社長・代表取締役の交代に必要な手続きは?M&A時にも知っておくべき代表者変更の実務について解説
企業にとって、代表者の変更、経営者の交代というのは重要なイベントです。
M&A時にも知っておくべき、代表者変更の手続きやポイント、注意点について解説していきます。
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代表者変更の流れ及び必要な手続きについて
代表者変更の流れ及び必要な手続きについて説明いたします。
後継者の選定
現社長が代表者の交代を考える際には、まず後継者の選定を行わなくてはなりません。
現社長の親族を後継者とする親族内承継、社内の役員または従業員を後継者とする社内承継、外部からの経営者招聘またはM&Aによる第三者承継と、その選択肢は様々です。
後継者を誰にするかは、会社の未来に大きな影響を与える重要な意思決定であるため、慎重な検討が求められます。
2015年に中小企業が実施した調査を基に作成された下図によれば、近年、親族内での後継者確保の困難化等の影響から、親族内承継の割合が減少傾向にある一方、親族外承継(従業員承継またはM&A)の割合が増加傾向にあることがわかります。
特に直近5年以内に事業承継を実施した企業は、その65%以上が親族外承継を選択されたことになります。
この傾向は現在においても変わっておらず、従業員への社内承継、M&Aによる第三者承継がトレンドとなっていることがわかります。
(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン」記載の「図表13:経営者の在任期間別の現経営者と先代経営者との関係」をもとに、株式会社リガーレにて再編加工)
株主総会での決議
後継者の選定が終われば次に具体的な手続きに入っていきます。
代表取締役に就任するためには、事前に取締役へ就任する必要があるため、株主総会で取締役への就任手続きを行います。
M&Aによる代表者変更の場合は、クロージング後速やかに臨時株主総会を開催し、新任取締役の選任決議が行われます。
取締役会が設置されていない会社では、この株主総会で代表取締役の選任を行うことができるほか、取締役の互選(取締役の過半数の一致)で定める方法や、定款変更時に代表取締役氏名を定款へ記載することにより定めることもできます。
取締役会での決議
取締役会が設置されている会社においては、株主総会で取締役を選任した後、取締役会にて代表取締役を選任します。
取締役会の決議においては、決議に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)の賛成をもって可決されます。
法務局への登記変更手続き
社内での手続き完了後、法務局へ登記変更に係る書類を提出します。
一般的な提出書類は下記のものがあります。
・ 株主総会議事録
・ 取締役会議事録
・ 辞任届
・ 就任承諾書
・ 印鑑証明書
・ 印鑑届書
・ 変更登記申請書
これらの必要書類は、会社によっても異なるため、司法書士等の専門家へ手続きを委任することもおすすめです。
また、これらの登記変更書類の届出は、変更があった日から2週間以内に行わなければなりません。
2週間を過ぎてしまうと、登記懈怠として過料が課されてしまう可能性があるため注意が必要です。
その他必要手続きの一例
・ 金融機関への代表者変更手続き
金融機関口座の名義変更手続きが必要です。
また借入のある企業は、代表者変更手続きにあわせて、保証人変更手続きも忘れずに行う必要があります。
・取引先への通知、説明
後継者が決定した後は、取引先へも通知や説明が必要となります。
まずは新社長が就任した旨の挨拶状(実務上は新旧両社長の連名でお送りすることが多いです)を送付し、特に取引関係の深い得意先等には、直接訪問によるご説明やご挨拶の実施も検討するとよいでしょう。
・ 許認可関係の代表者変更手続き
許認可が必要となる特定業種においては、許可を受けた行政庁へ代表者変更届またはそれに付随する事業責任者等の変更手続きの実施が必要です。
例)建設業許可に係る代表者変更届及び経営管理責任者の変更届 等
・税務関連の届出
税務署(=国税)だけでなく、都道府県税事務所(=県民税)、市町村役場(=市町村税)等の地方税を取り扱う機関にも代表者変更の届出をする必要があります。
・年金、保険関連の代表者変更手続き
社会保険は日本年金機構、雇用保険や労災保険は労働基準監督署での代表者変更手続きが必要となります。
その他、会社によって必要となる手続きの種類も異なるため、行政書士や司法書士、弁護士等の専門家の意見も参考にして進めていくとよいでしょう。
代表者変更における注意点について
代表者の変更、経営者の交代というのは会社にとって、将来を左右する重要なイベントです。そのようなイベントをスムーズに進めるためにも、いくつかの注意点をご説明いたします。
チャンジオブコントロール条項(COC条項)
上述の手続きの中で、取引先への通知・説明が必要と説明しましたが、取引先との取引基本契約等の中に、チェンジオブコントロール条項(COC条項)がついている場合は注意が必要です。
COC条項がある場合は、事前の報告または承認を怠ると契約解除事由に該当してしまう可能性があるため、COC条項が付帯されている契約を締結している取引先へは、必ず事前に報告をする(または承認を得る)必要があります。
COC条項の有無については事前に確認するようにしましょう。
納得感のある選択
従業員をはじめとするステークホルダーから見て、「あの人なら納得だ」(→従業員承継等の場合)と思われる人材を登用することが重要です。
例えば次期後継者候補となる人材が社内に2人以上いる場合等、必ずしも100%全員が納得する人材登用は難しいかもしれませんが、できる限り賛同者の多い人選が望まれます。
また、その選考プロセスは公平で透明感のあるものでなくてはなりません。
「前社長と仲がよかったからあの人が選ばれたらしい」というようなことは公平性に欠けるため、実力も伴った周囲が納得する人選をすることが望まれます。
従業員との信頼関係構築
公平で透明性のある選考プロセスが踏まれたからといって安心ではありません。
特に従業員にとっては、社長の交代は大きな環境変化となります。
従業員が新社長または新体制に不安を感じることなく働けるように、積極的なコミュニケーションを通じた心理的安全性の確保に努めましょう。
代表者変更の重要性
通常、代表者(=社長)とは、会社の意思決定の中心となる人物であり、企業の方針を決定する重要な存在です。
その社長の交代がスムーズに行わなければ、会社に悪い影響を与えかねません。
特にそのタイミングについては、誤ることなく新陳代謝を進めることが、企業の将来に渡る成長発展には欠かせません。
代表者変更を進めるタイミング
社長交代のタイミングには、様々な要因が考えられます。
- 社長個人に起因する要因
社長の年齢や健康状態がきっかけとなるケースです。年齢を重ね、自身の体力や気力、判断力の衰えを感じはじめ、後継者への承継を意識する社長は少なくありません。
- 事業環境に起因する要因
自社の事業が停滞したときや、昨今のような急速な市場環境の変化についていけなくなったとき、も要因の一つと考えられます。
1人の社長が長く続けることは、短期的な事業の安定性をもたらすかもしれませんが、中長期的な企業の発展とは必ずしもイコールではありません。
時には、企業の成長を促進するために社長の交代が必要なケースもあるため、中長期的な事業環境を見据えた意思決定が求められます。
代表者変更が会社に与える影響
新しい社長のもと、企業の方針や取組が変化し、特に従業員にとっては新たな環境へ順応しなければならず、ストレスのかかるイベントとも言えます。
新体制への環境変化によって、従業員のモチベーションや満足度が下がることがないよう、細心の注意を払って移行を進めなければなりません。
一方で、社長交代のタイミングは、これまでの課題を払拭し、新たなことへチャレンジする、言わば新たな企業へ生まれ変わるチャンスでもあります。
特に事業環境に起因する社長交代のタイミングでは、変革に着手し、中長期的な企業の成長を目指した取組を行っていくことも求められます。
まとめ
代表者の変更やM&Aは、従業員や会社の未来にとって大きな転機となります。
そのような転機を最大限に活かし、当初の目的を達成するためにも、まずは信頼できる専門家を交え、しっかり時間をかけて検討していくことが重要です。
御堂筋税理士法人グループの株式会社リガーレでは、数多くの事業承継・M&Aにおける支援実績をもち、また戦略立案の段階から中長期での伴走サポートも得意とするプロフェッショナル集団です。
会社のより良い未来を目指して事業承継やM&Aを実現したい、という企業様またはオーナー様は、是非、株式会社リガーレへお気軽にご相談ください。
この記事の執筆
取締役COO青山佳敬
専門領域:マネジメント、M&Aアドバイザリー
地方銀行入行後、法人向けファイナンス業務を担当。
その後、監査法人系M&Aアドバイザリーファームへ出向し、以後長期に渡りM&Aアドバイザリー業務に従事。国内ミドルマーケット案件を中心に多くの案件に責任者として関与、事業会社の後継者問題解決・企業価値向上に寄与。
2021年御堂筋税理士法人グループに入社、2022年からは株式会社リガーレとしてM&Aアドバイザリー業務を中心としたソリューションサービスを提供している。