社長が認知症になったら!?会社を守るために出来ること
年齢を重ねるにつれ、認知症の発症率は上がっていく傾向にあります。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になる予測まであります(※参考)。
このような中、会社経営においても認知症は十分なケアや対策が必要です。とくに、事業承継やM&Aを検討している段階で社長が認知症になると、スムーズな事業の引き継ぎも難しくなるでしょう。
そこでここでは、社長が認知症になったらどのような症状が出るか、それに伴い生じる問題、会社を守るためにできる対応策や解決策をご紹介していきます。
※認知症が疑われるときは、主治医等にご相談ください。また、認知症の正しい理解も大切です。
社長が認知症!?よくある症状とは
認知症には様々なサインがあります。社長が認知症になったら、このような症状が出てくる可能性があります。
症状1.同じ話を繰り返す
認知機能が低下すると、同じ話を何度も繰り返すことがあります。これは、社長から重要事項や最新情報を得ようとする社員や関係者にとってフラストレーションがたまりやすくなります。同じ話を何度もしたり、日常生活に支障をきたすもの忘れを記憶障害とも言います。
症状2.判断能力が衰える
認知症により判断能力や理解力も低下することがあります。たとえば、現在の状況がわからない、物事を理解できなくなります。こうなるとビジネスや会社経営で必要な判断能力が衰え、会社の業績にも影響が出るでしょう。
症状3.妄想をするようになる
認知症になるともの盗られ妄想や幻視、憂うつになるなど心理面にも変化が表れます。自分のお金を誰かに盗られたと横領を疑ったり、会っていない取引先に会ったと言う可能性があります。場合によっては社内だけではなく、社外にも迷惑をかけるかもしれません。
社長が認知症になると起こり得る問題
企業にとって、社長が認知症になることは大きな問題となります。日常生活だけでなくビジネスでも支障をきたす可能性があります。ここではどのような問題が起こり得るかご紹介します。
問題1.企業としての信頼を失う
企業の成長や安定した経営には会社の信用が欠かせません。しかし、判断力や理解力が低下することで取引先に迷惑をかけたり、業績の悪化により会社に対する信頼が失われる可能性もあります。
問題2.後任への引き継ぎが難しくなる
社長が認知症になり、手を尽くして代表を交代できたとしても、記憶障害などで引き継ぎがうまくいかない可能性があります。
また、成年後見人制度などの利用で社長が退任となっても、後任の社長が就任するまで代表者が不在となることがあります。定款の内容にもよりますが、前任の社長が代表の権利行使ができてしまうなど会社にとって不安定な期間ができます。
問題3.社長の個人資産を動かせなくなる
社長が認知症または認知能力の低下を起こすと、社長の個人資産を動かせなくなる恐れがあります。
これは法的な問題ではなく単純に社長が銀行口座の暗証番号を忘れてしまったり、個人資産を動かすために必要な書類や印鑑の「ありか」を忘れてしまうなどのケースが想定されます。
厳密には当然ながら、社長の個人財産・資産と法人の財産・資産は、別として考えられるべきです。しかし実務上、特に中小企業等の場合、社長の個人資産が会社の実務上影響してくるケースもあるでしょう。
さらにもっと深刻なのは社長が個人で保有している会社の株式等についても同様の原因で移動ができなくなる可能性があります。場合によってはこのことが原因となり、事業承継がうまくいかなくなるケースもあるでしょう。
認知症に備える方法・対処法
社長が認知症になると会社として大きな問題となります。社長や会社を守るためには、事前に認知症に備えることが大切です。認知症に備える主な対処法をご紹介します。
家族信託を活用する
家族信託を活用する方法があります。家族信託とはご本人が保有されている不動産や預貯金等の金融資産を、信頼できる家族に文字通り信託(信じて託す)することで、その管理や処分を本人以外にも家族が行えるようにするという仕組みです。
この方法を活用すれば社長に万が一のことがあった場合でも、ご家族が対応可能となります。
任意後見制度を活用する
任意後見制度を活用する方法もあります。社長がまだ認知症の発症前または、認知能力が著しく低下する前に行っておくべき業務・作業となります。
こちらは公証人が作成する公正証書によって、まず任意後見契約を締結することから始まります。
その後ご本人が一人で物事を決定したり重要な決断を下すことに不安を覚えられたタイミングで、家庭裁判所に対し任意後見監督人選任の申し立てを行います。その後、手続きが完了すれば任意後見人の方がご本人に代わって法律行為を代理することができるようになります。
属人的株式を活用する
非公開会社の場合は属人的株式を活用する方法もあります。
<定款記載内容のイメージ>
副社長などに1株譲渡するなどして、社長に「認知症、病気等の障害による判断能力の喪失」が生じた場合、副社長が保有する株式1株で100個の議決権を有する。
これにより社長が認知症になっても、副社長等で会社運営ができるようになります。
社長が認知症を発症した場合の対処法
ここからは具体的に社長が認知症を発症した、またはその傾向が強くみられる場合にどのような対処法があるか解説していきます。
まず会社の代表者が認知症を発症した場合には実務上、代表を交代する必要が出てきます。この時の一つの方法として、先ほど挙げたような成年後見人制度や保佐人制度の活用が挙げられます。
これは成年被後見人、又は被保佐人は取締役になることができないと会社法で定められているためです。
つまりこの段階で社長が成年被後見人又は被保佐人になった場合、自動的に会社法における代表取締役又は社長の欠格事由に該当するため、社長が交代できるようになります。
※厳密には、令和元年に施行された改正会社法では、成年被後見人や被保佐人は取締役等に就任することが可能となりました。しかし、就任後に後見が開始されると取締役等から退任となります。
ただし、この方法は注意すべきポイントもあるため、事業承継やM&Aに詳しい専門家に相談すべきです。
まとめ
今回は社長と認知症というある意味で切っても切れない「永遠のテーマ」について解説してきました。早めの事業承継やM&Aの準備がいわゆる「Xデー」に役立つと考え、積極的かつ速やかに行動するようにしていきたいところです。
会社の代替わりということで早めのM&Aや事業承継も選択肢に入れておくべきケースもあるでしょう。
また、令和3年から新しい会社法が施行されているため、最新の会社法に則った準備も求められることも注意しておくべきポイントです。
事業承継やM&Aをお考えの方は、ぜひ一度私どもリガーレへご相談ください。
豊富な経験と最新の法律に則ったご提案をさせていただきます。