M&Aにおけるデューデリジェンスとは?種類や目的を解説!
M&Aを行う上で、非常に重要となるプロセスがデューデリジェンス(以下「DD」と呼ぶ)です。
買収後に「知らない債務があった」 「取引先との契約が解消され」 「対象会社のITインフラを活用することができず、追加コストが発生した」 「想定していた事業上のシナジーが全く出せなかった」といった事態にならないように、「買収対象会社の課題・リスクを含めた実態把握」を行うことが重要となります。
この実態把握を行う調査が「DD」です。
本記事では、「DD」の種類や具体的な調査内容、DDのポイントについて解説します。
特に初めてM&A(買収)を検討している企業様は、お読みいただくことをおすすめいたします。
デューデリジェンス(DD)とは
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aプロセス※の中で最終契約締結前に買収側が買収対象会社(事業)の「価値」を適正に把握するための調査をいい、「買収監査」や「DD」とも呼ばれます。
買収対象会社の適正価値ならびに買収後のシナジー実現性を把握するうえで、極めて重要なプロセスとなります。
※M&Aプロセス全体については、別記事「https://ligare.management-facilitation.com/contents/5005/」にて詳しく解説しておりますので、ご参照ください)
デューデリジェンス(DD)の種類
買収対象会社の実態を把握する為の、DDの種類は多岐に渡ります。M&A案件の特性(M&A戦略・M&Aスキーム・事業内容・財務内容等)に応じて、適切なDDを選択し調査することが重要です。
下記7つが代表的なDD種類となりますので、それぞれ詳しく解説いたします。
デューデリジェンスの種類 | 主な依頼先 | |
---|---|---|
1. | ビジネスデューデリジェンス | コンサルタント、会計事務所など |
2. | 財務デューデリジェンス | 会計事務所、コンサルタントなど |
3. | 税務デューデリジェンス | 税理士 |
4. | 法務デューデリジェンス | 弁護士 |
5. | 労務デューデリジェンス | 社会保険労務士など |
6. | 人事デューデリジェンス | コンサルタント、社会保険労務士など |
7. | ITデューデリジェンス | コンサルタント |
ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)
ビジネスDDとは、買収対象会社のビジネスモデルの把握、外部環境分析・内部環境分析を通じて、買収対象会社の収益の源泉ならびに潜在リスクを抽出することを目的に実施します。
買収後の早期シナジー実現に向けて、買収後に取り組む課題・優先順位を明確にするうえで、重要なDDの一つとなります。
以下、調査内容の一例をご参照ください。
項目 | 詳細 |
---|---|
外部環境分析 | 市場分析、競合分析、バリューチェーン分析 |
内部環境分析 | 販売フロー、生産フロー、事業構造調査、事業別・商品別限界利益、変動費・固定費分解、バリューチェーン分析 |
将来収益 | 分析結果から事業計画の補正 課題と想定シナジーによる効果検証 |
財務デューデリジェンス(財務DD)
財務DDとは、買収対象会社の財務・会計の実態を調査し、適切な価値、統合後の課題を抽出することを目的に実施します。
対象会社の「価値」に直接影響を及ぼす実態純資産、ネットデット、正常収益力分析を中心とした調査となる為、案件に関わらず重要なDDであると言えます。
以下、調査内容の一例をご参照ください。
調査項目 | 詳細 |
---|---|
貸借対照表分析 | 実態純資産の把握、資金分析、運転資金分析、簿外債務・偶発債務の検証 |
損益計算書分析 | 正常収益力分析、収益構造分析、費用構造分析 |
ネットデット | キャッシュライクアイテム※1、デットライクアイテムの抽出※2 |
管理体制 | 経理・管理体制、年次・月次決算精度・フロー |
※1 キャッシュライクアイテム:現金同等物(換金性の高い有価証券、節税目的の保険積立金等
※2 デットライクアイテム:有利子負債類似項目(リース債務、退職給付債務等)
税務デューデリジェンス(税務DD)
税務DDとは、買収対象会社における税務リスクの抽出を目的に実施します。
潜在的な税務リスクは簿外債務となる為、「価値」に反映させる必要があるほか、場合によっては買収を中断せざる負えない可能性も存在します。
財務DDとは違い、税務DDを担当できる専門家は「税理士」に限定されます。
「財務」と「税務」は非常に近い関係性があるため、実務上「財務DD」と併せて税理士を抱えている会計事務所に依頼することが多くなっております。
以下、調査内容の一例をご参照ください。
調査項目 | 詳細 |
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全体把握 | 法人税申告書、消費税申告書、償却資産税申告書、修正申告書、納税・滞納状況、各種届出状況 |
税務調査 | 過去の税務調査・税務訴訟等の内容 |
損金否認リスク | 費用計上科目における損金算入妥当性検証 |
組織再編 | 過去の組織再編・資本取引等の税務処理 |
関連者取引 | 役員や株主等との取引内容及び取引金額妥当性 |
その他 | 税務上の欠損金、優遇税制等 |
法務デューデリジェンス(法務DD)
法務DDとは、買収対象会社の株式、取引、その他契約関係等法的な問題点や、潜在リスクを把握したうえで、買収条件への反映や、統合後の課題を抽出することを目的に実施します。
法的リスクは買収条件を左右するだけでなく、法令遵守の観点から買収を中断せざる負えない可能性もある為、重要なDDの一つと言えます。以下、調査内容の一例をご参照ください。
調査項目 | 詳細 |
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組織・運用状況 | 定款、社内規則、取締役会議事録、株主総会議事録など |
株式 | 株主名簿と実態調査、株式の存在 |
契約関係 | 取引先との基本契約(COC)、売買契約、業務委託契約、賃貸借契約など |
人事・労務 | 従業員の労働条件、退職・解雇等労働環境 |
許認可 | 許認可の取得状況、買収スキームによる再取得の要否 |
紛争・訴訟 | 訴訟や紛争(過去及び現在)、潜在的な訴訟・紛争リスク |
法令遵守 | 会社法、税法、労働関係法、その他各種法令の順守状況 |
労務デューデリジェンス(労務DD)
労務DDとは、買収対象会社の労務に関する法令遵守体制を含む実態把握及び潜在リスクの抽出、買収後の統合準備を目的に実施します。
買収対象会社が労働集約型産業や、深夜残業が多いビジネスモデルの場合、労務DDの重要性が増すものと考えられます。以下、調査内容の一例をご参照ください。
調査項目 | 詳細 |
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規程整備 | 就業規則、その他関連規程の整備状況 |
労働時間・勤怠管理 | 労働時間の管理体制 |
割増賃金・残業代金 | 割増賃金及び残業代が適正に計算されているか |
社会保険 | 社会保険の加入状況 |
法令遵守 | その他労働関係法令の遵守状況の確認 |
人事デューデリジェンス(人事DD)
人事DDとは、買収対象会社の人事制度全般を対象とした調査・分析です。買収象会社の人事制度の把握及び課題抽出、買収後の統合準備を目的に実施します。
買収後の統合フェーズ(PMI)を円滑に進めるうえで重要なDDの一つです。以下、調査内容の一例をご参照ください。
調査項目 | 詳細 |
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組織体制・人員構成 | 組織体制や従業員構成、入退社数・離職率・出向者の推移 |
制度 | 人事制度、人事評価制度、報酬体系、退職金制度、福利厚生制度 |
人件費 | 賃金水準、労働生産性、労働分配率、人員計画 |
キーマン | キーマンとなる従業員の把握 |
労使関係 | 労働組合の概要把握、労使間の協定、過去及び現在の労働紛争 |
教育研修 | 従業員研修、資格支援、育成プログラム |
ITデューデリジェンス(ITDD)
ITDDとは、買収対象会社が利用しているITシステムの把握及び課題抽出、買収後の統合準備を目的に実施します。
特にM&Aにおけるシナジーを実現するうえで、ITシステムが重要な位置づけにある場合には、ITDDにて実態調査することが重要となります。
以下、調査内容の一例をご参照ください。
調査項目 | 詳細 |
---|---|
組織体制 | ITに係る組織体制の把握 |
ITインフラの構成 | ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク構成、クラウド環境 |
ITシステム | 基幹システム、業務システム、webサイト等 |
セキュリティ | セキュリティ対策状況 |
IT運用コスト | システム開発、運用・保守に関する費用 |
デューデリジェンスの進め方
DDは種類に限らず概ね下記5のステップで進めていきます。
それぞれ詳しく解説します。
なお、補足となりますが中小規模のM&Aの場合、DD期間は1ヵ月以内で完了することも多いですが、買収対象会社の規模、調査対象会社数・調査範囲によっては数カ月程度の期間を要するケースもあることにご留意ください。
- 依頼するDD種類について決定
- 専門家の選定
- DDの調査範囲を決定
- 資料収集・Q&A・現地調査・マネジメントインタビュー
- 最終報告会
依頼するDD種類について決定
上述の通り、DDの種類は多岐に渡ります。
ただし、全てのDDを取り組むことは費用対効果ならびに被買収企業の負担を考慮すると現実的ではありません。
基本的には「価値の変動が大きくなる可能性が想定される項目(リスクが高いと思われる項目)」を優先的に取り組むことが重要であると言えます。
一般的には「財務DD」「法務DD」を選択肢とする買収会社が多く見受けられますが、必ずしもその2つを取り組むことが正解とは言えません。
例えば「労働集約型産業」や「深夜残業の多い事業会社」の場合、「労務DD」の重要性が高まります。
また、買収対象会社が新規事業領域である場合、対象会社事業計画に基づいた価格にて基本合意を締結しているような案件では、「ビジネスDD」の重要度が高まります。
専門家の選定
DD種類の方針が決定したら、次は専門家の選定に移ります。
DDの種類に応じた各専門家へ打診し、DDに係る提案書並びに見積書を取得し、精査したうえで専門家を決定します。
専門家選定は単純に当初提案における費用の高低だけで選定することはおすすめできません。
調査対象範囲及び調査方法により費用は変動する為単純比較はできない他、「調査の質・能力」に大きな差異が生じる可能性があるためです。
DDにおける実施経験などヒアリングのうえ、信頼できる専門家を選定することが重要といえます。
DDの調査範囲を決定
専門家が決定したら、「調査範囲(スコープ)」を決定します。調査範囲を広げるほど、「調査時間」と「費用」がかかることに留意が必要です。
専門家の意見を聞きながら、「調査範囲」を決定していくことが重要となります。
資料収集・Q&A・現地調査・マネジメントインタビュー
「調査範囲」が決まれば、実際のDD開始となります。
まず専門家より調査に必要な「資料依頼リスト」の提示を受け、資料収集から始まります。
専門家による分析・検証が随時行われ、不明点に関する「Q&A」を書面でやりとりし、実態調査を進めていくこととなります。
その後必要に応じて「現地調査」を行い、マネジメントインタビュー(代表者やCFO、顧問税理士等に対するヒアリング)にて、追加ヒアリングを行うことで、実態把握の補完をおこないます。
最終報告会
上記の調査工程を踏まえ、専門家は「最終報告書」を完成させ、報告会にて最終報告を受けることで一連のDDプロセスが終了となります。
DDにより発見された課題を踏まえ、「最終買収条件の整理」「最終買収条件の交渉」「最終買収契約締結」「買収後に向けた課題整理」「買収の実行(クロージング)」「統合フェーズ(PMI)を行うプロセスに入ります。
まとめ
デューデリジェンス(DD)はM&Aプロセスの中でも特に重要なプロセスとなります。
DDの種類は多岐に渡りますが、共通目的は「対象会社の課題・リスクを含めた実態を把握することで、適切な「価値」を判断し、買収後に当初想定しているシナジーを実現する為の課題整理」です。
全てのDDを実施するのではなく、買収対象会社の事業特性、買収目的、買収スキームに応じて、最適なDDに取り組むことが重要です。
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