スタートアップにおけるM&Aとは?概要や成功のためのポイントを解説!
近年、短期間でイノベーションを起こし、急成長を目指すスタートアップ企業への注目度が非常に高まっています。
あらゆる業界において技術革新が進む中で、新たなビジネスモデルを作り上げるスタートップと多大な資金と顧客基盤をもつ大企業とが連携しともに成長を目指すM&Aの形が増えていくことが予想されます。
本記事では、スタートアップにおけるM&Aの概要やIPOとの比較、事例、実行する上でのポイントなどについて解説していきます。
株式会社リガーレでは無料株価診断を行っております。
お気軽に診断してみてください。
スタートアップとは
スタートアップ企業とは、一般的に革新的なアイデアや技術をもとに急速な成長を目指す新興企業のことを意味します。
新しいビジネスモデルやこれまでに存在しない技術によって、市場の中での優位性を高め、社会や環境課題を解決する役割を担うこともあります。
今後スタートアップ企業による成長が期待される産業として、AIを中心としたテクノロジー分野やAI技術を活用したヘルスケアや金融、農業など様々な分野への転用、持続可能な社会の実現(サステナビリティ)に向けた環境分野、宇宙産業などが挙げられます。

日本国内においても、スタートアップの注目度は高まっており、イノベーションの担い手として社会における重要な存在であり、今後の新しいビジネスの創造に寄与することを期待されています。
実際、2024年の日本のスタートアップによる資金調達額は7,793億円に上り、10年前と比べ5倍ほど増加しております。
政府を主導した取り組みやマスコミでの特集、スタートアップで成功した企業の中でも知名度の高い企業が出てきていることなどから、言葉自体も広がっているように思います。
スタートアップにおけるM&Aの概況
スタートアップの多くは、最終的に創業者としての利益を得る手段の一つとしてM&Aを検討します。
M&AもしくはIPO(上場)という選択肢がありますが、短期間で事業を急激に成長させることを目指しており、最終的には売却によって投資資金を回収することで利益を得てイグジット(EXIT)するというのが一般的なスタイルとなっています。
はじめから出口戦略を見据えて、企業を立ち上げるというのがスタートアップの大きな特徴となります。
日本におけるスタートアップの注目度は高まり、資金調達額も増加傾向にあるものの、M&Aという観点でいくとまだまだ事例が限られているというのが実状です。
国内スタートアップのイグジット動向については、アメリカのスタートアップはM&Aでイグジットを図るケースがほとんどであるのに対して、日本のスタートアップはIPOでイグジットを図るケースが多いと言われています。
具体的にアメリカの場合は、IPO:M&Aの割合は1:9であり、日本の場合はIPO:M&Aの割合が7:3と試算されています。
その要因の1つとして、日本の大企業における企業風土が挙げられます。
日本の大企業は一般的に自前での拡大主義の傾向が強く、成長戦略としてスタートアップとのM&Aを取り組むというのは大きなハードルとなっています。
スタートアップ側にとっても、日本はアメリカに比べてもIPOへの敷居が低く、比較的上場を目指しやすいということもあって、M&A<IPOという傾向になっていると考えられます。
しかしながら、少子高齢化が進む日本においての国内市場は成熟化しており、今後既存事業の縮小や収益の伸び悩みに課題を持つ企業が増えていくことが予想されます。
既存事業に依存せず、中長期的な企業の安定化を図るために、今後はより一層スタートアップとの協業により革新的なビジネスの創造や成長のための取り組みを行う企業が増えていくと考えられます。
スタートアップM&Aにおけるメリット
スタートアップM&Aにおいては、以下のような点が売手企業及び買手企業それぞれにとってのメリットとして挙げられます。
IPOと比べて短期間でのイグジットを目指すことが可能(売手)
M&AとIPOでのイグジットを比較する場合、M&Aの方がより短期間での達成をしやすい点がメリットの一つとして挙げられます。
上場を目指す上で、内部統制の整備や会計基準への対応など最低限必要なハードルをクリアするだけでも時間を要します。
一方でM&Aの場合は買収希望企業が見つかり、両社間での条件さえ合意できればすぐにでも実現可能な点が大きな違いとなります。
また、年々上場審査基準が厳格化しており、コーポレートガバナンスの強化やコンプライアンス対応などが強く求められるようになっています。
上場後に、IRを担当する部署や人材の確保に加え、上場準備や上場維持のためのコストも発生するため、スタートアップ企業にとっては大きなハードルとなってきます。
M&Aの場合に相手企業との事業関連性があり、シナジーをすぐに発揮できるような企業との提携であれば、急激な事業の成長へと繋がる可能性も考えられます。
経営戦略における新規事業参入のハードルを下げ、失敗のリスクを軽減できる(買手)
買手となるような大企業にとっても、スタートアップ企業をM&Aで取り込むことのメリットは幾分想定されます。
多くの場合、新規事業として自社で立ち上げるか、M&Aを行うかという比較になると思いますが、ノウハウがない分野をゼロから立ち上げるより、ベースが出来ている企業を買収する方が圧倒的に時間の短縮は出来ます。
また既存事業とのシナジーが想定されるようなケースでは、より自社の成長を素早く推し進めることが可能となります。
自社だけで進めていく場合、はじめに時間がかかるばかりでなく、成功する確証がない中で資金もかけてある程度のリスクを負うことになりますが、M&Aであれば既に成功している企業を低リスクで受け入れ、短期間での新規事業参入が可能となります。
それだけでなく、その分野の最先端で活躍する人材を獲得できることや、急成長するスタートアップ独特の雰囲気や活気を取り込むことが大きなメリットとなることも考えられます。
成功させるためのポイント
ここでは、スタートアップがM&Aを成功させるためのポイント及びスタートアップの買収において考慮すべきポイントをまとめています。
M&Aの取引をスムーズに進めるためには、少なくとも下記を抑えていくことが重要となります。
適切な売却タイミングの見極め(売手)
M&Aの実施時期は、企業の成長段階や市場環境を十分見極めた上で判断する必要があります。
成長の最中にあり、また今後も更なる成長が見込まれるようなタイミングであれば企業価値に反映して交渉することも可能になります。
一方で、一定の成長段階が過ぎて、先行きがある程度見えているような状態となると、アップサイドでの価格交渉が難しくなってしまいます。
会社が組織として整備された状態であることも重要な要素となりますが、それ以上に今後の成長がどれほど見込めるかがさらに重要な評価軸となってくるケースが多く、今後成長の見込める手前のタイミングで売却を検討することがポイントとなります。
シナジー効果の訴求(売手)
M&Aの成功を導くためには、買収先との間での事業関連性や技術・顧客基盤を活かした相乗効果を発揮できるかどうかも重要な要素となります。
スタートアップ企業の場合は特に、売却することが目的ではなく、その事業を世に広めていくことが最終目的となるため、それを実現できる相手探しをしていく必要があります。
自社をさらに成長させるためにどういうバックアップが必要で、どういう企業と連携するべきなのかを整理しておきましょう。
買収先企業にとっても、シナジーを期待できる企業であるほど、企業価値を高く評価しやすくなります。
したがって、相手先選定においてはシナジーを訴求できる企業を買手に選ぶことが、企業の発展のためにも望ましいと言えます。
既存従業員へのケア(売手)
M&Aによる売却は、従業員にとって大きな変化をもたらします。
特に、企業文化や経営方針の変化は、従業員のストレスとなり、エンゲージメントの低下や離職を招くリスクがあります。
スタートアップでは、人材とチームワークの独自性が事業の根幹を支えているため、重要な従業員の流出は、事業運営に深刻な影響を及ぼしかねません。
これを防ぐためには、M&Aの決定後、適切なタイミングと方法で正しく情報を伝えることが不可欠です。
特に、事業の中核を担う重要な人材に対しては、早い段階から個別にフォローを開始し安心感を与えることが求められます。
従業員の離職を防ぎ、スムーズな統合を実現するために、信頼関係を築く努力を怠らないことが不可欠となります。
デューデリジェンスの徹底(買手)
適切な買収監査によって、財務状況や法的リスク、知的財産権などを事前に綿密に調査することで、潜在的な問題を把握し、適切な対策を講じることができます。
大企業とスタートアップでは、技術や専門性では差がない場合もありますが、会社組織の管理面においては大きな差がある場合がほとんどです。
売手企業が簿外債務や偶発債務を抱えている場合はそのまま買手企業が引き継ぐことになりますし、訴訟リスクを抱えている場合も同様に将来にわたって損害賠償請求の可能性が続くこととなります。
デューデリジェンスにおいて、事前に想定されるリスクをできる限り洗い出しておくことが、その後のトラブルを防ぐためにも重要になります。
企業文化の統合(買手)
売手にとって既存従業員へのケアが重要ということは前述しましたが、買手企業においてもM&A後にスムーズなPMIを実行する上で、従業員への配慮は非常に大切になります。
M&A後の組織統合において、企業文化の違いを理解し、調和させることこそがM&A成功の鍵と言えます。
会社において、経営者や企業文化が変わると従業員の不安・ストレスは高まります。
更なる成長を実現するためには、従業員のモチベーション維持や離職防止のため、コミュニケーションを強化し、共通のビジョンを共有することが求められます。
最近のスタートアップにおけるM&A事例
ここでは、公表されているものの中で近年行われたスタートアップにおけるM&A事例をいくつか紹介いたします。
今後検討する際の参考としていただければと思います。
江崎グリコによるGreenspoonの子会社化
2024年6月、江崎グリコは冷凍食品の定期宅配サービスを行うGreenspoonの全株式を取得し子会社化しました。
対象会社は2019年設立、メインディッシュ・スープ・スムージー・サラダなど70種類以上のメニューを取り揃え、電⼦レンジなどのひと手間で簡単に調理できる食品をサブスクで販売することを特長としています。
以前から両社は共同販促などでの協業を行っており、M&Aを通じて、商品の共同開発をはじめ、双方のブランド力、顧客基盤、販売チャネルを生かした協業を進めていく予定です。
段ボール大手レンゴー、Biomaterial in Tokyoを買収
2024年4月、レンゴーは微生物や酵素を用いる技術を研究するバイオベンチャー企業のBiomaterial in Tokyo(bits)の発行済株式のうち60%を取得し子会社化しました。
レンゴーでは、エタノールを廃木材から生産する計画を進めており、当該技術ノウハウを有するbitsとの共同開発を行っています。
この技術は再生航空燃料(SAF)向けに技術開発が進められており、二酸化炭素排出量を約7~9割減らすことが出来ると想定されています。今後、脱炭素化を目指す航空会社からの引き合いが強まると期待されています。
まとめ
今回は、スタートアップのM&Aについて概要や売手買手それぞれのメリット、成功のためのポイントそして事例についてまとめさせていただきました。
スタートアップM&Aは双方において大きなインパクトをもたらすため、特に大企業においてはより効果的な経営戦略と考えることが出来ます。
一方で、しっかりとしたビジョンを描き、事前にあらゆるリスクを精査して実行しなければ、失敗した時のリスクも大きくなるのが、スタートアップにおけるM&Aです。
今後、M&Aをご検討される企業様は、御堂筋税理士法人グループの株式会社リガーレのようなM&A専門家への相談を検討されることをお勧めします。
この記事の執筆

アドバイザー中川雄太
専門領域:M&Aアドバイザリー
経営者の後継者問題や企業の成長戦略を支援するM&Aアドバイザーという職種に魅力を感じ、大手M&A仲介ブティックに入社。主に中堅中小企業オーナーに対するアドバイザリー業務に従事し、建設業や卸売業など様々な業種において計10件以上のM&A成約支援に携わる。M&Aのみに留まらず幅広く事業承継支援を行いたいという想いからリガーレに入社。M&A・事業承継を通じて企業の永続的な発展を支援する。