ガソリンスタンド業界のM&A動向と最新事例
ガソリンスタンド業界においては、後継者不在、経営再建、経営の安定化を目的としたM&Aが活発に行われております。
この記事では、ガソリンスタンド業界におけるM&A動向、M&A成功に向けたポイント、最新事例について解説します。
ガソリンスタンド業界の現状
業界の概要
1,ガソリンスタンドは、自動車用のガソリンや灯油、軽油の供給を主たる業務としています。
附随して自動車関連用品の販売・車検・洗車なども行っているため、サービスステーション(以下SS)とも呼ばれております。
SSはガソリンの仕入先や所属の系列別に、「元売りSS」「プライベートブランドSS(以下「PBSS」)」「無印SS」の3つに分類されます。
それぞれの特徴及び市場シェアは下記ご参照ください。
特徴 | ||
元売りSS | ✓ | 元売りのブランドを表示 |
✓ | 仕入先は元売りに限定される | |
PBSS | ✓ | 商社などの系列でPBを表示 |
✓ | 仕入先は当該PBに限定される | |
✓ | 元売りSSより販売価格が安い | |
無印SS | ✓ | ブランド表示なし |
✓ | 仕入先は限定されない | |
✓ | 元売りSSより販売価格が安い |
出典:SPEEDA
2,販売原価の構成は、燃料などの仕入値が全体の8~9割を占めており、原価率が高い構造となっている。
ガソリンスタンド業界の市場動向
ガソリンスタンドの市場規模は東京商工リサーチ調査(2020年)によると約5.3兆円であり、調査基準日時点の直近3期における年間平均成長率は▲7.9%と市場は縮小傾向にあります。
市場動向はSS数の推移からも長期間にわたり厳しい環境が継続していることが伺えます。
1998年度のSS数が56,444箇所に対し、2023年度は27,414箇所と25年間で約50%減少(うちセルフSSは1998年の解禁以降急速に拡大、2015年度以降は前年比1~2%で増加傾向)
SSの業績はガソリン需要に連動することを考慮すると、「自動車の普及台数」「燃費」「利用頻度」に左右されることとなります。
自動車保有台数は底堅く推移しているため、市場縮小の要因の一つは、燃費の改善にあると言えます。
平均燃費は1993年の11.1km/1ℓに対し、2023年度は24.6km/1ℓと50%以上改善しているため、ガソリン需要の減少に直結していると考えられます。
今後は電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などの次世代自動車の普及が想定されるため、一層の市場縮小が見込まれます。
出典:自動車保有台数 一般財団法人自動車検査登録情報協会
燃費 国土交通省、白書・審議会データベース
出典:(財)日本エネルギー経済研究所 石油情報センター、資源エネルギー庁
ガソリンスタンド業界における課題
上述の通り、ガソリン需要そのものが減少しているほか、以下2つが最たる課題であると言えます。
- 価格競争・原油価格高騰・人件費高騰による利益圧迫
ガソリンスタンド業界においては、ガソリン需要そのものの減少のほか、少ない消費者の奪い合いが生じているため、販売価格の熾烈な競争が行われております。
需要減少・価格競争に伴う売上減少に加え、原油高や、人件費高騰による収益力の低下が避けられない環境にあります。
ガソリン販売だけでは持続的な成長が極めて困難な状況にあるため、抜本的な経営改善策の検討が必要であると言えます。 - 経営者の高齢化
ガソリンスタンド業界においても経営者の高齢化は進行しています。
後継者不在率は約50%(日本石油協会2019年度調査版「石油製品販売業経営実態調査」)と推定されており、後継者不在問題の解決は極めて重要な課題であると言えます。
ガソリンスタンド業界におけるM&A
ガソリンスタンド業界におけるM&A動向
ガソリンスタンド業界においては、「後継者不在」「経営環境の悪化」を理由に、中小規模のガソリンスタンド会社が大手の傘下となることが盛んにおこなわれております。
ガソリンスタンド業界おいては新規参入が少なく、同業他社によるM&A、特に資本力のある大手企業が、コスト削減と効率化の追求、業界再編を通じた競争力強化を目的に、既存エリアにおける同業他社をM&Aによりグループ化することが多い傾向にあります。
<昨今のM&A事例抜粋>
日付 | 買手企業 | 譲渡対象企業 | ||
企業名 | 企業規模 | 企業名 | 所在地 | |
2024/11/29 | 日米石油㈱ | 大会社グループ | 国府石油㈱ | 神奈川県 |
2024/9/30 | ㈱オカモト | 大会社 | ㈱アスクラフト | 岩手県 |
2024/4/1 | ㈱オカモト | 大会社 | 八大起業㈱ | 東京都 |
2024/2/29 | ㈱サンオータス | 大会社 | 若葉石油㈱ | 神奈川県 |
2022/9/16 | ウェルビングループ | 上場 | 綿仁㈱ | 静岡県 |
2022/5/13 | 大和自動車交通 | 上場 | 宮園鉱油 | 東京都 |
2022/3/30 | ㈱宇佐美鉱油 | 大会社 | ヒラオカ石油㈱ | 大阪府 |
ガソリンスタンド業界におけるM&Aメリット
ガソリンスタンド業界において、M&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。
売り手側のメリット
1.後継者問題の解決
2.個人保証・担保提供の解消
3.従業員の雇用継続
4.経営の安定・拡大
5.売却利益の獲得
買い手側のメリット
1.同エリアにおけるシェア向上による収益改善
2.店舗統廃合、経営効率化
3.周辺新規エリアへの進出
ガソリンスタンド業界の売却相場
ここでは、ガソリンスタンド業界の売却相場について解説します。
コスト・アプローチから見た相場
中小企業におけるM&Aにおいては、時価純資産+営業権(EBITDA×2~4年程度)により算定される価格が一般的な取引レンジとなっております。
(例)時価純資産200百万円 / EBITDA30百万円
200百万円+(30百万円×中央値3年)=290百万円
マーケット・アプローチから見た相場
類似企業比較法における類似上場企業の財務数値を比較して算定することにより、売却価格相場を把握することも可能となります。
主にEV/EBITDA倍率(事業価値÷EBITDA)を採用することが一般的であり、直近におけるガソリンスタンド業界のEV/EBITDA倍率中央値は約6倍となっています。
(例)EBITDA30百万円 / 非事業用資産100百万円 / 無借金
EBITDA30百万円×6倍+非事業用資産100百万円=280百万円
※売却価格の相場・計算方法は「会社の売却価格・相場を知ろう!会社売却を進める前に必須の知識を徹底解説!」にて詳細に解説しておりますので、ご参照ください。https://ligare.management-facilitation.com/contents/4417/
ガソリンスタンド業界のM&A事例
ここでは、ガソリンスタンド業界における最近のM&A事例を2つご紹介します。
【事例①】サンオータスによる若葉石油の子会社化
㈱サンオータス(7623)は、2024年2月29日付で、ガスリンスタンド事業を展開する若葉石油(神奈川県)の全株式を取得し、子会社化した。(同業他社による既存エリア強化)
神奈川県内におけるSS拠点数の増強が主たる目的であるが、以下3つの効果を企図しM&Aを実施した。
- 営業拠点ネットワーク拡大
- サンオークスが手掛ける他事業(レンタカーカウンター、モビリティサービス等)とのシナジー効果
- 飲食店(ドトールコーヒーを併設した複合SS運営のノウハウ獲得
【事例②】ウェルビングループによる、綿仁の子会社化
ウェルビングループ㈱(7136)は、2022年11月に、ガソリンスタンド事業を展開する綿仁㈱(静岡県)の発行済株式を取得し、子会社化した。(同業他社による新規エリア進出)
ウェルビングループは、オート事業(車両販売・整備、ガソリンスタンド経営)、不動産事業・マーケティングコンサル事業等を展開している。
綿仁は静岡県東部エリアに11店舗のガソリンスタンド店舗を有している。
ウェルビングループは北関東エリア(埼玉県・茨城県)を中心にオート事業をしており、南関東エリアへの事業エリア拡大目指してM&Aを実施した。
M&A後はウェルビングループの車両販売・整備ノウハウと、綿仁の顧客基盤を活かしたシナジー効果を見込んでいる。
ガソリンスタンド業界でM&Aを行う際のポイント
売り手側
1.事業成長の実現
売手企業が、売却後に一層の事業成長の実現が期待できるか否かが重要なポイントとなります。
期待できる買手であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。
2.専門家のサポート
M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。
買い手側
1.シナジー効果についての調査
買手企業、売手企業双方にどのようなシナジー効果が期待できるかを精査することが重要です。
立地調査(顧客数、既存店舗との重複)、M&A後のコストメリット(大量仕入れによる原価率改善や人材採用コスト削減、業務プロセス効率化等実現できるか、具体的かつ定量的に分析・検証することが重要と言えます。
2.デューデリジェンスの実施
ガソリンスタンド業界においては、施設老朽化に伴う再投資が発生しないか、発生する場合どの程度の負担となるかを把握することが重要となります。
また、M&A後に一部店舗を廃止する可能性がある場合は、地下タンクの除去費用・土壌汚染の浄化費用等を考慮したうえで、株式価値を算定する必要があるため、デューデリジェンスはM&Aを成功させるうえで、重要なプロセスと言えます。
まとめ
ガソリンスタンド会社の売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。
専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の件・交渉サポートを行います。
弊社はガソリンスタンド業界におけるM&Aに精通しているほか、財務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆
シニアアドバイザー清水洋伸
専門領域:M&Aアドバイザリー、財務・税務DD、財務コンサルタント、資金調達支援等
大学卒業後、大手銀行に入行。
M&A、事業承継、ファイナンス等法人ソリューション業務に約13年間従事。御堂筋税理士法人に入社後は、M&Aアドバイザリー業務を軸に、円滑な事業承継ならびに戦略的な企業成長を実現していくうえでのサポートを実施している。お客様に寄り添った伴走型支援を信条とし、お客様の成長・発展に貢献して参ります。