健康食品業界のM&A動向と最新事例

健康食品業界のM&A動向と最新事例

健康食品・機能性表示食品の市場規模は堅調に増加していることを背景に、他業種からの参入も多く競争が激化しています。

そのような環境の中、自社の競争力を維持拡大するべく、M&Aを積極的に活用する企業も増えています。

この記事では、健康食品業界のM&A動向や実施するメリット、具体的な事例などを紹介します。

健康食品業界とは

まずは、健康食品業界の定義や商流、現状について解説します。

健康食品業界の定義

健康食品の定義は様々であるが、主に健康維持・増進を目的とする飲食品群を指します。

健康維持・増進を目的とした青汁、生活習慣病予防を目的とした難消化性デキストリン、整腸を目的とした乳酸菌など幅広い分野があり、その形状もサプリメントや加工食品、飲料など様々な形態があります。

健康食品の法的分類

健康食品のうち、国の制度の基づき機能性等が表示されている食品は「保健機能食品」といい、さらにその中でも「特定保健用食品」(通称トクホ)、「栄養機能食品」、「機能性表示食品」の3種類に分類することができます。

また、それらの機能性等を表示できない食品群の中にも、サプリメントや栄養補助食品といったその他の健康食品が含まれています。

(出典:消費者庁ホームページより)

健康食品業界の商流

保健機能食品の中でも、消費者庁の許可を必要とする特定保健用食品については、開発に係る費用と時間が相当にかかり、企業体力を必要とするため、大手メーカーが多く、製造の企画から製品製造、販売までを自社内一気通貫で行う企業が多くみられます。

一方で、保健機能食品の中でも開発コストが相対的に低いとされる栄養機能食品や機能性表示食品、及びその他の健康食品に類するサプリメントや各種補助食品等については、メーカーは企画や広告宣伝に特化し、OEM企業へ製造を委託するケースも多く見られます。

販売については、訪問販売、通信販売を行う場合は自社で直接展開する場合が多く、量販店やドラッグストア、コンビニ等において販売する場合は、商社を通じて販売が行われています。

(出典:リガーレ作成)

健康食品業界の現状と課題

次に、健康食品業界の現状や本業界が抱える課題について解説します。

市場概況

図:分類別健康食品の国内市場推移・予測(単位:億円)

(出典:富士経済調べを基にリガーレ作成)

健康食品のうち、健康志向食品/機能志向食品(H・Bフーズ)と機能性表示食品の市場規模は堅調に拡大する一方、特定保健用食品は減少傾向にあります。

H・Bフーズ市場は、従来の生活習慣用予防商品や肥満解消商品に加え、コロナ禍以降、ストレス緩和・睡眠サポート需要が高まったことから、それらの改善、低減を訴求した商品に需要が集まり大きく市場が伸張。

2023年予測においては、2021年の約106%の市場規模となっており、今後、長期的には3兆円規模の市場になると予測されています。

機能性表示食品市場においても、2015年の制度開始以降、サプリメントやドリンク類を中心に拡大が続いており、2023年予測においては、2021年の約134%と大きく市場が伸張しています。

特定保健用食品では展開が難しく、機能性表示食品への切り替えも頻繁に行われているなどメーカーの注目度も機能性表示食品に集中していると言えるため、今後も堅調な推移が予測されています。

一方でそれらに比べ、特定保健用食品の市場規模は、2023年予測においては、2021年の約90%と市場が縮小しています。

機能性表示食品制度が開始されてからは、特定保健用食品に注力する企業が減り、新商品発売が減少。加えて既存商品の機能性表示食品への切り替えが進んでいることなどから、今後も市場は縮小傾向にあると予測されています。

チャネル別販売量

チャネル別販売量においては、乳製品特有の販売形態である戸配が減少傾向にある一方で、コンビニや通信販売チャネルでの販売シェアが増加しています。

特に、コロナ禍以降は通信販売チャネルの伸張が顕著であり、今後も増加していくものと予想されています。

しかしその反面、通信販売チャネルの確立には難しさもあります。

大規模なシステム投資や広告宣伝費がかかる他、適正な在庫量を見極めながら定期購入等にも対応していく必要があったり、法の規制を受けながら品質管理を厳格に行う必要がある等、販促と管理の両面で相当なコスト投下が必要となります。

特に中小企業においては、このようなコストに見合うだけのパフォーマンスが見込まれず、通信販売チャネルへの進出を断念せざるを得ないケースも多いと考えられており、資金力で優位な大企業と中小企業の格差が更に拡大する要因となることが懸念されています。

参入障壁

特にサプリメントをはじめとするH・Bフーズや機能性表示食品は、OEMで製造を請け負うことができる企業が多いことから製造を外部に委託するケースも多くなっています。

効能がある成分(原材料)が特定されていること、製造技術が確立されていること、等から自社での一気通貫作業が差別化要素にならないことがその要因と考えられています。

したがって、参入障壁が低く、既存顧客やブランドイメージを既に持つ大手食品メーカーやコスメ会社、通販事業者等、様々な業界が健康食品分野に進出しており、その競争は激化しています。

また、健康食品は性別や年代により利用目的が異なり、メディア等の影響によっても日々そのトレンドは変化していきます。

よって、製造力よりも、どの世代にどのチャネルを通じてどの効能の商品を販売するかといった企画力と、いかに商品の認知を高めるかというマーケティング力が重要となってきます。

そのような業界の特徴も、資金力に余裕のある大手食品メーカー等が新規参入しやすい理由となっています。

健康食品業界におけるM&A動向

近年、以下のような理由から健康食品業界やその周辺業種におけるM&Aが活発になっています。

新商品の拡充

健康食品といっても、上述の通り大きく保健機能食品とその他健康商品にわかれており、保険機能食品は「保健機能食品制度」に基づき国の定めた安全性や有効性に関する基準を満たし、届出や許可が必要となります。

そのため、新商品の販売にはコストと時間がかかることから(特に特定保健用食品においては個別許可制であり、許可が降りるまで平均して約5年、数億円規模の投資が必要といわれています)、自社商品ラインナップをM&Aにより拡充させるケースが見られます。

販売チャネルの拡充

戸配、スーパー・コンビニ、ドラッグストア、通信販売(テレビ、新聞、雑誌、インターネット)等、その販売チャネルは多岐に渡ります。

特に近年においては、インターネットによる通信販売のチャネルシェアが拡大傾向にあることから、従来インターネットによる通信販売を展開していなかった企業が、そのチャネルとノウハウを獲得するためにM&Aを活用するケースが見られます。

新規参入

国内の食品産業全体を見ると、コロナ禍による業務用需要の減少からは立ち直りを見せており、今後も堅調な推移が予想されていますが、長期的な人口減少等を背景に大きな成長が期待できる業界ではなく、成熟した産業であると考えられます。

その中でも、健康食品業界は伸張が期待されていることに加え、上述の通り参入障壁が低い業界でもあるため、特に成熟した国内の食品産業の中から、M&Aを活用して健康食品領域へ進出するメーカーが増えています。

健康食品業界におけるM&A活用のメリット

健康食品業界におけるM&Aを活用したメリットは以下の通りです。

売手側のメリット

  • 後継者問題の解決
  • 会社の存続・発展
  • 従業員の雇用維持(場合によっては処遇の改善)
  • 人材確保(大手と組むことで採用活動がしやすくなる)
  • 個人保証や担保の解消
  • 創業者利益・売却益の獲得

買手側のメリット

  • 新規販売チャネルの獲得
  • マーケティングノウハウの獲得
  • 新規商品の獲得
  • 製造設備の獲得
  • 事業領域の拡大、サービスの拡充
  • 周辺領域への進出
  • 人材確保

健康食品業界のM&A事例

ここでは、健康食品業界における近年のM&A事例をご紹介します。

幸福ホールディングスによるミル総本社の全株式取得

食品卸の大手である幸福ホールディングス株式会社(大阪府枚方市)が、株式会社ミル総本社(京都府京都市)の発行済株式全てを取得し、子会社化、本件の買手アドバイザーを弊社(株式会社リガーレ:大阪府大阪市)が務めました。

後継者不在を理由に第三者との資本提携を検討されていた売手企業に対し、健康食品領域を充実したい買手ニーズがマッチ。通販チャネルを通じたクロスセルのグループ相乗効果等も見込まれ、更なるサービスの拡充が期待できることから、本件が実現しました。

オリックスによるディーエイチシーの株式取得

オリックス株式会社(東京都港区)が、株式会社ディーエイチシー(東京都港区)の発行済株式の91.1%を取得し、子会社しました。

売手企業は、業界を代表する化粧品・健康食品メーカーとして確固たる地位を確立した企業で、多角的に事業展開をするオリックスグループにおいて、ヘルスケア事業におけるネットワーク拡充が期待できるとのことから、本件が実現しました。

健康食品業界でM&Aを行う際のポイント

最後に、健康食品業界でM&Aを行う際のポイントや注意点をご紹介いたします。

ターゲットを明確に定める

健康食品業界に限られたことではないですが、健康食品業界のM&Aにおいては特に、売却・買収をする相手方に求めること(モノ)を明確にし、実行する必要があると考えられます。

・商品、ブランドの獲得

・チャネルの獲得

・顧客の獲得

・研究開発、製造ノウハウの獲得

・設備の獲得  ‥など

これらのうち、何を目的とするM&Aなのかを明確にし、加えてしっかりとした事前調査(対象会社の商品の特性やマーケット等)をすることが求められます。

例えば、自社の既存商品と同チャネルにおける同年代向け同効能商品をもつ会社を、M&Aによりグループとした場合、既存製品同士がライバル関係となりシェアの奪い合いが起こる可能性が懸念される等、事前のターゲティングや調査を慎重に行うことが求められます。

法令等の遵守確認

健康食品を取り扱う際には、複数の法令に注意を払う必要があることから、M&Aの際にも細心の注意が必要となってきます。

健康食品の製造等に関係する主な法律としては、食品衛生法、食品表示法、健康増進法、医薬品医療機器等法、景品表示法、などがあげられ、製品によってはこれ以外の法令又は条例の適用を受けることもあります。

買収対象会社において、これらの法令等がしっかりと守られているか、守られていないことによって将来的なペナルティ発生の可能性はないか、など買収前に法務デューデリジェンス(買収監査)をしっかりと行い、見極めることが重要となってきます。

財務内容の確認

多様な商品が多様なチャネルで流通する本業界においては、商品別に在庫管理や採算管理することが難しく、特に月次ベースにおいては正確に把握できていないケースも多く見られます。

在庫の金額は正しいか、棚卸は正確になされているか、赤字商品はないか等、事前に確認しておくことが重要となります。

そのためには、買収前に財務デューデリジェンス(買収監査)をしっかりと行い、見極めることが重要となってきます。

まとめ

健康食品業界において会社の売却等をお考えの際は、まずはM&Aの専門会社へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、健康食品業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスや財務コンサルティングのみにも対応しておりますので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

松本綾

取締役COO青山佳敬

国内ミドルマーケット案件を中心に多くの案件に責任者として関与、事業会社の後継者問題解決・企業価値向上に寄与。

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