EC事業の業界動向とM&A事例

EC事業の業界動向とM&A事例

近年、EC(電子商取引)業界におけるM&A(企業の合併・買収)の動きが加速しています。

この傾向は、競争の激化と市場の成長が背景にあり、M&Aは重要な成長戦略の手段の一つとなっています。

本記事では、EC小売業におけるM&Aの動向や、進める上で特に留意すべき業界特有のポイントについて詳しく解説します。

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EC業界とは

まずは、EC業界の定義や現状について解説します。

EC業界の定義

EC業界とは、Electronic Commerce Industryの略で、電子商取引業界とも定義できます。

具体的には、インターネットや電子ネットワークを通じて商品やサービスを取引するビジネスの領域を指します。

EC業界には、消費者と企業間(B2C)、企業間(B2B)、消費者間(C2C)など、さまざまな形態の取引が含まれ、以下が代表的なものです。

  • オンラインショッピング

消費者がインターネットを通じて製品やサービスを購入すること。

代表的な例として、Amazonや楽天などがあります。

  • 企業間取引(B2B)

企業同士がオンラインで商品やサービスを取引する形態。

例えば、Alibabaや業界専用の取引プラットフォームを介して行われます。

  • 消費者間取引(C2C)

消費者が他の消費者に対して商品やサービスを提供する形態。

eBayやメルカリ、ヤフオク!などのプラットフォームが該当します。

EC業界の現状

2025年現在、EC業界は急速に進化しており、消費者行動やテクノロジーの発展に大きく影響を受けています。

インターネットの普及とともに急成長した後に、スマートフォンの普及やオンライン決済の進化、物流インフラの発展によって、消費者と企業が手軽に取引できる環境が整いました。

InstagramやTikTokなどのソーシャルメディアを介して製品が販売されるソーシャルコマースも急成長してきております。

さらに、新型コロナウイルス感染症拡大(COVID-19)以降、オンラインショッピングの需要が拡大しました。

人々が自宅で過ごす時間が増える中で、EC業界は生活の一部として定着し、企業もオンラインに移行する動きが加速しています。

物理的な国境を越えて商取引が行われる「クロスボーダーEC」の拡大も見られます。

特にアジア諸国(中国やインドなど)からの製品輸出が活発化しており、AmazonやAlibabaなどの大手ECプラットフォームを通じて、世界中の消費者にアクセスできるようになっています。

これにより、企業はグローバル市場での競争に直面するようになりました。

EC業界の展望

EC業界は今後も急速な変化と成長が続いていくと予想されます。

特にテクノロジーの進化、消費者行動の変化、グローバル化が引き続き業界のトレンドを牽引しており、今後の数年間でさらなる進化が期待されます。

以下にて、EC業界の主要な展望について解説します。

1. AIとデータ活用の進化

AI(人工知能)や機械学習の技術は、EC業界においてますます重要な役割を果たすことが予測されています。

これらの技術は、顧客の行動をリアルタイムで分析し、パーソナライズされた体験を提供するために活用されます。

例えば、商品のレコメンデーションや広告ターゲティングにおいて、AIの精度が向上することで、より消費者に適した商品やサービスが提案されるようになります。

また、データ分析に基づく需要予測や在庫管理の最適化も進み、効率的な運営が可能となります。

これにより、サプライチェーンの無駄が減り、消費者に対してもより迅速な配送が実現します。

2. AR/VR技術の進化

拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の技術は、EC業界での活用が進んでおり、特にオンラインショッピングにおける体験が革新される可能性があります。

AR技術を使い、消費者が自宅で商品の試着や実物のシミュレーションを体験することができるようになると予想されています。

家具やインテリア商品の場合、部屋の中で実際にその商品がどう見えるかを確認できるARアプリケーションがすでに一部で導入されています。

これにより、消費者はオンラインでの購買前に、よりリアルなイメージを持つことができ、購入の決定がしやすくなるでしょう。

3. モバイルファーストのさらなる進化

スマートフォンの普及により、モバイルデバイスを利用したオンラインショッピングはますます主流となり、モバイルファーストの戦略は今後も強化されていくと見込まれます。

モバイルショッピングの利便性を高めるため、企業はアプリやモバイル最適化されたウェブサイトを提供し、さらに簡単に購入できるような機能も進んできています。

ショッピング体験がさらにスムーズでパーソナライズされたものになり、消費者にとっては非常に魅力的なプラットフォームが増えるでしょう。

4. クロスボーダーECの拡大

ECのグローバル化が進む中で、クロスボーダーEC(国境を越えたオンライン取引)の拡大が続くと予想されます。

特に、アジアや中東、アフリカなどの新興市場において、ECの普及が進んでいます。

企業は、国際的な物流や決済方法に対応するためのインフラを整備し、世界中の消費者にアプローチしています。

これにより、より多くの企業がグローバル市場で競争し、消費者は世界中の商品にアクセスできるようになります。

特に、製品のローカライズや多言語対応が重要な要素となり、EC企業は各地域の文化やニーズに合わせた商品ラインやサービスを提供することが求められます。

 EC業界のM&A事例と活用のメリット

このようにEC業界は、技術革新、消費者の購買行動の変化、デジタル化の進展など、様々な影響を受けて成長しています。

その中、M&Aは譲渡側・譲受側双方にとって有効な経営戦略の一つになり得ます。

ここでは、EC業界のM&A事例や、双方のメリットについて、詳しく説明します。

LINEヤフー株式会社、BEENOS株式会社を完全子会社化へ

LINEヤフー株式会社(以下、LINEヤフー)は、BEENOS株式会社(以下、BEENOS)を公開買付者の完全子会社とすることを目的に株式公開買付け(TOB)により取得することを決定。

BEENOSは、「日本と世界を繋ぐグローバルプラットフォームを創る」というビジョンを掲げ、国境を越えたビジネス展開を支援している。その中で、BEENOSの子会社tensoが運営する海外居住者向け商品の購入サポートサービス「Buyee」は、長期にわたって日本国内の商品と海外からの購入者をつなぐ重要な役割を果たしている。

LINEヤフーは、BEENOSを完全子会社とすることで、越境ECを中心とした新たな事業シナジーを推進していく。

さらに、両社が共同マーケティング活動を展開することで、「Buyee」をはじめとしたBEENOSのサービスとLINEヤフーのサービスの間でさまざまなシナジー効果が期待できる。

ラクスル株式会社、株式会社エーリンクサービスの株式取得

2024年6月、ラクスルは、トート・エコバッグのオリジナルプリントに特化したECサイト「トートバッグ工房」を運営する株式会社エーリンクサービスの株式取得を決議。

ラクスルは、2019年にノベルティ領域に参入し、ノベルティグッズ・制作のサービスを提供してきた。

年々商品追加で成長を遂げる中、ノベルティ領域をラクスル事業におけるさらなる成長戦略領域として位置づけており、トートバッグのシェア拡大と更なる成長に寄与するという観点から、本件株式取得に至った。

今後は、資材調達や印刷加工の内製化による競争力強化とマーケティングノウハウの活用や顧客基盤の拡大などを通した両社のシナジー創出を図る。

IKホールディングス、子会社アルファコムを株式会社クウゼンに譲渡

2024年5月、株式会社IKホールディングス(2722)は、連結子会社アルファコム株式会社の発行済株式100%を株式会社クウゼンに譲渡することを決議。

IKホールディングスは、食品、化粧品、雑貨など幅広いジャンルで商品の企画、製造、物流を一貫して行うマーケティングメーカー。

アルファコムは、通話音声録音システム(Voistore)及びチャットシステム(M-TALK)を主力商品とするITソリューション事業を行う。クウゼンは、対話デザインプラットフォーム「クウゼン(KUZEN)」の開発・販売・運用を行う。

譲渡理由としては、ITソリューション事業の取り巻く環境が技術の進歩を背景に目まぐるしく変化する中、グループの他の事業との親和性が低いことから、事業の選択と集中及び経営資源の中長期的な最適配分の観点等から本件株式譲渡をする結論に至った。

売り手側のメリット

EC業界におけるM&A(合併・買収)では、売手と買手双方にとって特有のメリットと課題がします。

EC業界のダイナミックで技術革新の進んだ環境において、他の業界とは異なる特有の要素があります。

ここでは、売手と買手それぞれにとって、EC業界特有のM&Aにおけるメリットと考慮すべきポイントについて詳しく見ていきます。

データ資産の価値

EC企業は、顧客の購買履歴、ブラウジングデータ、パーソナライズされた購買パターンなど、非常に貴重な顧客データを保有しています。

売手がこれらのデータを提供することは、大きな価値を生む要素です。

買手にとって、このデータを活用することでターゲットマーケティングや新しい商品開発が可能になるため、EC業界特有の資産として評価されます。

ブランドの強みとマーケットポジション

EC企業が築き上げた強力なブランドや特定の市場ニッチへの強みも、売手側にとっての重要な資産です。

たとえば、特定の消費者層や市場で支持を集めているブランドの場合、M&Aを通じて買手はそのブランド力をすぐに活用することができます。

特にECでは、ブランドの認知度やロイヤルカスタマーの存在が競争優位性を大きく左右します。

迅速な資金調達と事業再編

EC業界の進化は非常に早いため、売手企業が資金調達を目的としてM&Aを選択することはよくあります。

M&Aを通じて、迅速に事業再編やリソースの再配置を行い、事業の成長を加速させることができます。

特に、買手が提供する技術や物流インフラを利用することで、自社の事業の成長を支援することができます。

テクノロジーやシステムの更新

EC企業は、技術革新やシステムの更新が不可欠な業界です。

売手企業は、買手の提供する新しいプラットフォームや技術インフラを活用することで、既存のシステムや技術をアップグレードするチャンスを得ることができます。

M&Aにより、買手から新たなテクノロジーやノウハウを吸収することができるのは、EC業界ならではのメリットです。

買い手側のメリット

スケールメリットの獲得

EC業界では、スケールメリットが重要です。

買手が売手企業を買収することで、即座に市場シェアを拡大し、コスト削減を実現することができます。

特に、物流ネットワークやITインフラの統合が進めば、運営コストを大幅に削減でき、利益率を改善することが可能になります。

データ活用とターゲットマーケティングの強化

EC業界では、データ分析が競争力を左右します。

買手は、売手の顧客データや購買履歴を手に入れることで、よりパーソナライズされたサービスを提供し、効率的なマーケティング戦略を展開できます。

これにより、顧客のロイヤルティを高め、LTV(顧客生涯価値)の向上を図ることができます。

新市場・新顧客層へのアクセス

EC業界はグローバル化が進んでおり、買手はM&Aを通じて売手が持っている新市場や新しい顧客層に迅速にアクセスできます。

特に、ECサイトの国際展開を加速するためには、現地の強力なブランドやローカライズされたサービスを手に入れることが効果的です。買手が海外進出を考えている場合、売手の既存の市場ポジションを活用できる点は非常に大きなメリットとなります。

テクノロジー・プラットフォームの獲得

EC業界は常に新しい技術が求められるため、買手が売手のテクノロジーやプラットフォームを取得することは大きな利点です。

例えば、売手が開発した効率的なECシステムや決済システム、物流管理システムを統合することで、買手の運営効率が大幅に向上する可能性があります。

特に、AIや機械学習を活用した商品推薦システム、需要予測などの技術が買収対象として重要です。

競争優位性の向上

EC業界では競争が激しく、競合他社との差別化が求められます。

買手が売手を買収することで、即座に強力なブランド力や新しい商品群を手に入れ、競争優位性を強化できます。

特に、買手が新たに展開する市場やサービスにおいて、売手のノウハウやブランドの力を活用できる点は、買手にとって大きなアドバンテージとなります。

 EC業界でM&Aを行う際のポイント

EC業界でM&A(合併・買収)を進める上で、特に注意すべきポイントはいくつかあります。

競争が激しく、急速に進化する市場環境において、M&Aが成功するかどうかは、慎重な計画と詳細な検討にかかっています。

以下に、EC業界特有の注意点を挙げていきます。

1. 顧客データとプライバシー問題

EC業界では顧客データが非常に重要な資産であり、M&Aにおいて最も注意が必要な部分です。

買手は、売手の顧客データや購買履歴、オンライン行動などを活用してマーケティングや商品開発を行いますが、これらのデータの取り扱いには細心の注意が必要です。

GDPR(一般データ保護規則)など、地域ごとのデータ保護規制を遵守することが求められます。

これに違反すると、法的問題や罰金が発生する可能性があります。

また、M&A後、顧客データの統合においてセキュリティの問題や不正アクセスのリスクもあるため、セキュリティ対策を強化し、顧客情報の漏洩を防ぐことが重要です。

2. ブランドと顧客基盤の統合

EC業界ではブランド力が競争優位性を左右するため、ブランド統合は非常に重要です。

買収後、両社のブランドがどう統合されるかが、顧客のロイヤルティや売上に大きな影響を与えます。

売手企業のブランドが顧客にとって強い信頼を得ている場合、そのアイデンティティを崩さずに統合する方法を模索することが重要です。

また、統合後に顧客が混乱しないよう、事前に十分なコミュニケーションを行い、ブランドやサービスに対する期待を管理する必要があります。

3. 技術的な統合とシステムの適合性

EC業界では、使用するテクノロジーやプラットフォームが売上や顧客体験に直結します。

ECサイトのプラットフォーム、決済システム、在庫管理、配送管理システムなどがM&A後スムーズに統一されるかが重要となってきます。

4. 文化の統合

EC業界では、企業文化が従業員のモチベーションや生産性、顧客サービスの質に大きく影響します。

異なる企業文化を持つ企業同士の統合では、文化的な摩擦が発生することがあります。

5. 競争環境の変化

EC業界は非常に競争が激しく、M&Aを通じて市場のシェアを拡大しようとする場合、競争環境の変化にも注目する必要があります。

M&Aによって競争優位性が強化される一方、競合他社が新たな戦略を打ち出してくる可能性もあります。

M&A後の競争環境を予測し、戦略を柔軟に調整する必要があります。

また、M&Aが過度の市場集中を引き起こす場合、独占禁止法などの規制をクリアする必要があります。

特に、巨大なEC企業が合併する場合には、規制当局の審査が厳しくなることがあります。

まとめ

EC業界のM&Aをお考えの際は、売却・買収いずれの立場であってもM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の選定や探索、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、EC業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンス、セカンドオピニオンのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

シニアアドバイザー田澤脩平

専門領域:M&Aアドバイザリー、Projection、Valuation策定等

メガバンクに入行、中小零細から上場まで幅広い企業への法人営業に従事。その後、国内大手アドバイザリーファームにて、会計事務所のネットワーク開拓に加え、多数のM&A案件に携わる。事業会社へ転職後は自社のM&A専任者として、企業の買収・売却を実施。アドバイザリー、買手、売手の3つの面からM&Aに携わってきた経験を持つ。

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