建設コンサルタント業界の動向とM&Aを行う際のポイント等について解説!
建設コンサルタント業界においては、後継者不在の解決、経営再建、経営の安定化を目的としたM&Aが活発に行われております。
この記事では、建設コンサルタント業界におけるM&A動向、M&Aのポイント、最新事例について解説します。
建設コンサルタントとは
建設コンサルタントとは、土木建築に関する工事の設計・監理及び土木建築工事に対する調査・企画・立案・助言を行う業務を請負、受託する会社のことを言います。
建設コンサルタントに加え、測量業・地質調査業を加えた3業種のことを建設関連業と呼び、建設における上流から下流の幅広い範囲における技術サービスの提供者と位置づけされています。
建設業界の土木分野における大まかなポジショニングとしては、道路や橋梁、ダムといった社会インフラ施工の発注者である国や地方公共団体に対して、専門的な知識を提供する立ち位置で、施工におけるトータルでのプロデュースを行います。

出典:「令和6年度建設コンサルタント白書」を参照
2023年度の建設コンサルタント登録業者数は3,932業者となっており、2005年のピーク時4,214業者と比較すると減少しているものの、近年はほぼ横ばいの水準で推移しています。
建設コンサルタントにおいて重要となる資格として、技術士とRCCM(Registered Civil Engineering Consulting Manager)という大きく2種類の資格があります。
技術士は、文部科学省所轄の国家資格にあたり、建設コンサルタント業務における管理技術者や照査技術者の要件の一つとして定められており、中枢の資格となります。
RCCMは、一般社団法人「建設コンサルタンツ協会」が認定する民間資格です。
どちらも建設コンサルタントの実務を行う技術者の技術力向上と品質の確保を担保するため資格として、官公庁や地方公共団体における発注の参加入札資格となっています。
どちらの資格も取得難易度が非常に高く、特に技術士の2次試験合格率は10%程度と非常に厳しい試験です。
また共通点として、どちらも試験だけでなく実務経験が必須となっており、技術士の場合は最短4年、RCCMの場合は最短7年と時間的にも多くの時間を要してしまうことも大きなハードルとなります。
建設コンサルタントとしての登録は21部門に分かれ、技術士・RCCMとしての資格登録もその登録部門に対応しています。
1. | 河川、砂防及び海岸・海洋 | 8. | 農業土木 | 15. | 土質及び基礎 |
2. | 港湾及び空港 | 9. | 森林土木 | 16. | 鋼構造及びコンクリート |
3. | 電力土木 | 10. | 水産土木 | 17. | トンネル |
4. | 道路 | 11. | 廃棄物 | 18. | 施工計画、施工設備及び積算 |
5. | 鉄道 | 12. | 造園 | 19. | 建設環境 |
6. | 上水道及び工業用水道 | 13. | 都市計画及び地方計画 | 20. | 機械 |
7. | 下水道 | 14. | 地質 | 21. | 電気電子 |
建設コンサルタント業界の現状と課題
国内における自然災害の激甚化や頻発化、急速な社会インフラの老朽化進行に伴い、厳しい財政状況の中でも将来に亘って安全・安心で豊かな社会資本整備の実現に向けて、建設コンサルタントにおける役割は重要度を増しています。
そんな中、業界全体として以下のような構造的・社会的・技術的な課題が複合的に存在しています。
技術人員における人材不足と高齢化
建設業界では、平成8年から平成23年の期間における建設投資額の減少に伴い、その期間における人材の流入が少なく、現在での人材の空洞化に繋がっています。
それは建設コンサルタント業界においても同じ現象が起こっています。
また前述の通り、建設コンサルタント業界は建設業界の中でも特に技術者の確保が難しく、高度な専門知識や経験が必要な業務が多いため、若手人材が即戦力となるまでにも相当な時間がかかることも大きなネックとなります。
高度経済成長期のインフラ整備を支えた世代のベテラン技術者の退職期を迎えており、更なる人材不足に拍車をかける深刻な状況となっています。
価格競争による中小企業の疲弊
建設コンサルタントの受注の大半は、公共工事に絡む業務のため、入札制度が基本となります。
最近では、国土交通省を中心に技術力や実績なども考慮したプロポーザル方式や総合評価落札方式の導入が進んでおりますが、地方では価格落札方式が主流となっているのが現状です。
質の高い技術提案を行っても、最終的に価格で劣れば受注を取れない構造が根強くあり、公共工事を主たる取引先とする建コン会社としては、結果として利益率を上げることがとても難しい状況にあります。
DXの遅れ
BIM/CIMやドローン測量、AI解析の活用など人手不足に悩む建設業界ではDX化が日々進化している最中ですが、建設コンサル分野での導入はまだ発展途上にあります。
特に中小企業ほど、ソフトウェア投資やIT人材の確保が難しく、高いハードルとなっています。
今後さらなる人材不足が懸念される中、社会インフラのライフサイクル全体の生産性向上を図るためにも、ICTの活用が重要課題となり、対応するソフトやハードウェアの整備、導入に向けた研修などDX化への環境整備が急務となります。
M&A活用のメリット
前述の通り、今後ますます建コン業界の経営環境は厳しさを増し、競争は激しくなることが考えられます。
その中で、M&Aで他社との協業を図ることは、有効な手段の一つになります。M&Aにより想定されるメリットの例として下記が挙げられます。
売手側のメリット
- 買手のブランドや経営資源の活用
- 後継者課題の解決や会社の存続・発展
- 従業員の継続雇用
- 金融債務やその他契約などにおける個人保証や担保の解消
- 株式売却による創業者利益・売却益の獲得
買手のブランドや経営資源の活用
買手企業との連携により、ネームバリューやブランド価値の活用が可能となり、より大規模な案件への関与や高付加価値なノウハウの獲得へと繋がります。
また、資本力のある会社と組むことで、採用の強化や人材育成、評価制度・報酬体系の高度化や従業員に対する多様なキャリアパスの提供など人材確保に向けた取り組みも可能となります。
結果として、企業としての総合力が高まることになります。
後継者課題の解決や会社の存続・発展
親族・経営者・従業員において、後継者として適任者が存在しない、株式取得資金の支払いが困難なことなどを理由に、事業承継を行うことができないケースは多々あります。
M&Aを活用することで、事業及び従業員・取引先等の経営資源を第三者へ承継することが可能となり、会社の存続に繋がります。
従業員の継続雇用
後継者不在問題が解決しない場合の選択肢は、IPOを除けば「廃業」又は「M&A」の2つしかありません。
廃業となれば、長年会社へ貢献してくれた従業員は突然職を失い、路頭に迷うこととなります。
一方M&Aを活用すれば、従業員の雇用・労働条件を維持、場合によっては良化することも考えられます。
金融債務やその他契約などにおける個人保証や担保の解消
親族や従業員への承継の場合、当該後継者が一人立ちできるまで、オーナー個人保証を継続せざる負えないケースが少なからず存在します。
M&Aにおいては、買手企業が変わり担保・保証の提供をすることによって、売手オーナーの個人保証・担保提供は解消されます。
株式売却による創業者利益・売却益の獲得
M&Aによる価格と、親族内承継・従業員承継に伴う価格は評価方法が異なります。
また親族内承継・従業員承継の場合、後継者の資金負担を抑える必要性が生じるため、M&Aによる価格は、その他承継方法による価格と比べ高くなることが一般的です。
すなわちM&Aでは長年経営に従事し、会社を成長させてきた対価をきっちり得ることができると言えます。
買手側のメリット
- 地域ネットワークや自治体との関係性、顧客基盤の獲得
- 技術士やRCCMを中心とした有資格者、優秀な人材の確保
- 登録部門や業務領域・専門性の獲得、補完
- 業界再編への備え
建設コンサルタント業界におけるM&A事例
競争環境の激化や若手技術人材の取り合いなどを背景に、業界大手中堅企業と地場中小企業同士のM&A事例が活発化しています。
直近では、以下のような事例が公表されています。
日本エコシステム<9249>、建設コンサルタントの三進を買収
三進は、岐阜県を中心に愛知・三重・長野県に拠点を展開して建設コンサルタント・補助コンサルタント業務を行っている会社です。地方公共団体や高速道路事業者を主な取引先として40年を超える取引実績を有しています。
技術士や測量士といった専門人材を豊富に抱え、河川・道路設計や維持管理業務に強みをもつほか、UAV(小型無人航空機)を活用した航空写真測量技術や橋梁・構造物の点検技術等の先進技術のノウハウも有しています。
日本エコシステムは、公共性の高い「ファシリティ事業、環境事業、交通インフラ事業」を主業とし、本件は高速道路のETC設備や橋梁点検などを行う交通インフラ事業エンジニアリングサービスの強化を目的としたM&Aとなります。
グループとして総合建設コンサルタント業務に参入できるという点で川上事業の構築に直結するものとなります。
JR四国、徳島県の建設コンサルタント・地質調査・測量を行う基礎建設コンサルタントを買収
基礎建設コンサルタントは、徳島県と石川県に拠点を置き、建設コンサルや地質調査、測量を手がけており、海岸・海洋、河川、港湾、道路、水道など幅広い実績をもつ企業です。
JR四国は傘下の四国開発建設を中心に、自社や四国内の民鉄を対象とした鉄道関連の建設事業を手がけています。
加えて校舎や体育館など鉄道外についても建築実績がありますが、建設コンサルタントの機能がなく、土木構造物の設計に関しては外注での対応となっていました。
本件によって、建設コンサルタント業務を内製化することができ、土木構造物の測量設計、そして施工まで、一連の業務をグループ内で完結できるようになります。
ERIホールディングス<6083>、建設コンサルタントの国土工営コンサルタンツを買収
国土工営コンサルタンツは、大阪を拠点に橋梁他構造物の設計、点検調査、補修・補強設計に取り組む建設コンサルタントとして、地域の公共事業の円滑な推進に貢献しています。
昨今は海外の協力会社とも連携しながら、BIM/CIMのモデリング事業にも注力しています。
一方のERIホールディングスは、住宅・建築物に関する第三者検査機関としての働きを祖業としながら、国内の人口減少や住宅着工数の下降を見据え、土木インフラ領域の事業拡大を行っています。
本件は、関西地域で3社目の建設コンサルタント会社のM&Aとなり、両社が連携して地域でのプレゼンス向上を目指しています。
まとめ
今回は、建設コンサルタント業界における動向とM&Aのポイントをまとめました。
会社の買収・売却等をお考えの際は、まずはM&Aの専門会社へ相談しましょう。専門家は、豊富な知識、経験をもとに相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。
リガーレは、あらゆる業界のM&Aに精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスや財務コンサルティングにも対応しておりますので、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆

アドバイザー中川雄太
専門領域:M&Aアドバイザリー
経営者の後継者問題や企業の成長戦略を支援するM&Aアドバイザーという職種に魅力を感じ、大手M&A仲介ブティックに入社。主に中堅中小企業オーナーに対するアドバイザリー業務に従事し、建設業や卸売業など様々な業種において計10件以上のM&A成約支援に携わる。M&Aのみに留まらず幅広く事業承継支援を行いたいという想いからリガーレに入社。M&A・事業承継を通じて企業の永続的な発展を支援する。