ビルメンテナンス業界のM&A動向と最新事例
ビルメンテナンス業界においては、後継者不在、人材不足を背景としたM&Aが活発に行われております。この記事では、ビルメンテナンス業界におけるM&A動向、M&A成功に向けたポイント、最新事例について解説します。
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ビルメンテナンス業界の現状
ここではビルメンテナンス業界の市場動向、取巻く環境について解説します。
ビルメンテナンス業界の概要
ビルメンテナンス業とは、日本標準産業分類の建物サービス業に該当し、「ビルを対象に清掃、保守、機器の運転を一括して請け負い、これらのサービスを提供する事業所」と定義されています。
ビルメンテナンス業務は大きく分けて下記5つの業務に大分類され、従事する業務において「電気主任技術者」「消防設備点検資格者」など各種資格が必要となる場合もあります。
ビルメンテナンス業界においては、大手上場企業22社のシェアが約30%程度、大手による寡占度は比較的低い業界であるものの、業界上位4社(「イオンディライト」「スターツコーポレーション」「共立メンテナンス」「日本管財ホールディングス」)の売上高が約20%占めております。
ビルメンテナンス業界の市場動向
ビルメンテナンスの市場規模(業界総売上高)は約4.3兆円程度と推計(全国ビルメンテナンス協会 2021年度)。
都市部を中心としたオフィスビル・商業ビルの空室率改善や再開発による新規物件の受注増などにより緩やかに市場規模は拡大傾向、景気に左右されにくい業界であり、今後も底堅い成長が見込まれます。
ビルメンテナンス業界における課題
今後も底堅い成長が見込まれるものの、ビルメンテナンス業界は多くの経営課題を抱えております。
主たる課題として以下3つ解説いたします。
- 従業員の高齢化と慢性的な人材不足
ビルメンテナンス業界は労働集約化産業であり、人材採用・育成は避けては通れません。
ビルメンテナンス業界における従業員の年齢は、「ビル・建物清掃員:平均年齢54.7歳」「警備品:平均年齢51.1歳」となっており、全業種平均年齢43.7歳に比べて著しく高齢化が進行しております。(令和4年賃金構造基本統計調査)
要因として、業界としての賃金水準が決して高くはなく、重労働・夜間・休日勤務などの労働環境から、若い人材採用のハードルが高く、人材確保ができていないことが挙げられます。 - 競争激化
ビルメンナンス業界は安定した需要がある一方、新たなビルが大幅に増えているわけではありません。
オーナーによるコスト意識も強くなっており、競争入札が採用されるケースも増加している背景から、同業他社との価格競争は激化しおります。 - 人件費高騰による利益圧迫
ビルメンテナンス業界における売上高人件費比率は約8割を占めます。(直接人件費47.1%、間接人件費7.5%、外注費20.6%)
同一労働同一賃金の施行(2021年4月)、人材確保のための賃金増、採用コスト増などにより、利益が圧迫されています。
今後も人件費増加は避けられない課題であるため、業務効率化を図るためのIT投資や外国人労働者の雇用など、違う角度からアプローチすることも重要な検討課題と言えます。
ビルメンテナンス業界におけるM&A
ビルメンテナンス業界においては、「後継者不在」「深刻な人材不足」を背景に、中小規模のビルメンテナンス会社が大手の傘下に入るM&Aが盛んに行われております。
また、大手企業においては海外への事業展開を企図したM&A、ビルメンテナンス業界への進出を企図した異業種からのM&Aなどが活発に行われております。
ビルメンテナンス業界におけるM&Aメリット
ビルメンテナンス業界において、M&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。
売り手側のメリット
1.後継者問題の解決
2.個人保証・担保提供の解消
3.従業員の雇用継続
4.売却利益の獲得
5.経営の安定・拡大
買い手側のメリット
1.市場シェア向上による収益改善
2.優秀な人材の獲得
3.新規エリアへの進出
4.受託業務の拡充・サービス強化
5.スケールメリットによる運営コストの低減
ビルメンテナンス業界の売却相場
ここでは、ビルメンテナンス業界の売却相場について解説します。
コスト・アプローチから見た相場
中小企業におけるM&Aにおいては、時価純資産+営業権(EBITDA×2~4年程度)により算定される価格が一般的な取引レンジとなっております。
(例)時価純資産300百万円 / EBITDA30百万円
300百万円+(30百万円×中央値3年)=390百万円
マーケット・アプローチから見た相場
類似企業比較法における類似上場企業の財務数値を比較して算定することにより、売却価格相場を把握することも可能となります。
主EV/EBITDA倍率(事業価値÷EBITDA)を採用することが一般的であり、直近におけるビルメンテナンス業界のEV/EBITDA倍率中央値は約7倍となっています。
(例)EBITDA30百万円 / 非事業用資産150百万円 / 無借金
EBITDA30百万円×7倍+非事業用資産150百万円=360百万円
※売却価格の相場・計算方法は「会社の売却価格・相場を知ろう!会社売却を進める前に必須の知識を徹底解説!」にて詳細に解説しておりますので、ご参照ください。(https://ligare.management-facilitation.com/contents/4417/)
ビルメンテナンス業界のM&A事例
ここでは、ビルメンテナンス業界における最近のM&A事例を3つご紹介します。
【事例①】同業他社によるM&A
綜合警備保障(2331)によるカンソーの子会社化
綜合警備保障㈱(ALSOC)は、2024年12月1日付でビルメンテナンス業を営む㈱カンソー(大阪)の全株式を取得し、子会社化した。
ALSOCは国や地方公共団体、一般事業者向けに多種多様な警備サービスを中心に、建物の維持管理などに対応するファシリティマネジメント事業(以下「FM事業」)、介護事業などを展開。
FM事業においては、人材の確保・生産性の向上など多くの課題に直面している。カンソーをグループ化することで、関西圏におけるFM事業の拡大・強化ができると考え、M&Aを実施した。
【事例②】異業種によるビルメンテナンス業界への進出を目的としたM&A
シーズメン(3083)によるミヤマの子会社化
㈱シーズメン(現スターシーズ㈱)は、2024年8月9日付でビルメンテナンス業を営む㈱ミヤマ(長野県)の全株式を取得し子会社化したシーズメンは衣料品小売事業を展開している。
天候要因・時流の変化・景気動向・消費者の行動様式変更等の外部環境に影響を受けやすい事業のため、外部環境が変化しても安定的に収益を生み出す事業ポートフォリオの構築が必要であると判断し、新規事業を検討していた。
ミヤマは長野県を中心に約30年以上にわたって総合ビルメンテナンス事業を展開しており、確固たる信頼と営業基盤を有している。
シーズメングループが求める事業ポートフォリオ再構築に資する先であり、グループの成長発展に寄与するものと判断しM&Aを実施した。
【事例③】ビルメンテナンス会社による異業種のM&A
サンケイビルマネジメントによる伸和サービスの子会社化
総合ビルメンテナンス事業を手掛ける㈱サンケイビルマネジメント(以下「サンケイ」)は2024年10月1日付で、高速道路交通規制業務を手掛ける伸和サービス㈱(大阪)の全株式を取得し子会社化した。
伸和サービスは、西日本エリアを中心に高速道路交通規制業務や建物管理を中心に事業展開する約50年続く歴史のある企業。
サンケイは高速道路規制業務については、社会インフラにおいてより重要となる分野であると認識。
新たな領域への事業拡大と西日本エリアでの営業拡大を図り、更なる成長・躍進ができると考えM&Aを実施した。
ビルメンテナンス業界でM&Aを行う際のポイント
売り手側
1.事業成長の実現
売手企業が、売却後に一層の事業成長の実現が期待できるか否かが重要なポイントとなります。
期待できる買手であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。
2.専門家のサポート
M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。
M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。
買い手側
1.シナジー効果についての調査
買手企業、売手企業双方にどのようなシナジー効果が期待できるかを精査することが重要です。
その為、買収対象会社の事業特性を把握することが欠かせません。
ビルメンテナンス事業における受託業務領域、受注形式や、受託物件、顧客数、手数料率、またはM&A後のコストメリット等、具体的かつ定量的に分析・検証することが重要と言えます。
2.人材流出
買い手側にとってのM&Aの重要な目的の一つに人材確保があります。
会社の売却をきっかけに従業員が退職してしまうこと避けるためには、従業員への丁寧な説明、PMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。
従業員へ説明するタイミングについては、売り手側、アドバイザーも含め、慎重に検討しましょう。
3.デューデリジェンスの実施
ビルメンテナンス業界においても、デューデリジェンスを実施することは重要です。
特に労働集約型産業であるため、人事労働管理、未払残業の検証、受注先からのクレームや、訴訟の有無等、その他簿外債務・偶発債務についての検証はM&Aを成功させるうえで、重要な項目であると言えます。
まとめ
ビルメンテナンス会社の売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。
専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の件・交渉サポートを行います。
弊社はビルメンテナンス業界におけるM&Aに精通しているほか、財務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆
シニアアドバイザー清水洋伸
専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等
大学卒業後、大手銀行に入行。
M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。