のプロセスについて、詳細な情報の伝達が求められます。

3.設備の状況

歯科医院が保有する主な設備は、以下のものがあげられます。

  • 診療ユニット(チェア)
  • X線装置
  • 口腔内カメラ
  • 滅菌機器
  • 歯科用のレーザー、エアタービン 等

M&Aを検討する際は、これらの年式や使用年数、メンテナンス履歴、保証・サポートの内容や期間を把握します。

これにより、M&A後の追加コストの把握やトラブルの防止に繋がります。

まとめ

歯科医院業界のM&Aをお考えの際は、売却・買収いずれの立場であってもM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の選定や探索、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、歯科医院業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンス、セカンドオピニオンのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアドバイザー田澤脩平

専門領域:M&Aアドバイザリー、Projection、Valuation策定等

メガバンクに入行、中小零細から上場まで幅広い企業への法人営業に従事。その後、国内大手アドバイザリーファームにて、会計事務所のネットワーク開拓に加え、多数のM&A案件に携わる。事業会社へ転職後は自社のM&A専任者として、企業の買収・売却を実施。アドバイザリー、買手、売手の3つの面からM&Aに携わってきた経験を持つ。

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