技術者派遣のM&A動向と最新事例

技術者派遣のM&A動向と最新事例

技術者派遣の需要は近年高まっており、今後も市場規模は底堅く推移することが想定されます。

それに伴い、技術者派遣業界のM&A件数も増加傾向にあります。

この記事では、技術者派遣業界のM&A動向やM&Aのメリット、具体的なM&A事例などを紹介いたします。

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技術者派遣業界とは

ここでは、技術者派遣業界の概要、市場動向、技術者派遣業界が抱える課題について解説いたします。

1.技術者派遣業界の概要


技術者派遣業(エンジニア派遣)は人材派遣業界のうち、情報技術(IT)開発、ソフトウェア開発、機械設計、研究開発等の技術領域に対して、技術者(エンジニア)を派遣する業界を指します。

技術者派遣(人材派遣業界共通)には、「常用型派遣」と「登録型派遣」の2種類があります。

 常用型派遣登録型派遣
  定義派遣会社が派遣社員を直接雇用し、長期間に渡って複数の企業に派遣する形態。個人が派遣会社に登録し、派遣会社からの依頼に基づき、短期間またはプロジェクト単位で企業に派遣される形態。
    特徴派遣されるエンジニアは、一つの企業で派遣契約が終了しても、派遣会社での雇用関係が継続される。
専門知識を有するエンジニアは、常用型派遣が多い。
登録型派遣は、派遣期間が終了すると同時に雇用契約も終了。

2.技術者派遣業界の市需動向

人材派遣業界全体の市場規模は8.6兆円(2020年度)、そのうち技術者派遣市場は約2.3兆円と推計されております。(テクノプロ・ホールディングス株式会社IR情報)

慢性的な人材不足、研究開発ニーズやITアウトソース需要の拡大などを背景に長期的に成長を遂げている業界であり、主要上場企業においては直近5年で年率11.4%の成長率で推移しております。

※SPEEDA:人材派遣(製造業・IT等)業界、上場企業売上高集計(2018年度より開示されている企業を対象)

3. 技術者派遣業界の抱える課題

技術者派遣業界特有の課題として、以下2点が挙げられます。

人材確保

技術者派遣業界においては、「スキルの高い技術者の確保」が最たる課題と言えます。

上記の通り派遣需要は高まっている一方、適切なスキルを持つ技術者の数が限られている為、需要に対して供給が不足している傾向にあります。

技術者採用環境については、売手市場が継続している為、中小企業においては特に即戦力となる技術者を確保することが極めて困難な環境にあります。

スキルの高い技術者を確保する為には、適切な報酬体系、福利厚生の充実、キャリア開発の機会などを提供することが必要不可欠であり、固定費上昇、収益力低下に繋がる恐れがあります。

過当競争

技術者派遣業界は今後も成長が期待できる業界である一方、比較的参入障壁が低い為、中小規模の技術者派遣会社が乱立し、競争が激化しております。

継続的な受注を獲得する為に、派遣単価の引き下げが余儀なくされる他、人材確保に向けた人件費、採用・教育費用等の固定費増加を背景に、中小規模の技術者派遣会社における収益環境は厳しい状況が続いております。

技術者派遣業界におけるM&A動向

近年、以下のような理由から技術者派遣業界におけるM&Aが活発になっております。

  • 技術者確保のためのM&A

上記の通り、技術者確保は業界共通の課題であり、優秀な技術者を確保することにM&Aを活用するケース。

  • 技術領域・派遣領域の拡大を目指したM&A

例えば建設技術者派遣がIT技術者派遣会社をグループ化し、新たな派遣領域へ進出する為にM&Aを活用するケース

  • 販路拡大・ポートフォリオ分散を目的としたM&A

派遣先業界や派遣技術領域を多角化・拡大する為にM&Aを活用。

例えば、派遣先業界が自動車業界の比重が高い → その他業界に強みを有する技術者派遣会社のグループ化を行う等。

技術者派遣業界におけるM&A活用のメリット

技術者派遣業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

まずは売り手側のメリットをいくつかご紹介します。

  • 後継者不在問題の解決
  • 個人保証・担保の解消
  • 従業員の雇用継続
  • 経営の安定・拡大
  • 売却益(創業者利益)の獲得

後継者不在問題の解決

親族・経営者・従業員において、後継者として適任者が存在しない、株式取得資金の支払いが困難なことなどを理由に、事業承継を行うことができないケースが多々あります。

M&Aを活用することで、事業及び従業員・取引先等の経営資源を第三者へ承継することが可能となるため、後継者問題について解決することができます。

個人保証・担保提供の解消

親族や従業員への承継の場合、当該後継者が一人立ちできるまで、オーナー個人保証を継続せざる負えないケースが少なからず存在します。

M&Aにおいては、買手企業が変わり担保・保証の提供をすることによって、売手オーナーの個人保証・担保提供は解消されます。

従業員の雇用継続

後継者不在問題が解決しない場合の選択肢は、IPOを除けば「廃業」又は「M&A」の2つしかございません。

廃業となれば、長年会社へ貢献してくれた従業員を解雇しなければなりません。

一方M&Aを活用すれば、従業員の雇用・労働条件を維持することが可能となります。

経営の安定・拡大

買手企業は、売手企業より事業規模が大きく、財務の健全性も高いことが一般的です。

M&Aにより買手企業の経営資源も活用することで、オーガニック成長(自社リソースによる成長)に比べ、高い成長が期待できるほか、経営の安定化にも繋がると考えられます。

売却利益の獲得

M&Aによる価格と、親族内承継・従業員承継に伴う価格は評価方法が異なります。

また親族内承継・従業員承継の場合、後継者の資金負担を抑える必要性が生じるため、M&Aによる価格は、その他承継方法による価格と比べ高くなることが一般的です。

すなわちM&Aでは長年経営に従事し、会社を成長させてきた対価をきっちり得ることができると言えます。

買い手側のメリット

続いて、買い手側のメリットです。

  • 優秀な人材を確保できる
  • エリア拡大、販路拡大
  • 技術・派遣領域の拡大

優秀な人材を確保できる

技術者派遣業界においては慢性的な人材不足が課題となっております。

M&Aでは顧客基盤、人材等包括で獲得することが可能であるため、優秀な人材を纏めて獲得できることは最大のメリットの一つと言えます。

エリア拡大、販路拡大

新規エリアへの進出を図るうえでも、M&Aは有効的であると考えられます。

自社で新たなエリアへ進出するためには、市場調査、拠店投資、行政への手続き、人材確保、顧客開拓等相応の期間と費用が発生します。

M&Aであれば、ノウハウ・人材・顧客基盤等を包括で獲得することができる為、垂直立ち上げにて時間をかけずに新規エリアへ進出することが可能となります。

また、双方の異なるサービスを双方顧客へセールスすることで、販路拡大等新たな収益機会の獲得も期待できます。

技術・派遣領域の拡大

M&Aでは許認可・専門技術ノウハウ・人材等を包括で獲得できます。

その為自社にない新たな技術・派遣領域を獲得することも可能であり、双方の強みを活かしたグループ戦略により新たな収益機会を獲得することが期待できます。

技術者派遣業界の売却相場

ここでは、技術者派遣業界の売却相場について解説いたします。

コスト・アプローチから見た相場

中小企業におけるM&Aにおいては、時価純資産+営業権(EBITDA×2年~4年程度)により算定される価格にて取引がなされることが一般的となっております。

(例)時価純資産300百万円 / EBITDA直近3期平均50百万円

300百万円+(50百万円×中央値3年)=450百万円
※EBITDA;営業利益+減価償却費

マーケット・アプローチから見た相場

類似企業比較法により、類似上場企業の財務数値と比較して算定することにより、売却価格相場を把握することも可能となります。

主にEV(事業価値)÷EBITDA倍率を採用することが一般的です。

直近における技術者派遣業界のEBITDA倍率中央値は8.6倍となっております。

(計算例)EBITDA50百万円 / 非事業用資産100百万円 / 無借金

50百万円×8.6倍+100百万円=530百万円

※評価方法の詳細はこちらの記事で解説しておりますので、ご参照ください。
https://ligare.management-facilitation.com/contents/4417/

※SPEEDA:人材派遣(製造業・IT等)業界、上場企業集計結果(中央値)

技術者派遣業界のM&A事例

ここでは、技術者派遣業界における最近のM&A事例をご紹介します。

網屋(4258)によるグローブテック・ジャパンの子会社化

株式会社網屋は、IT技術者派遣の株式会社グローブテック・ジャパン(東京都千代田区 / 売上高2億4700万円 / 営業利益800万円)の全株式を取得し、2023年8月23日付で子会社化した。

網屋は、セキュリティエンジニア派遣事業の立ち上げに際し、エンジニア派遣を主業としたグローブテック・ジャパンを子会社化し、網屋が得意とする「サイバーセキュリティ人材育成」をグローブテック・ジャパンの人材に施し、付加価値の高いサイバーセキュリティエンジニアの派遣事業の立ち上げを狙いとしたM&Aである。

ワールドホールディングス(2429)による日本技術センターの子会社化

株式会社ワールドホールディングスは、技術者派遣事業を手掛ける株式会社日本技術センターの全株式を取得し、2023年5月22日付で子会社化した。

ワールドホールディングスは、研究開発・技術開発・アフターサービス等の「ものづくり」領域の川上から川下まで広くカバーした人材サービスを展開している。

日本技術センターは、高度な機械設計技術者を多く抱え、大手メーカー向けの製造・技術者派遣事業の他、機械・電気・電子・ソフトウェア等の技術分野での請負事業を展開しており、特に関西地区に強みを持っている企業。

ワールドホールディングスの基幹ビジネスである人材教育ビジネス、中でもプロダクツHR事業における技術分野の強化、西日本エリアの強化を企図したM&Aである。

コアコンセプト・テクノロジー(4371)によるピージーシステムの子会社化

株式会社コアコンセプト・テクノロジーは、システム開発を手掛ける株式会社ピージーシステム(山口県宇部市 / 売上高543百万円 / 営業利益23百万円)の自己株式を除く全発行済株式を取得し、2023年5月19日付で子会社化した。

ピージーシステムは、山口県宇部市と広島県広島市を拠点に、地場企業や官公庁・自治体向けの各種システム開発及び運用・保証や、システム開発会社へのエンジニア派遣等を手掛けている。地方拠点の拡大とリソースの確保による事業拡大を目的としたM&Aである。

技術者派遣業界でM&Aを行う際のポイント

技術者派遣業界でM&Aを行う際に留意すべきポイントを解説いたします。

人材の流出を防ぐ

技術者派遣業界における、買い手側にとってのM&Aの重要な目的の一つに人材確保があります。

会社の売却をきっかけに従業員が退職してしまうこと避けるためには、従業員への丁寧な説明、PMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。

従業員へ説明するタイミングについては、売り手側、アドバイザーも含め、慎重に検討しましょう。

請負業務の適切な管理体制を構築する

技術者派遣会社では、派遣契約以外に「請負契約」にて受注しているケースも多々見受けられます。

請負契約は簿外債務リスクが内在された契約形態であり、プロジェクトマネジメント等適切に管理できる体制を構築できているか確認することが重要となります。

まとめ

技術者派遣会社の売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の検討を行います。

リガーレは、技術者派遣業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアドバイザー清水洋伸

専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等

大学卒業後、大手銀行に入行。

M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。

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