建設業界のM&A動向と最新事例

人手不足などの影響もあり、近年建設業界のM&A件数は増加傾向にあります。
この記事では、建設業界のM&A動向や実施するメリット、具体的なM&A事例などを紹介します。
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建設業界とは
まずは、建設業界の定義や特徴について解説します。
建設業界の定義
建設業は建築・土木およびそれに伴う工事施工を手掛ける事業をいい、その定義は建設業法で定められています。
建設業法とは、建設業者の資質向上や、建設工事請負契約の適正化等を図るための規制を定めた法律です。
建設業は、建設業法第2条2項において「元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう」と定められています。
また、建設工事の種類に応じて、建設業は下表の29業種に区分されており、工事を総合的に請け負う総合建設業(土木工事業、建築工事業)・部分的に請け負う職別工事業(専門工事業)に大別されます。
| 一式工事(2種類) | ・土木一式工事 | |
| ・建築一式工事 | ||
| 専門工事(27種類) | ・大工工事 | ・管工事 |
| ・左官工事 | ・鋼構造物工事 | |
| ・とび・土工・コンクリート工事 | ・鉄筋工事 | |
| ・石工事 | ・舗装装工事 | |
| ・屋根工事 | ・しゅんせつ工事 | |
| ・タイル・れんが・ブロック工事 | ・板金工事 | |
| ・電気工事 | ・ガラス工事 | |
| ・さく井工事 | ・水道施設工事 | |
| ・建具工事 | ・消防施設工事 | |
| ・塗装工事 | ・熱絶縁工事 | |
| ・防水工事 | ・電気通信工事 | |
| ・内装仕上工事 | ・造園工事清掃施設工事 | |
| ・機械器具設置工事 | ・解体工事 |
建設業界の商流
上記の通り、建設業界は、「総合建設業」と「職別工事業」の2つのタイプに分かれます。
総合建設業は、建築や土木工事を発注者から直接請け負い、全体の管理・監督を行う業者で、一般的に「ゼネコン」と呼ばれます。
これに対し、職別工事業は、建築や土木工事の一部分を担当する業者で、内装工事や大工工事などが該当します。

建設業界の特徴的な点は、総合建設業者が元請として発注者と請負契約を結び、各工事を下請業者(主に職別工事業者)に委託する重層的な下請け(ピラミッド)構造を採用していることです。
(上図参照)総合建設業者(元請)は主に管理・監督を行い、各種専門工事を担当する専門工事業者(下請)と分業体制を築いています。
受注可能な案件の規模や数は、企業が持つ資産、従業員数、実績に大きく依存しており、企業規模がそのまま受注力に繋がります。
そのため、総合建設業者は、案件の地域や規模、作業内容に応じて、専門事業者と連携しながら業務を進めています。
建設業界の現状

出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf)
国土交通省の「建設業を巡る現状と課題」によると、昭和51年から平成4年にかけて建設投資額は順調に増加し、平成4年には84兆円に達しました。
しかしその後、国内建設需要の成熟や景気の低迷に伴い、民間工事が減少し、市場規模は縮小しました。
特に平成22年にはピーク時の約半分の42兆円まで落ち込むこととなりました。
それでも、平成23年以降は東日本大震災による復興需要、景気回復に伴う民間建築需要の増加、東京オリンピックの特需などを背景に建設投資が増加に転じ、令和4年には約67兆円に達する見通しとなっています。
民間投資の回復により、この増加傾向は今後も続くと予想されています。
また、日本では高度経済成長期に整備された道路、河川、橋梁などのインフラが老朽化しており、今後はこれらの維持や補修が求められるため、建物の寿命を延ばすための維持修繕工事がますます重要な役割を果たすことが予測されています。
建設業界が抱える課題
次に、建設業界の課題について解説します。
少子高齢化による深刻な人手不足
建設業界では、深刻な人手不足が課題となっています。
建設業就業者数は平成9年のピーク時の685万人から減少傾向が続き、令和4年には479万人と、ピーク時から約30%減少しています。

出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf)
上図は、年齢階層別の建設技能者数です。建設業就業者は、55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%と高齢化が進行しています。60歳以上の技術者は全体の25.7%と約4分の1を占めており、10年後にはその大半の引退が見込まれています。これからの建設業を支える若年入職者の確保、育成が喫緊の課題です。
政府は、働き方改革の推進、工期の適正化、現場の処遇改善、生産性の向上といった対策を行っており、各事業者も、建設現場へのICT導入などを進め、自動化・省人化を伴う労働生産性向上に取り組んでいます。
2024年問題による利益の減少
建設業界の2024年問題とは、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制に伴い、長時間労働が常態化している建設業界において対応が迫られているものです。
働き方改革関連法による時間外労働の上限規制は、建設業界の労働環境を改善する目的がありますが、一方で、人手不足という問題は残されたままです。
時間外労働の上限規制の猶予期間が終了する2024年4月以降、労働時間が短くなることで、社員の賃金の減少に繋がり、離職率が上がる可能性もあるため、現在よりも人手不足や人材採用の状況が悪化すると言われています。
また、それに加え、月60時間超残業の割増賃金率の引き上げによる残業代の増加、年次有給休暇の消化日数増加による人件費の増加、時間外労働の上限規制による稼働時間の減少など、会社の利益の減少に直結するという問題も懸念されています。
資材価格の高騰

出典:一般財団法人経済調査会「建設資材価格指数」
(https://www.zai-keicho.or.jp/service/build/price/)
建設資材や各部材は、年々価格高騰の推移を続けています。新型コロナウイルスの影響を受けて、需要と供給の緩急の差が大きくなり、2021年以降は需要が再拡大しました。それに伴い、資材や部材の価格が高騰しています。
さらに、ウクライナとロシアの紛争による影響を受け、2022年以降はさらなる価格高騰を続けている状況です。
資材コストが急激に高騰する中、早期の仕様決定や、資材調達先の見直し、精度の高い原価管理などが重要となっています。
建設業界におけるM&A動向
近年、以下のような理由から、建設業界やその周辺業種におけるM&Aが非常に活発になっています。
①建設業界の巨大な市場規模
建設業界のM&Aが近年活発である理由の一つは、建設業界が非常に大きな市場であることです。
前述の通り、建設業投資額は近年増加傾向にあり、令和4年度で約67兆円、GDPはおよそ600兆円のため、国内の経済活動の約10%が建設業界に属しているといえます。
このように考えると、建設業界がいかに巨大な市場であるかがよくわかります。
②後継者不在、人材不足
建設業界のM&Aが増えている理由として、巨大な市場規模に加え、前述のような業界の高齢化、人手不足も挙げられます。
建設業の会社を売りたいという経営者の方は、後継者不在を理由に売却するケースが非常に多い一方、買い手の買収ニーズとしても、人材の確保を目的の一つとしている場合が多いため、売り手と買い手の双方にとってM&Aは非常に有効な課題解決の手段といえます。
③関連する業種が多く、シナジーが生じやすい
建設業界は1件の建物を建てる際に、様々な業者が関わるため、関連業種が豊富で、シナジーが生まれやすいという特徴があります。
電気工事会社と通信工事会社、管工事会社と空調工事会社といったように、設備工事同士で施工可能な事業領域を拡大するためにM&Aを行う場合もあります。
また、ハウスメーカーや不動産会社が、自社グループで建築会社を持つといった、異業種・関連業種からのM&Aニーズも高まっています。
建設業界におけるM&A活用のメリット
建設業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。
売り手側のメリット
後継者問題の解決、会社の存続
経営が順調であっても、後継者が不在のため、事業の継続が難しくなる企業は増えています。
M&Aにより事業を引き継いでもらう先が見つかれば、後継者問題が解消され、会社の存続が可能となります。
経営が順調であっても、後継者が不在のため、事業の継続が難しくなる企業は増えています。
M&Aにより事業を引き継いでもらう先が見つかれば、後継者問題が解消され、会社の存続が可能となります。
従業員の雇用の継続
事業の継続ができなくなると、従業員は失業することとなります。
しかし、M&Aを行うことで、倒産や廃業を回避することができ、従業員の雇用が守られるというメリットがあります。
個人保証・担保の解消
中小企業の経営者は、金融機関等から事業資金の融資を受ける際に、経営者保証を提供しているケースが多くあります。
基本的に会社を売却すると、個人保証や担保等の負債も買い手企業が引き継ぎます。
M&Aを行うことで、経営者保証から解放され、引退後に安心した生活を送りやすくなるというメリットがあります。
創業者利益・売却益の獲得
M&Aによって会社を売却することで、売却益を得ることができます。
株式譲渡であれば、株主である経営者個人に売却の対価が支払われることとなります。
経営者の老後資金や新たな事業への資金などに充てることも可能です。
買い手企業の経営資源の活用
M&Aにより買い手企業の傘下に入ることで、買い手企業の持つ経営資源を活用して事業運営ができるようになります。
買い手企業のブランド力や豊富な資金、人員、設備なども活用できるようになるため、より安定した経営が可能となるでしょう。
人材獲得しやすくなる
大手と組むことで採用活動がしやすくなる。
買い手側のメリット
人材の確保
建設業を営むには許可が必要であり、有資格者の確保が不可欠です。また、高い技術や豊富な経験のある職人を一から育てるのは時間も労力もかかります。建設業の会社は人材不足に課題を抱えることが多いため、M&Aによって、経験豊富な従業員や有資格者を一気に獲得できるという点は非常に大きなメリットといえるでしょう。
周辺領域への進出、事業領域の拡大
建設業は隣接する企業が多く、シナジーが生まれやすい業種といえます。
M&Aを活用することで、外注していた業務の内製化や、顧客への提供サービスの拡充などが可能となります。
新規エリアへの進出
M&Aによって、隣接エリアへの進出や、地方から都心、都心から地方への進出が早く実現できる点もメリットの一つです。新規エリアへ自力で進出するとなると、事業基盤の構築に相当な時間を要しますが、M&Aを活用すれば大幅に短縮できます。
魅力的な取引先の獲得、官民の補完
建設業の中でも、民間事業に強い企業や官公庁事業に強い企業など、企業によって強みが異なります。安定した受注の確保のためには、幅広い取引先を持つことが重要です。M&Aにより、自社にはない強みを持つ企業を買収することで、相互補完が可能です。
(建設業界では、民間に強い会社や官公庁に強い会社など、強みが異なる場合があり、M&Aにより幅広い顧客を持つことができることで、受注が安定する可能性がある)
支配力の強化
建設業に限りませんが、地域や業種が同じ競合企業のM&Aを行うことで、その地域での支配力を高め、経営基盤をより強固にすることができます。
(ライバル企業を傘下に迎えることで、同地域での経営基盤が盤石となる)
建設業界のM&A事例
ここでは、建設業界の最近の事例をご紹介します。
総合建設会社を中心とする橋本ホールディングスによる同業の宏和エンジニアリングの買収
橋本グループは、静岡県にある橋本組を中核に、グループで東京、千葉に拠点を持つ、総合建設業者。
2023年12月、神奈川の建設会社である宏和エンジニアリングをグループに迎えることで、静岡県から千葉県までのエリア一体での事業活動が可能となりました。
また、宏和エンジニアリングは、耐震補強や各種補修を得意分野としており、土木・建築事業を中心とする橋本グループとのシナジー効果は非常に高いという判断から、本M&Aに至りました。
注文住宅設計施工販売会社同士の仲介案件
九州の注文住宅設計施工販売会社同士の仲介案件を弊社が担当しました。
売り手企業様は、高価格帯の注文住宅設計施工に強みを有していましたが、マーケティングに課題を抱えていました。後継者不在かつ事業の成長発展を理由に、第三者との資本提携を検討されていたところ、同業でマーケティングに強みのある成長企業とマッチング。
買い手企業は、事業戦略の中で、高価格帯の注文住宅設計施工領域への進出を検討されていたため、早期にシナジーを実現できると判断され、本M&Aの実行を決断されました。
建設業界でM&Aを行う際に確認すべきポイント・注意点
建設業界でM&Aを行う際に確認すべきポイント・注意点は下記の4点です。
- 保有している建設業許可の確認
- 経営管理責任者の配置の確認
- 粉飾決算の有無の把握
- 従業員の属性の確認
それぞれ解説します。
保有している建設業許可の確認
建設業許可には「一般建設業」と「特定建設業」の2種類があります。
特定建設業を保有している場合、発注者から直接請け負った1件の工事代金について、4,500万円(建築工事業の場合は7,000万円)以上となる下請契約を締結できます。
つまり、一般建設業許可を保有していれば自社でどんな工事も請け負うことができますが、特定建設業許可があると下請け業者に多額の発注ができるため、より大規模な工事に対応しやすくなります。
また建設業許可は種目ごとに取得でき、全般的な土木一式工事と建築一式工事の2つと、27の専門工事の計29業種に分類されています。2016年6月より新たな業種として解体工事業が追加され、29業種となりました。
許可の有効期限は5年間で、どういった建設業許可を保有されているのかは、建設業のM&Aにおいて必ず確認すべき事項といえます。
経営管理責任者の配置の確認
建設業許可の認定を受けるためには、建設業法により定められた経営管理責任者を配置する必要があります。
法令で定める基準には、「経営管理責任者のみを配置」「常勤役員+常勤役員を直接に補佐する者」の2パターンがあり、それぞれ下図のように要件が設けられています。
基本的には「経営管理責任者のみを配置」するパターンが多いですが、対象会社が適切に配置しているか確認しておく必要があるでしょう。

出典:国土交通省「建設業法施行規則等の一部を改正する省令について」
(https://www.mlit.go.jp/common/001365752.pdf)
粉飾決算の有無の把握
建設業の会計は「建設業会計」という方式で行われます。
工事の着工から引き渡しまで1年以上かかることの多い建設業界の特殊性を考慮した会計方式です。
建設業会計には、工事進行基準と工事完成基準の2つの計上基準があり、建設業会計独自の勘定科目を用いた処理が必要となります。
例えば未成工事支出金は、会計年度をまたぐ工事を請け負った場合に、売上と経費の不一致を防ぐことを目的とした建設業会計特有の科目です。
しかし、経費を繰り越せることを利用して当年度の利益を水増しする粉飾決算に利用されることも少なくありません。
そのため、買収前にデューデリジェンス(買収監査)を行うことで、粉飾決算の有無を確認することが重要です。
従業員の属性の確認
人員の確保を目的にM&Aでの買収を検討する場合はもちろん、そうでない場合であっても、対象会社にどのような従業員がいるのか、年齢・勤続年数・保有資格などの情報は事前に確認しておく必要があります。
また、売り手側としては、従業員が高齢化しており、若手社員が全く育っていないという場合、なかなか買い手が見つからない可能性が高まるため、注意が必要です。
まとめ
建設業の会社の売却などをお考えの際は、まずはM&Aの専門家へ相談しましょう。
専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。
会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。
リガーレは、建設業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。
