M&Aの手数料はどれくらいかかる?手数料の種類、計算方法や手数料相場について徹底解説!
M&Aに係る手数料は法的に定められていないため、M&A専門家によって大きくことなります。
また専門家によっては当初契約締結前の手数料説明が十分ではないケースも散見されます。
M&Aを検討する場合、一般的にかかる手数料の種類、相場ならびに留意すべき点を把握したうえで、進めていくことが重要となります。手数料に係る留意事項は以下7つあります。
この7つが現時点で明確にイメージできない方は、是非とも最後までお読みください。
手数料留意事項「キーワード」 |
①相談料の有無 |
②「着手金」「中間報酬」の有無 |
③「着手金」「中間報酬」と「成功報酬」の関係 |
④成功報酬計算方式 |
⑤「取引金額」の定義 |
⑥最低成功報酬 |
⑦成功報酬支払のタイミング |
M&Aに掛かる手数料の種類と相場
M&Aに係る主たる手数料は下記7つに分類されます。
それぞれ留意点を踏まえ、詳しく解説します。
手数料項目 | 内容 | 相場 |
相談料 | 専門家へ正式に依頼する前に係る相談料 | 無料~10万円程度 |
リテイナーフィー | M&A検討から成約までの月額固定報酬 | 数十万円~数百万円 |
着手金 | 専門家とのアドバイザリー契約を締結する際に発生する費用 | 無料~200万円程度 |
中間報酬 | 売手(買手)と基本的諸条件が合意した時点で発生する費用 | 無料~想定成功報酬の20%程度 |
デューデリジェンス費用 | デューデリジェンス(買収監査)に係る費用 買手が負担するケースが大部分を占める | 実費 |
成功報酬 | M&Aが成約した時点で発生する費用 | レーマン方式 (取引金額×1~5%) |
最低成功報酬 | 専門家毎に設定される成功報酬の下限報酬 | 5百万円~25百万円 |
相談料
専門家へ正式にサポートを依頼する前段階のフェーズで、専門家に相談する際に発生する手数料です。
昨今では弊社のように相談料無料で対応している専門家が大部分を占めていると思われます。
当初相談する際には、相談手数料が発生するか否かを確認することをお勧めします。
リテイナーフィー
成功報酬とは別に、M&A専門家に支払う月額固定報酬(顧問料)のことを指します。
売手企業における原状分析や候補先の選定・交渉、買手企業におけるM&A戦略立案、ターゲット選定等M&Aに係る検討から相手先との交渉終了までの期間を対象期間としてリテイナーフィーを支払うことが一般的です。
リテイナーフィーは案件の難易度、専門家の案件に係る工数等をベースに設定され、月額数十万~数百万円程度が相場とされています。
なお、リテイナーフィーを設定していない(無料)専門家も増加傾向にあります。
専門家へ正式に依頼する前に、費用体系についてしっかり確認することが重要です。
着手金
専門家へ正式に依頼する際に発生する手数料です。当初契約時に50万円~200百万円程度の水準が相場となりますが、以下2点留意する必要があります。
なお、昨今では着手金無料で対応する専門家も増加傾向にあります。
- 着手金は返金されない
着手金はM&A成立・不成立に関わらず返金されないことにご留意ください。 - 着手金と成功報酬の関係
着手金の位置づけが、M&A成立後の成功報酬より控除されるケース(=内枠方式)と控除されないケース(=外枠方式)があります。着手金の相場が50万円~200万円程度である為、外枠方式の場合、内枠方式と比べてM&A専門家へ支払う総額報酬が50万円~200万円高くなることにご留意ください。
中間報酬
専門家へ正式に依頼後、「一定のフェーズに達した時点」で発生する手数料です。
一定のフェーズは専門家によって異なりますが、一般的には「相手方との基本的諸条件の合意:基本合意締結」又は「独占交渉権の決定時」に発生します。
なお、昨今では中間報酬無料で対応する専門家も増えております。
着手金と同じく、「成功報酬より控除される場合と、控除されない場合がある(専門家によって異なる)」ことに留意が必要です。
デューデリジェンス費用
デューデリジェンス(以下「DD」と言う)費用は、最終契約を締結する前に、買手企業が専門家(弁護士・税理士・公認会計士等)に依頼して売手企業の実態調査を行うプロセスに係る費用です。
DDの種類は「経営」「財務」「税務」「法務」「労務」等多岐に渡ります。
どのDDを実施するか、またどこまで調査するか、調査対象会社の規模・業種・グループ企業数などによって、手数料は大きく異なる為、明確な相場はありません。
参考までに財務DDにおいては調査対象会社が中小企業と想定した場合、100万円~500万円程度が多いように思われます。
成功報酬
M&A成立時(最終契約締結後)に発生する手数料です。
多くの専門家は「取引金額に対してレーマン方式に定められた料率を乗じた金額」にて算出します。
M&Aにおけるレーマン方式に基づく料率は、下表料率を採用することが一般的となっております。
取引金額 | 料率 |
5億円以下 | 5% |
5億円超 10億円以下 | 4% |
10億円超 50億円以下 | 3% |
50億円超 100億円以下 | 2% |
100億円超 | 1% |
例えば、取引金額10億円の場合の成功報酬は(5億円×5%)+(5億円×4%)=4,500万円と計算されます。
成功報酬4つの留意点
成功報酬には、大きく分けて以下4つの留意点があります。
非常に重要な項目につき、それぞれ詳しく解説します。
1.成功報酬支払のタイミング
2.取引金額の定義がM&A専門家によって異なる
3.最低報酬額がM&A専門家によって異なる
4.既に支払済である「着手金」「成功報酬」の取り扱い
1.成功報酬支払のタイミング
成功報酬支払のタイミングが「最終契約締結時」「クロージング時」の2パターンあります。
「クロージング」とはM&Aの実行(譲渡手続/譲渡代金支払完了)がなされた時点であり、一連のM&A手続きが完了したタイミングである為、「クロージング時」払いの場合特段留意の必要はありません。
留意が必要なケースは「最終契約締結時」に成功報酬を支払う場合です。
M&A手続きの場合「最終契約締結」から「クロージング」まで一定の期間を設けることが一般的ですが、この期間にブレイク(合意解消)するケースが稀にあります。
その場合、支払った成功報酬の返金を受けることができないことに留意が必要です。
昨今では着手金・中間金無料の「完全成功報酬型」で支援するM&A専門家も増加しておりますが、成功報酬支払いのタイミングは重要となりますので、ご留意ください。
2.「取引金額」の定義が専門家によって異なる
成功報酬(レーマン方式に基づく料率)計算のベースとなる「取引金額」の定義が専門家によって異なることに留意が必要です。
取引金額が大きくなればなるほど、成功報酬金額が高くなることになりますが、専門家が採用する「取引金額」によっては、数百万円~数千万円程度成功報酬金額に差が生じることもあります。
なお、「取引金額」の算定は大きく分けて以下4つの基準があります。
成功報酬計算事例①
ここでは「取引金額」の算定基準が、どの程度影響を及ぼすかを事例に基づいて説明します。
(例)株式譲渡代金450/役員退職金50/オーナー借入金100/銀行借入金200/総負債500
単位:百万円 | 採用基準 | 取引金額 | 成功報酬(レーマン) |
専門家A | 株式価値基準 | 500 | 25 |
専門家B | オーナー受取額基準 | 600 | 29 |
専門家C | 企業価値基準 | 800 | 37 |
専門家D | 移動総資産基準 | 1000 | 45 |
本事例の場合、「株式価値基準」を採用する専門家Aと、「移動総資産基準」を採用する専門家Dでは、計算のベースとなる取引金額で500百万円の差異が生じ、成功報酬は専門家Aの方が20百万円低い結果となります。
3.最低報酬がM&A専門家によって異なる
M&A専門家の多くは「最低報酬」制度を採用しており、「レーマン方式で計算された成功報酬」と「最低報酬」のいずれか高い方の金額を支払う必要があります。
その為、計算事例①では「移動総資産基準」が高いと説明しましたが、比較的小規模の会社の場合、「最低報酬金額」に左右される為、必ずしも「移動総資産基準」が高い結果とはなりません。
成功報酬計算事例②
ここでは、「最低報酬」制度がどの程度影響を及ぼすかを事例に基づいて解説します。
(例)株式譲渡代金100/役員退職金0/オーナー借入金50/銀行借入金50/総負債200
この場合、レーマン成功報酬は専門家Aが一番低いものの、最低報酬制度の結果、成功報酬を一番高く支払う専門家はAとなります。
単位:百万円 | 採用基準 | 取引金額 | 成功報酬(レーマン) | 最低報酬 | 採用成功報酬 |
専門家A | 株式価値基準 | 100 | 5 | 25 | 25 |
専門家B | オーナー受取額基準 | 150 | 7.5 | 20 | 20 |
専門家C | 企業価値基準 | 200 | 10 | 15 | 15 |
専門家D | 移動総資産基準 | 450 | 22.5 | 20 | 22.5 |
4.既に支払済である「着手金」「中間報酬」の取り扱い
上記「着手金」「中間報酬」の項目で説明した通り、「着手金」「中間報酬」を成功報酬から控除する「内枠方式」と控除しない「外枠方式」があります。
上記「成功報酬計算事例②」のケースに当てはめると成功報酬支払い金額及びトータル支払報酬は下記の結果となります。
(いずれの専門家も着手金・中間報酬の合計金額を5百万円と仮定)
単位:百万円 | 着手・中間計算方式 | 採用成功報酬 | 着手金・中間報酬 | 成功報酬支払額 | トータル支払報酬 |
専門家A | 内枠 | 25 | 5 | 20 | 25 |
専門家B | 外枠 | 20 | 5 | 20 | 25 |
専門家C | 外枠 | 15 | 5 | 15 | 20 |
専門家D | 外枠 | 22.5 | 5 | 22.5 | 27.5 |
「成功報酬計算事例②」では専門家Aが一番高い結果となりましたが、「着手金、中間金」の取り扱いが専門家Aのみ内枠方式、その他専門家は外枠方式とした場合、「専門家D」がトータルで一番高い報酬となります。
まとめ
M&A専門家を手数料だけで比較することはおすすめしませんが、M&Aを本格的に進める前に手数料体系をしっかり把握し、納得のいく形で進めていくことが重要です。
本件記載の主な留意事項は以下7つです。「①相談料」のみM&Aを相談する前に、「②~⑦」についてはM&A専門家へ正式に依頼する前に確認しましょう。
手数料留意事項「キーワード」 |
①相談料の有無 |
②「着手金」「中間報酬」の有無 |
③「着手金」「中間報酬」と「成功報酬」の関係 |
④成功報酬計算方式 |
⑤「取引金額」の定義 |
⑥最低成功報酬 |
⑦成功報酬支払のタイミング |
弊社はアドバイザリー業務の他デューデリジェンス業務も手掛けております。
M&Aご検討の際は、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆
シニアアドバイザー清水洋伸
専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等
大学卒業後、大手銀行に入行。
M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。