住宅リフォーム業界のM&A動向と最新事例
住宅リフォーム業界とは
まずは、住宅リフォーム業界の定義や商流、現状について解説します。
住宅リフォーム業界の定義
住宅リフォーム業界とは、機能やデザイン、性能の向上、老朽化への対応、ライフスタイルの変化などを目的として、新築住宅の建設ではなく、すでに存在する既存住宅の改修・改装を専業とする工事分野です。
具体的には以下のような工事が含まれます。
- 修繕(メンテナンス):屋根や外壁の補修、水回りの修理など
- 改修:耐震補強、耐熱改修、バリアフリー化など
- 改装・模様替え:キッチンや浴室の最新設備への交換、壁紙の張替えなど
- 増改築:部屋の間取り変更、二世帯化、部屋数の増加など
- リノベーション:価値や機能を刷新する大規模な工事
住宅リフォーム業界の商流と構造
住宅リフォーム業界においては、一般的に下記のようなステージで集客~アフターサービスまで進行していきます。
ステージ | 主な活動内容 |
①集客・マーケティング | チラシ、WEB、SNS、口コミ等で見込み顧客獲得 |
②営業・提案 | 顧客ニーズのヒアリング、現地調査、見積もり作成 |
③設計・プランニング | 工事内容や仕様を図面・プランに落とし込む |
④資材調達・手配 | 建材・設備の選定、業者・職人の手配 |
⑤施工管理・工事 | 工事の進行、職人管理、安全・品質管理 |
⑥検査・引き渡し | 工事完了後のチェック、顧客への引き渡し |
⑦アフターサービス | 保証対応、メンテナンス、リピート提案 |
また、本業界は参入障壁も低く、多様な事業者が参入しています。
リフォームを専業とする専業事業者のほか、新築住宅のアフターメンテナンスの一環として参入している住宅メーカー、商材販売の延長線上として参入している住設機器メーカーや実際の施工を担うことが多い地場工務店等の兼業事業者も多く存在しています。
参入障壁が低い理由としては、比較的小規模な案件が多いことや、施工を担う下請け企業が多い業界であるため、施工能力を持たない会社でも参入可能な点があげられます。
住宅リフォーム業界の市場環境
次に、住宅リフォーム業界の市場環境について解説します。
新築住宅着工戸数の減少に反し、住宅リフォーム市場は中長期的に成長見込み
図:新設住宅着工件数の実績と予測(総戸数)

出典:野村総合研究所調べ
新築住宅の着工戸数は、上図の通り、国内人口減少によるゆるやかな現象傾向は今後も続くと予想されており、2040年度には約55万戸と2022年度比約36%減少することが見込まれています(野村総合研究所調べ予測値より引用)。
一方で、住宅リフォーム市場は、以下の点から今後の成長が期待されています。
- 国の政策転換
国内では新築偏重から「既存住宅の活用」へと政策シフトが着々と進行しています。国土交通省は「ストック型社会」の実現を目指しリフォーム・リノベーションを積極的に推進しており、住宅ローン減税の対象拡大や、省エネ改修への補助金制度も整備が進むなど国民がリフォームを選択しやすい環境が整っていっています。
- 人口減少、世帯構成の変化
人口減少、少子高齢化の進行により新築需要は鈍化する一方で、高齢世帯の「バリアフリー改修」や「老後リフォーム」のニーズが高まっているほか、単身世帯や共働き世帯の増加により、「コンパクト・機能的」な改修の需要も増えています。
- 空き家問題と活用の促進
現在、全国の空き家は900万戸を超えるとされており、空き家の活用・再生は地域活性化の鍵と考えられています。民間と行政が協業するモデルも増加中であり、企業にとっても空き家再生事業は新たなビジネスチャンスとなっています。
- エコ・省エネ・スマートホーム化の促進
ZEH(ゼロエネルギーハウス)基準の普及に伴い、太陽光、蓄電池、断熱性能強化など「省エネリフォーム」が注目を集めています。IoT導入による「スマートホーム化」も進展しており、高付加価値リフォーム(エコ・スマート)が新たな需要を創出しています。
以上のような点から、中古(既存)住宅+リフォームという選択肢が増え、住宅リフォーム市場は中長期的に成長していくと予想されています。
住宅リフォーム業界の現状と課題
次に、住宅リフォーム業界の現状や本業界が抱える課題について解説します。
構造的な課題
業界の構造的な課題としては次のようなものが考えられます。
- 職人・技術者不足・高齢化
現場施工を担う職人の高齢化が進行している反面、若年層の入職者が少なく、技能承継が進んでいない会社が多いというのが現状です。また、施工管理者(現場監督)も慢性的に不足しており、受注しても着工できないほか、工期の遅延や品質劣化などの問題が発生するリスクを抱えています。
- 価格競争と利益率の低さ
相見積もり文化・比較サイトの普及により価格競争が激化しています。その反面、小規模案件が多く、工事単価に対して必要な工程も多いため、採算をとるのが難しく、利益を出すには徹底した生産性の管理と付帯工事の追加受注等、付加価値化が不可欠となっています。ひとたび安売り競争に巻き込まれてしまうと、企業体力の劣るブランド力のない中小零細企業は淘汰されてしまいます。
- 品質とクレームリスク
現場ごとに設計、施工が異なるため、品質の標準化が難しく、不適切な施工や現場と管理側のコミュニケーション不足からクレームが発生するケースも多くみられます。また近年はリフォーム詐欺などをはたらく一部の悪質業者が存在するのも事実であり、品質管理にはより慎重に対応することが求められています。
運営面の課題
運営面における課題としては次のようなものが考えられます。
- デジタル化・IT活用の遅れ
地場の中小零細企業では、見積もり・工程管理・顧客管理などをまだまだ紙やExcelで管理をするケースが多く、顧客接点においてもアナログ中心でオンライン対応の遅れが目立っています。その結果、業務効率化が進まず、人手不足と相まって機械損失につながるリスクを抱えています。
- 提案力・プランニング力の差
顧客ニーズに対して「的確なプラン提案」ができるかが勝負である一方、特に中小零細企業においては建築知識、デザイン力やコンサル力を持つ人材が不足しがちです。また営業と設計が分断される傾向にあり、連携ミスも起こりやすいため、それらが原因で成約率の低下や顧客満足度の低下につながらないよう注意が必要です。
顧客接点の課題
顧客接点における課題としては次のようなものが考えられます。
- アフターサービスのばらつき
引き渡し後のメンテナンス・保証体制が不十分な事業者も多く、その結果、中長期的な信頼関係の構築・ブランド形成が困難であり、ブランド力で勝る大手に既存顧客が流出してしまうケースがあります。アフターサービスは顧客満足度やリピート率に直結する重要なフェーズであり、しっかりとした対応が求められます。
- 法制度・補助金制度への対応力
省エネ基準や耐震基準など、法改正に応じた対応が必要となしますが、そもそも国や自治体の補助金制度を活用できない(知らない・対応できない)事業者も多く存在します。
顧客へタイムリーなアドバイスができるよう、組織単位でそれらの最新情報をインプットしていくことが求められます。
住宅リフォーム業界におけるM&A動向
近年の住宅リフォーム業界においては、M&Aが活性化しており、主な動向を以下にまとめます。
- 異業種からの参入
家電量販店や不動産業など、リフォーム業界以外の企業がM&Aを通じてリフォーム市場に参入するケースが増加しています。例えば家電量販店大手のエディオンは外壁塗装会社を買収し、リフォーム事業の強化を図っています。
- 人材・技術の確保
リフォーム業界では、慢性的な人手不足や職人の高齢化、ノウハウの伝承が課題となっています。これに対処するために、M&Aを活用して熟練した人材や専門技術を持つ企業を買収し、経営基盤の強化を図る動きがみられます。
- 地域密着型企業の買収
地域に根差した地場のリフォーム会社は、地元での信頼や顧客基盤をもっています。大手企業がこれらの地域密着型企業を買収することで、新たな市場への迅速な参入や地域特有のニーズへの対応力を高めています。
上記のような理由から、本業界においてはM&Aが活発化しており、今後もリフォーム需要の増加が見込まれる中M&Aを通じた業界再編やあ事業拡大の動きは続くと予想されています。
建材・住設卸業界におけるM&A活用のメリット
住宅リフォーム業界においてM&Aを活用した場合、以下のようなメリットが想定されます。
売手側のメリット
- 後継者問題の解決
後継者が不在または未定という会社が多く、後継者問題はリフォーム業界においても例外なく深刻な問題となっています。
地場の工務店等、規模が小さくなればなるほどその問題は深刻で、後継者問題が解決できずに廃業を選択されるケースも珍しくありません。
M&Aを活用することにより、第三者への譲渡という新たな選択肢により解決することが可能です。
- 会社の存続・発展
M&Aを活用することにより、後継者問題に起因した廃業を回避することができるほか、買手の営業基盤や資本力を後ろ盾に更なる会社の発展を見込むことも可能です。
- 人材確保
当業界においては、人出不足、職人不足も深刻な問題となっていますが、大手企業グループとなることで、ブランド力を背景とした採用力の強化を見込むことが可能です。
- デジタル化・IT活用の推進
特に中小零細の地場企業では、見積もり・工程管理・顧客管理などを紙やExcelに依存しているケースがまだまだ多く、また顧客接点においてもアナログ中心で、オンラインでの対応等への遅れが目立ちます。
M&Aにより買手のIT基盤を活用することができるため、業務効率化を図ることが可能です。
- コストダウン
資材価格の高騰傾向は継続していますが、M&Aを活用することにより、親会社グループとの大量一括仕入れが可能となるケースもあり、原価の低減を図ることが可能です。
- 提案力の強化、アフターサービスの拡充
買手企業の人材を含めた営業リソースを活用することにより提案力の強化が見込まれ、より的確なプラン提案が可能となります。
また、中小零細企業においては引き渡し後のメンテナンスやフォロー体制が不十分な事業者も多くみられますが、買手企業のリソースを活用することによりアフターサービスの拡充に伴う中長期的なブランド形成が可能となります。
- 個人保証や担保の解消
M&Aを活用することにより、会社の借入に対する個人保証や担保提供が解消され、金銭的にも精神的にも負担が解消される点も大きなメリットです。
- 創業者利益・売却益の獲得
M&Aにより会社や事業を売却した対価として、金銭を受け取るケースが一般的ですが、通常、廃業時に比べ、手残り額が大きくなるケースが多いです。
それは、M&A時における譲渡価額に「のれん」が含まれおり、取引総額が大きくなる傾向にあるという点に加え、税制面でもメリットが生じること(株式譲渡税VSみなし配当課税)が多く、結果手残り額が廃業時に比べ増えるというメリットがあげられます。
買手側のメリット
- 新規エリア・新規顧客の獲得
地域性が高い当業界において、地域密着の地場企業が多く存在しています。
そのような地場企業を買収することにより、自社の営業エリアを時間をかけることなく獲得することが可能です。
- 周辺領域、異業種への参入
川上、川下事業者または異業者が本業とのシナジーを見込んでリフォーム会社の買収を検討するケースが増えています。
一から新規事業を立ち上げるには、多大な時間とコストがかかってしまうため、M&Aを活用することにより、効率的に新規事業を展開することが可能です。
- 人材確保
買手企業にとっても、M&Aを活用することにより、人出不足、職人不足を解消することが可能です。
住宅リフォーム業界のM&A事例
ここでは、住宅リフォーム業界における最近のM&A事例をご紹介します。
エディオンによる麻布の全株式取得
家電量販店の大手であるエディオン(大阪府大阪市)が、麻布(愛知県春日井市)の発行済株式全てを取得し、子会社化しました。
麻布は全国38か所に営業所を展開し、外壁塗装を中心にリフォーム事業を展開。
エディオンとは以前から取引関係がありましたが、麻布の持つ塗装技術や職人ネットワーク、営業力の高さが評価され、子会社化に至りました。
エディオンは家電に次ぐ第2の柱としてリフォーム事業に注力しており、今回の買収を通じてリフォーム事業のさらなる拡大と、麻布の発展的な成長を推進する方針です。
アークホームによるフレッシュハウスの全株式取得
ホームセンターを運営するアークランズの子会社アークホーム(埼玉県さいたま市)が、フレッシュハウス(神奈川県横浜市)の発行済株式全てを取得し、子会社しました。
同業者同士のM&Aとなった本件ですが、ホームセンター内で事業展開するアークホームと路面店を中心とするフレッシュハウスが融合することにより、異なるチャネルでの販路を獲得できるほか、エリアの拡大や共同仕入れによるコストダウンシナジー等、ブランド力のさらなる強化を進め、業界内での競争力を高める効果が期待されます。
コーナン商事によるパナソニックプロイエサービスの一部事業譲受
ホームセンター大手のコーナン商事(大阪府大阪市)が、パナソニックプロイエサービス(東京都港区)が営む住宅設備の維持修繕事業の一部を事業譲受しました。
リフォーム事業の成長・拡大を掲げるコーナン商事にとって、パナソニックプロイエサービスが展開するリフォーム業の譲受することにより、有資格者を含む人材確保と営業力、施工力のアップが期待されています。
まとめ
住宅リフォーム業において会社の売却等をお考えの際は、まずはM&Aの専門会社へ相談しましょう。
専門家は、豊富な知識、経験をもとに相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。
会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。
御堂筋税理士法人グループ株式会社リガーレは、住宅リフォーム業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスや財務コンサルティングのみにも対応しておりますので、是非お気軽にご相談ください。
この記事の執筆

取締役COO青山佳敬
専門領域:マネジメント、M&Aアドバイザリー
地方銀行入行後、法人向けファイナンス業務を担当。
その後、監査法人系M&Aアドバイザリーファームへ出向し、以後長期に渡りM&Aアドバイザリー業務に従事。国内ミドルマーケット案件を中心に多くの案件に責任者として関与、事業会社の後継者問題解決・企業価値向上に寄与。
2021年御堂筋税理士法人グループに入社、2022年からは株式会社リガーレとしてM&Aアドバイザリー業務を中心としたソリューションサービスを提供している。