M&Aの成功率はどのくらい?成功確率を高める方法はあるのか?
昨今、企業の成長戦略や事業承継の解決策として大手企業やベンチャー企業に限らず、中小企業でもM&Aを活用する動きが増加しております。
本来、M&Aは譲渡企業・譲受企業・取引先企業・社員の家族など多くの関係者にとってメリットがあります。
しかし一方で、必ずしも成功するとも限らず、場合によってはM&Aの失敗が大きな損害を与えるという事例もあるのが実状です。
そこで今回の記事では、失敗事例を参考にしながら、M&Aの成功確率を高めるために重要なことを解説したいと思います。
M&Aの成功率はどれくらいか
あらゆる業種で活発化しているM&Aですが、その成功率は半分にも満たないとも言われています。
実際に、2013年にデロイトトーマツコンサルティングが行った実態調査では、M&Aに成功したと評価している企業の割合は36%でした。
近年、M&Aを重要な経営戦略の一つとして掲げる企業も増えており、複数のM&A経験を積むストロングバイヤーと呼ばれる企業の存在はあるものの、大きく成功率が高まったかというとそうとも言えないと考えています。
また、売手オーナーにおいても、初めて経験をする会社売却において理想通りに進めることは非常に難しいです。
実際、オーナーズ株式会社が2023年に行った調査では、M&Aを経験するオーナーの半数以上は「妥協した/希望通りではなかった」と回答しています。
「M&A経験者100人の満足度と回答理由」
今後さらにM&Aを取り入れる企業が増え、成長戦略の一つとしてM&Aをフルに有効活用していくためにも、M&Aを成功に導くためのポイントをしっかりと押さえていくことが重要です。
「M&Aの成功」の定義とは
M&Aにおける成功の定義や基準はさまざまあり、また譲渡側と譲受側の立場や譲渡側においても株主(オーナー)と従業員の立場の違いによっても判断軸は異なります。
ここでは、譲渡側と譲受側のそれぞれにとっての「成功」とは何かを考えていきたいと思います。
株主(オーナー)における成功
株主(オーナー)にとっては、下記2点が主な成功の要素となります。
譲渡対価やM&A後の関わり方などの条件に満足できること
譲渡オーナーが一番初めに成功を感じるのが、希望した条件通りにM&Aを実現できた時ではないでしょうか。
条件といっても、オーナーにとっての身入りとなる株価だけではありません。
M&A後の役職や継続期間、出勤日数など経済的なものだけでなく、実際的に今後の人生にも関わることも含まれます。
理想とするセカンドライフを実現する上でも、対価の獲得や今後の働き方について納得できるかどうかは非常に重要なテーマとなります。
理想的な企業との提携を果たし、自社がさらに成長発展を遂げること
M&Aにて会社を譲渡することは会社にとっても一つの区切りになることは間違いありませんが、ゴールではありません。
焦ってしまい、M&A自体が「目的」となってしまうと、本来期待していたような結果にならず失敗してしまう可能性もあります。
我が子のように大事にしてきた会社が買手企業と共になることでさらに成長し、半永久的に存続することができれば譲渡オーナーにとってはそれも一つの成功と言えるはずです。
従業員における成功
従業員にとっては下記が主な成功の要素となります。
これまで通り、もしくはそれ以上の条件・環境で働き続けられること
従業員の多くは自社がM&Aを行うかどうかは特別な関心ごとではなく、むしろ今の環境を気に入っている従業員にとっては反対的な立場かもしれません。
その意味では、従業員においてはM&Aによって「大きな変化がない」ことが成功ともいえます。
実際には、最終契約の内容に従業員の雇用条件が実質的に現水準を下回らないことが盛り込まれることが一般的です。
ただし、経営陣の変更や職務環境の変化などによって働きづらくなる可能性もゼロではありません。
M&Aによって従業員の離反が起きないように、この点は譲渡企業・譲受企業ともによく認識すべき事柄となります。
譲受企業における成功
譲受企業にとっては下記2点が主な成功の要素となります。
投資回収が可能な範囲内での買収実現
買手企業にとっては、M&Aは様々ある経営戦略の選択肢のうちの一つであり、将来の利益として回収することが前提となります。
投資金額の設定や回収期限などは企業ごとで異なるため、社内で設定された条件内で買収できるか否かがM&A実行のフェーズでは重要となります。
また、条件内で買収を実現できたとしても、M&A後に想定していたようなシナジーが発揮されず投資回収ができないとなるとそのプロジェクトは失敗となるため、PMIを見据えての検討が必要となります。
買収先企業との人材交流や技術共有、販売ネットワークの拡大など
M&A戦略におけるメリットは単なる売上拡大などの数字面の話だけではありません。
従業員同士の人材交流などによって新しい風を取り込み、それが更なる相乗効果を生むようなケースもあります。
また、自社にはない技術やサービスを内製化することや、拠点や販売先ネットワークの拡大など事業面において+αの要素があるかどうかも成功へのカギとなります。
事業面でしっかり相手企業と連携することができれば、グループ内の活性化が進み想定以上のM&Aメリットを享受できるでしょう。
M&A成功に導くためのポイント(失敗事例を混ぜながら)
譲渡企業
M&Aの目的・希望条件を整理する
M&Aを検討するオーナーは、それぞれの背景によって検討する理由や目的は異なります。
後継者問題の解決や業績悪化・体調不良・別事業への集中など、目的に応じて進め方やアプローチ方法が変わってきます。
また、重視すべき条件も変わってくるはずです。
業績不安や体調不良という理由であれば、株価よりもスピードを重視した進め方になるでしょうし、別事業への資金確保という目的であれば、金額面の条件はマストとなります。
オーナー自身の目的や意向によって、短期間で進めていくのかじっくりと好条件の理想的な企業を探していくのかを整理することが大切です。
M&Aの交渉が進んでいくと条件面を考えることが先行してしまい、また色々な候補先とTOP面談をしていくうちに迷いが生じてしまうオーナーがほとんどです。
あらかじめ最初の段階で目的を明確にしておくことで、重要な局面での選択において冷静に判断することが可能となります。
しっかり時間をかけて検討する
一方で、多くの事例では急に会社売却を考え始める方が多いようにも感じます。
例えば、「急病により余命宣告をされた」や「大口の取引先との仕事が途絶え売上が大幅に減少する」、「会社における重要なキーマンや次期後継者の離職」などがきっかけで、一気にM&Aへと舵を切るようなケースはよくあります。
このようなケースの多くが、相手先の探索が困難になったり、相手企業に足許を見られてしまい条件交渉が上手くいかなくなったりということに繋がります。
先のことを予見することはできないので、最悪を想定した事業運営・組織体制づくりを行っていくことも非常に重要な要素となります。
会社が上手くいっているタイミングでM&Aでの売却を考えることは難しいですが、好条件かつ理想的な相手探しをする意味ではベストなタイミングとも言えるのです。
何かしら困ってからM&Aを検討すると、交渉を進めていく上で非常に不利になってしまうため、余裕がある時こそ選択肢として検討することは成功へのポイントと言えるでしょう。
複数企業からの入札をもとに比較する
譲渡オーナーがM&Aの交渉で好条件を獲得するために、複数社からのオファーを募り入札形式にすることはとても効果的です。
1社との交渉においては、条件を提示する側の買手側が有利に交渉を進めやすい側面があり、検討を止められる可能性などを考えると強気の交渉が出来ないこともあります。
その点、複数企業からのオファーがあれば競争環境によって条件が引きあがりやすい傾向にあり、希望する条件で成約する可能性が高まります。
当然ですが普通のオークションなどとは違い、株価が最も高いところを選ばなければならないわけではないので、譲渡対価以外の条件面や相手企業の規模などいろんな要素を含めて検討することが可能となります。
ただし、入札の数を増やしすぎるとデメリットもあり、多くとも5社程度でオファーを出し合うことが一般的です。
選択肢が増えることでオーナー自身の負担が増えることや開示先が増えることで情報漏洩のリスクが高まってしまうことなど、必ずしもオファーが多い方が良いということでもありません。
候補が多くなる可能性がある場合には、厳選した数社に絞るというのも進め方の一つになります。
どちらにしても、売手オーナーにとっては複数の候補先との交渉にする方が有利になりやすいため、多くのオファーを提示されるような企業・組織体制を構築していくことが非常に重要になります。
譲受企業
M&Aの目的を明確化する
譲渡オーナーと同様に、買手企業にとってもM&Aは経営戦略における一つの手段であり、会社ごとによって目的は異なります。
また、近年M&Aを検討する企業が大手企業だけでなく中堅中小企業においても一般化していることもあり、M&A自体が目的化してしまっているなんてケースもあります。
M&Aによって何を獲得したいのか、そのためにどんな企業がターゲットとなりうるのかを明確化することが第1ステップとなります。
一般的によくある買手のM&A目的は下記のものがあります。
- 独自の特許技術やノウハウ、有資格者の獲得
- 自社にない販売ネットワークの拡大
- 規模拡大によるスケールメリットを活かしたコスト減
- 新規エリア進出による商圏拡大 など
このような目的を基にターゲットを絞り、アプローチ手法を検討していくことも有効な手段となるかと思います。
トップ面談などを通じた双方の社風やM&A後のビジョンの構築
M&Aの検討フェーズにおいて、最初に重要となるステップがトップ面談です。
譲渡企業と譲受企業の経営者同士が直接顔を合わせて面談を行うイベントで、結婚でいうお見合いに例えられることもあります。
両社の事業に対する理解を深め、決算書や企業概要書などでの数字には表れにくい人間性などを確認する場となります。
最大の目的は、双方の人間性や社風・企業文化を説明し合い、疑問点や不安点を解消することです。
複数の買手候補がいる場合は自社をアピールする貴重な場となり、TOP面談で有意義な議論がなされるほどM&Aの成功確率が高まる傾向にあります。
デューデリジェンスによる対象企業の実態把握
TOP面談が完了し実際に交渉に進んでいく中で、重要となるフェーズがデューデリジェンス(買収監査)です。
M&Aを実行する上で、最終的な条件や契約内容を決定する指針となる工程になるため、可能な限り徹底的に取り組む必要があります。
デューデリジェンスの主な内容としては、財務・税務・法務・ビジネスなどがありますが、時間をかけてより深く調査をしようとするとその分費用も上がりますし、売手企業への負担も増えるため、要点を抑えつつ効率的に行っていくことがポイントとなります。
また、コスト削減のために調査自体を自社で行う企業もありますが、しっかりとリスク回避を行うためにも第三者の専門機関を通して調査を行うほうが好ましいです。
まとめ
M&Aの成功のためには、失敗する要因を消しながら実施すべき工程を確実に経ていくことが重要となります。
まずは専門業者にアドバイスを依頼することをお勧めします。
M&Aを進めていく中でも、プロセスごとで弁護士や税理士、アドバイザリー会社などからの助言を受けながら意思決定をしていくことでM&A成功の確率を高めていくことが可能になります。