化粧品業界のM&A動向と最新事例

化粧品業界のM&A動向と最新事例

近年、大手化粧品会社は、国内外で積極的にM&Aを行っています。

この記事では、化粧品業界のM&A動向や実施するメリット、具体的なM&A事例などを紹介します。

化粧品業界とは

まずは、化粧品業界の定義や特徴について解説します。

化粧品業界の定義・特徴

化粧品会社とは、化粧品の研究開発・製造・販売を行う会社を指します。

化粧品は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」)が対象とする4カテゴリー(医薬品、医療機器、医薬部外品、化粧品)の一つ。

品質や安全性などを確保するため、同法などにより、製造販売業者の要件、使用できる成分、パッケージなどへの表示項目、広告で表現できる範囲などが定められています。医薬品、医薬部外品との違いについては下表の通りです。

■医薬品、医薬部外品、化粧品の違い

種類概要有効成分の配合国の承認
医薬品病気の治療を目的とするもの 医師の診断により処方される「医療用医薬品」と、薬局やドラッグストアで購入できる「OTC医薬品」の2種類がある有り必要
医薬部外品 (薬用化粧品)肌荒れ対策、育毛、デオドラントなど、各症状への予防や衛生を目的にしたもの有り必要
化粧品皮膚や毛髪などを美化する、清潔にする、健やかに保つもの無し不要

化粧品業界では、スキンケア製品、メイクアップ製品、ボディケア製品、ヘアケア製品など幅広い製品を取り扱っています。

中でも、スキンケア製品が47.3%を占めており、コロナ禍が大きく影響した2020年の停滞を除くと、本業界は主に北米、アジア太平洋、中東・アフリカ地域で成長を続けています。

化粧品業界の商流

(出典:リガーレ作成)

化粧品は、流通チャネル別に大きく5つに分けられます。百貨店などで美容部員がカウンセリング形式で販売する「制度品」、対面販売が義務付けられておらずドラッグストアやスーパーなどの量販店向けに販売される「一般品」のほか、「訪問販売品」「通信販売品」「業務品」が挙げられます。

「制度品」は一般的に高価格帯商品が多く、利益率が高い一方、カウンセリングに関わる人件費がかさむ傾向があります。

「一般品」は低~中価格帯商品が多く、高価格帯商品と比較して粗利益率は低く、販促費が占める割合が高くなりやすい傾向があります。

一般的に、「制度品」の流通では、化粧品メーカーが企画から開発・製造、プロモーション、卸売までを一貫して行い、卸売業者を介在せずに小売業者(百貨店や化粧品専門店等)と直接契約し、メーカーから派遣された美容部員が販売活動を行うことが特徴です。

一方、比較的低価格帯の化粧品など、「一般品」の流通では、化粧品メーカーから一般の卸売業者を経由し、小売業者(GMS、ドラッグストア、コンビニエンスストア等)へ製品が流通し、最終的に消費者に販売されます。

化粧品製造業界の現状

出典:株式会社矢野経済研究所「化粧品市場に関する調査を実施(2023年)」

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3345

株式会社矢野経済研究所の「化粧品市場に関する調査を実施(2023年)」によると、2022年度の市場規模は2兆3,700億円でした。

2022年度は、消費者の外出機会が徐々に増加し、需要回復が進んだことに加え、2022年10月より政府が個人旅行の受け入れや査証免除措置の再開等を実施したことを受け、インバウンド需要も回復の兆しを見せたことから、2022年度の国内の化粧品市場規模(メーカー出荷金額ベース)は2年連続で拡大推移となりました。

コロナ禍前の2019年度の市場規模(2兆6,480億円)と比べると、未だ復活の途上段階と考えられますが、2023年度以降は国内需要の回復基調、インバウンド需要の拡大などで2兆4,500億円になると予測されています。

化粧品業界が抱える課題と展望

次に、化粧品業界の課題と展望について解説します。

需要の落ち込み、国内市場の縮小

前述の通り、新型コロナウイルスの影響により、化粧品業界は苦戦を強いられています。

特に、対面での販売を強みとしていた制度品流通の企業は業績が落ち込んでおり、まだコロナ禍前と比べると、完全には需要が回復していません。

また、新型コロナウイルスの影響という一時的な落ち込みに加え、そもそもの人口減少による需要の減少も深刻な問題です。

化粧品業界に限りませんが、日本国内の少子高齢化は想定以上に急速に進行しており、人口の減少は免れません。今後の国内の市場規模の縮小は必至であるため、今後は、化粧品需要が伸びているアジアなど、海外市場を見据えた事業展開や、前述の男性化粧品市場といった、新たな分野の開拓が重要になると考えられます。

EC化の遅れ

 

出典)経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」

https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002-1.pdf

上図は、化粧品・医薬品のEC市場規模、EC化率の推移です。

2022年度の全産業のEC化率の平均は9.13%であり、化粧品・医薬品のEC化率は8.24%と、他の産業に比べEC化が進んでいないと言えます。

そもそも、化粧品業界は、触感、色、香りなどを直接確認したいというニーズなどにより、他業界に比べデジタル化が進んでいませんでした。

2020年、2021年には新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、化粧品各社がネット販売の体制整備を行ったことにより、EC市場規模、EC化率は大きく伸長したものの、物販分野全体でみると、EC化率は未だ低水準となっています。

最近では、各社がオンラインカウンセリング、バーチャルメイク、ライブコマース、店舗のデジタル化などを積極的に推進しているため、今後さらにEC化されることが期待されます。

男性化粧品の市場規模は5年で5割増

化粧品市場は、コロナ禍のマスク生活や外出自粛の影響により落ち込んでいましたが、感染状況が落ち着きを見せてきたことで、2023年には回復傾向にあります。

化粧品業界全体としては苦戦していた中で、成長を続けているのが男性化粧品市場です。

調査会社のインテージによると、男性化粧品の市場規模は、2022年に2017年に比べ約51%拡大し、376億円となりました。

男性化粧品の内訳の約9割は基礎化粧品で、特に美容液は5年前の2.9倍の15億円、クリームは2.3倍の59億円まで伸びています。

コロナ禍のオンライン会議などで、自分の顔を見る機会が増え、美容意識が高まったことも要因と考えられてます。

近年、化粧品各社では、男性向けのブランド商品を強化したり、性別を問わないブランドへリニューアルしたりといった動きが見られます。

また、人気俳優、男性アイドルグループ、スポーツ選手など、認知度の高い男性を広告キャラクターに起用する流れも起きています。

ジェンダーレスが加速する社会環境下で、企業が「ジェンダーフリー」や「多様性」を意識しているというメッセージを込める面があるとともに、男性向けのコスメ市場の開拓のため、男性がメイクをすることへの「啓蒙」としての役割も大きいと考えられます。

今後も新たな市場としての男性化粧品市場の伸びに注目していく必要があるでしょう。

化粧品事業界におけるM&A動向

近年、大手化粧品会社は、国内外で積極的なM&Aを行っています。

主に、消費者ニーズの多様化や、競合他社との競争激化に対応するためのM&Aが多くなっています。

①異業種の参入による業界再編

化粧品業界では、異業種企業の参入の動きが盛んになっています。富士フィルムや味の素など、他業種メーカーが、本業で培った技術を活かした化粧品の開発に参入しています。

中でも、富士フィルムの化粧品ブランド「ASTALIFT(アスタリフト)」は、大きな話題となりました。

コラーゲンやナノテクノロジーなど、写真分野で磨かれた技術を応用し、基礎化粧品を開発。2007年の発売以来、エイジングケアブランドとしてミドル層から高い支持を得ています。

その他、味の素のアミノ酸、江崎グリコのグリコーゲン、第一三共のトラネキサム酸など、他業種メーカー各社が本業で研究・開発している成分や技術を化粧品の開発に応用しています。 

②研究施設や製造工場の獲得を目的とするM&A

安価で高機能な化粧品を求める消費者ニーズに対応するため、自社グループ内で研究開発・製造を行うことを目指し、研究施設や製造工場をM&Aによって獲得するケースも増えています。

研究開発や製造効率を高めるために、OEMメーカーを買収するケースもあります。

③国内企業による海外企業の買収M&A 

国内化粧品会社による海外企業の買収先は、以前は欧米企業の買収や提携が多い印象でしたが、近年は、アジア企業の買収や提携が目立つようになっています。前述のように、少子高齢化が進み、国内の化粧品市場が頭打ちになる中、成長市場である中国や東南アジアなどへの進出を図る企業が増えていると考えられます。

化粧品業界におけるM&A活用のメリット

化粧品業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

・事業の選択と集中

・後継者問題の解決

・廃業の回避

・従業員の雇用の継続

・個人保証・担保の解消

・売却益(創業者利益)の獲得

・経営の安定・拡大

・知名度の向上

買い手側のメリット

・事業規模の短時間での拡大

・経営資源、人材の獲得

・ノウハウ、シナジー効果の獲得による収益性の向上

・容易に新規参入が可能(異業種)

・新製品の開発、技術力の強化

・EC、デジタルマーケティングの強化

化粧品業界のM&A事例

ここでは、化粧品業界における最近のM&A事例をご紹介します。

化粧品メーカーの仏ロレアル、角質美容水「タカミスキンピール」等スキンケア販売のタカミを買収

2021年2月、世界最大の化粧品メーカーであるフランスのロレアルは、日本のタカミを買収しました。

タカミは、東京・表参道の美容皮膚科クリニック「タカミクリニック」の創始者である高見洋医師が所有するスキンケアブランド「タカミ」のライセンス契約を結び、製品を開発・販売しています。

 主力製品の角質美容水「タカミスキンピール」はベストセラー商品で、日本のほか、中国でも人気が高く、売上を順調に伸ばしています。

ロレアルは、2018年に韓国ブランドを傘下に収めるなど、化粧品需要が高まっているアジアブランドを強化しています。

 ロレアルは、タカミのスキンケアの専門知識やオムニチャネルの販売網を魅力としており、タカミは、世界をリードするビューティーカンパニーであるロレアルグループの一員となり、その科学的・国際的な専門知識を得て、ブランドを更に発展させていきたいとしています。

 

アイケイ子会社のプライムダイレクトによるコンビの化粧品事業の事業譲受

2022年6月、アイケイ(東証スタンダード、名証プレミア:2722)の子会社であるプライムダイレクトが大手ベビー用品メーカーのコンビの化粧品ブランドを事業譲受しました。

アイケイは、商品の企画・製造・物流を一貫して行うマーケティングメーカー。生協向けのカタログ通販に強みを持ち、化粧品・食品・フィットネス商品などを展開しています。

本事業譲受の譲受企業であるプライムダイレクトはアイケイの子会社で、ダイレクトマーケティングを強みとし、テレビショッピング、ECを中心とする事業を展開しています。

一方、コンビはベビー用品の大手メーカーで、機能性食品や独自開発した美容成分を用いた自然派化粧品の製造なども行っています。

譲渡対象事業は、自然派化粧品ブランド「Nanarobe」の化粧品事業で、希少価値の高いツバメの巣由来の美容成分「コロカリア」を原料とする商品を取り扱っています。

本事業は、プライムダイレクトのダイレクトマーケティング事業及びセールスマーケティング事業の各販路において魅力的であり、売上の拡大が見込まれることから、プライムダイレクトの企業価値向上に繋がるとして、本M&Aに至りました。

化粧品業界でM&Aを行う際のポイント

化粧品業界でM&Aを行う際に留意すべきポイントを解説します。

化粧品規制

化粧品に関する主な規制は、薬機法で定められており、製造販売等を業として行うことに関する業規制としての許可等と、化粧品毎の承認・届出等の規制があります。

また、薬機法及び不当景品類及び不当表示防止法にて定められている、化粧品の広告についての規制にも注意が必要です。

M&A取引においては、取引後に事業の適法な継続性を確保するため、対象事業が規制に従い、適正に運営され、かつ、取引後も規制の遵守がなされているかを確認する必要があります。

自社の強みをまとめる

国内市場が縮小傾向にある化粧品業界において勝ち残っていくためには、M&Aを実施することによって、競合他社との差別化ができるようなシナジーを得る必要があります。

収益力、技術力、販路といった自社の強みを明確にしておくことにより、買い手企業も自社とのシナジー効果や買収後のビジョンを描きやすくなるでしょう。

まとめ

化粧品事業の会社の売却などをお考えの際は、まずはM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、化粧品業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

松本綾

シニアアナリスト堀内槙

地方銀行を経てリガーレへ入社。M&Aチームのミドルバック業務およびデューデリジェンス業務に従事。

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