人材派遣業界のM&A動向と最新事例

人材派遣業界のM&A動向と最新事例

人材派遣の需要は近年高まっており、企業側の慢性的な人材不足を背景に今後も市場規模は底堅く推移することが想定されます。

一方、人材派遣業界においても人材不足、過当競争といった課題もあり、課題を解決するためのM&Aが増加傾向にあります。

この記事では、人材派遣業界のM&A動向やM&Aのメリット、具体的なM&A事例などを紹介いたします。

人材派遣業界とは

ここでは、人材派遣業界の概要、業界を取り巻く環境(市場動向/課題)について解説いたします。

1.人材派遣業界の概要

人材派遣(労働者派遣)業界とは、企業や組織が必要とする労働力を一定期間提供するサービスを行う業界であり、人材派遣会社は自己が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、派遣先の為に労働に従事せることを業としております。

人材派遣には、「常用型派遣」と「登録型派遣」の2種類があり、特徴については下記をご参照ください。

 常用型派遣登録型派遣
  定義派遣会社が派遣社員を直接雇用し、長期間に渡って複数の企業に派遣する形態。個人が派遣会社に登録し、派遣会社からの依頼に基づき、短期間またはプロジェクト単位で企業に派遣される形態。
    特徴派遣されるエンジニアは、一つの企業で派遣契約が終了しても、派遣会社での雇用関係が継続される。 専門知識を有するエンジニアは、常用型派遣が多い。登録型派遣は、派遣期間が終了すると同時に雇用契約も終了。

2.人材派遣業界の市場動向

人材派遣業界全体の2021年度売上高は8.2兆円、派遣労働者数は209万人となっております。

2020年4月からは同一労働同一賃金の法制化による単価上昇も寄与し、直近5年間においては年率平均7.5%の成長を遂げております。 

出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」

3. 人材派遣業界の抱える課題

人材派遣業界特有の課題として、以下3点が挙げられます。

人材不足

企業側において慢性的な人材不足の背景により、人材派遣会社の需要は増加している一方、人材派遣会社においても人材確保競争が激化しており、特に中小規模の派遣会社においては優秀な人材を確保することが厳しい状況にあります。

特に運送業や建設業、医療業界など専門的なスキルが必要な業種において影響が大きく、優秀な人材を確保する為には適切な報酬体系、福利厚生の充実、キャリア開発の機会などを提供することが必要不可欠であり、固定費上昇、収益力低下に繋がる恐れがあります。

少子高齢化による労働力減少

人口減少と高齢化による労働力減少は、人材確保がより一層厳しくなるほか、需要の絶対数も減少することが想定される為、将来的には業界規模も緩やかに減少していく可能性が内在されている。

AIによる代替

AI技術の進歩により、単純作業、事務作業についてはAIに代替され、派遣需要が縮小する恐れがあります。

派遣会社においては、AIでは代替できない専門的スキルを持った人材の確保や、人材紹介サービスを一体で提供する等、より付加価値の高いサービス提供が求めれます。

人材派遣業界におけるM&A動向

近年、以下のような理由から人材派遣業界におけるM&Aが活発になっております。

①経営環境の悪化

2008年のリーマンショック以降、景気の悪化、並びに競争の激化を背景とした中小規模の派遣会社における経営環境悪化により、売却を希望する企業が増加しM&Aが活発化している。

②人材不足の解消

即戦力となる人材確保が難しくなっている為、人材確保を目的としたM&Aが増加傾向。

③専門職に特化した人材派遣会社のM&A

建設、IT、運送、看護、その他エンジニア系等専門スキルを持った人材確保を目的としたM&Aが増加傾向。

④異業種による新規参入

買い手企業Gr会社又は買手企業の取引先への人材供給を目的に、人材派遣業界へ新規参入するM&Aが増加傾向。

人材派遣業界におけるM&A活用のメリット

人材派遣業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

  • 後継者問題の解決
  • 従業員の雇用継続
  • 個人保証・担保の解消
  • 売却益(創業者利益)の獲得
  • 経営の安定・拡大
  • 人材確保がしやすくなる
  • 人材教育体制・ノウハウを獲得できる

買い手側のメリット

  • 優秀な人材を確保できる
  • 販路やシェア拡大等のシナジー効果により収益性の向上が期待できる
  • 拠点、エリア拡大ができる
  • 技術・専門領域等事業の拡大、多角化ができる

人材派遣業界の売却相場

ここでは、人材派遣業界の売却相場について解説いたします。

コスト・アプローチから見た相場

中小企業におけるM&Aにおいては、時価純資産+営業権(EBITDA×2年~4年程度)により算定される価格が一般的な取引レンジとなっております。

(例)時価純資産300百万円 / EBITDA直近3期平均50百万円

300百万円+(50百万円×中央値3年)=450百万円
※EBITDA:営業利益+減価償却費

マーケット・アプローチから見た相場

類似企業比較法により、類似上場企業の財務数値と比較して算定することにより、売却価格相場を把握することも可能となります。

主にEV(事業価値)÷EBITDA倍率を採用することが一般的です。

直近における人材派遣業界のEV/EBITDA倍率中央値は6.8倍となっております。

(計算例)EBITDA50百万円 / 非事業用資産100百万円 / 無借金

50百万円×6.8倍+100百万円=440百万円

※評価方法の詳細はこちらの記事で解説しておりますので、ご参照ください。
https://ligare.management-facilitation.com/contents/4417/

※SPEEDA:人材派遣(事務・営業販売等)/人材派遣(製造業・IT等)業界における上場企業集計値(中央値、赤字企業除く)

人材派遣業界のM&A事例

ここでは、人材派遣業界における最近のM&A事例をご紹介します。

M&A事例①(人材派遣×人材派遣)

1.アウトソーシングテクノロジーによる日本コンサルティングの子会社化

㈱アウトソーシングテクノロジーは、人材派遣業を手掛ける㈱日本コンサルティングの全株式を取得し、2023年8月1日付で子会社化した。

アウトソーシングテクノロジーはエンジニアリングサービス、機械設計やソフトウェア・システム開発等を手がけている。

日本コンサルティング(神奈川県横浜市)も、機械設計業務を中心とした人材派遣を営んでいる。

日本コンサルティングに在籍する優秀な技術者や顧客基盤を活用したシナジーにより、グループ全体の事業拡大を期待してM&Aを実施(人材(技術者)確保、販路拡大を目的としたM&A)

2.メイホーホールディングスによるエムアンドエムの子会社化

㈱メイホーホールディンス(7369)は子会社の㈱スタッフアドバンスを通じて、業務請負などを手掛けるエムアンドエム(岩手県山田町)より人材派遣事業を2023年1月1日付で譲り受けた。

スタッフアドバンスは福島県、宮城県、山形県で人材派遣事業を手掛けているが、岩手県にも派遣先を広げることを目的にM&Aを実施(エリア拡大を目的としたM&A)

M&A事例②(人材派遣×人材紹介)

1.フルキャストホールディングス(4848)によるヘイフィールドの子会社化

人材総合サービスの㈱フルキャストホールディングスは、人材紹介遣業を手掛ける㈱ヘイフィールド(東京都品川区/売上高408百万円)の全株式を取得し、2022年5月31日付で子会社化した。

フルキャストホールディングスは「軽作業・ブルーカラー領域の人材サービス」を得意としている。

一方、ヘイフィールドは不動産業界に専門特化した人材紹介事業を行っており、専門的な付加価値を持つ職種への領域拡大及び事業ポートフォリオの拡充を目的にM&Aを実施(事業の多角化、専門事業領域の拡大を目的としたM&A)

2.アドミックによるWinbookの子会社化

人材派遣・人材紹介事業を手掛ける㈱アドミックは、人材紹介事業を手掛ける㈱Winbookの全株式を取得し、2023年12月11日付で子会社化した。

アドミックは2020年より人材紹介事業に注力。人材紹介事業の更なる拡大を目的として、M&Aを実施。(人材確保を含む、人材紹介事業の拡大を目指したM&A)

M&A事例③(異業種×人材派遣)

1.ファイズホールディングスによるファインドオンの子会社化

ファイズホールディングス㈱は、人材派遣業を手掛ける㈱ファインドオン(東京都千代田区/売上高3億8300万円)の全株式を取得し、2024年2月28日付で子会社化した。

ファイズホールディングスグループは、自社の物流部門を第三者企業に委託する業務形態の3PL事業を展開。

店内運営業務を提供する取引先や自社グループへの派遣を目的に、ファインドオンのM&Aを実施。(買手企業の人材確保及び買手企業取引先への人材サービス提供を目的としたM&A)

2.戸田建設(1860)によるグリーン・サポート・システムズの子会社化

戸田建設㈱は、人材派遣・人材紹介事業を手掛けるグリーン・サポート・システムズ㈱(東京都中央区)の全株式を取得し、2023年12月26日付で子会社化した。

戸田建設グループ及び取引先の人材ニーズを満たすことを目的としてM&Aを実施。(買手企業の人材確保及び買手企業取引先への人材サービス提供を目的としたM&A)

人材派遣業界でM&Aを行う際のポイント

人材派遣業界におけるM&A成功のポイントを解説いたします。

売り手側


1.企業成長の実現

譲渡後に一層の企業成長の実現が期待できるか否かは重要なポイントとなります。

期待できる企業であれば、双方シナジーが高いことが想定されるため、高値での売却に繋がります。

また、企業成長の実現が図れることは従業員の処遇改善や取引先の企業成長にもつながることが期待できます。

2.従業員データの開示

人材派遣業界における買い手企業のM&Aで最も多い目的は人材確保といっても過言ではありません。

そのため、M&Aプロセスの中で従業員データを求められることが通例ですが、買い手企業の中には従業員の引き抜きを画策する企業も存在します。

そのため、従業員名を非開示にすることや、開示のタイミングを基本合意締以降にするなど慎重に対応することが望ましいと言えます。

3.専門家のサポート

M&Aにおいては多岐に渡る専門知識が必要となります。

M&Aを成功させるためには、信頼できる専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

買い手側

1.人材の流出

人材派遣業界における、買い手側にとってのM&Aの重要な目的の一つに人材確保があります。

会社の売却をきっかけに従業員が退職してしまうこと避けるためには、従業員への丁寧な説明、PMI(M&A後の統合プロセス)が重要なポイントとなります。

従業員へ説明 するタイミングについては、売り手側、アドバイザーも含め、慎重に検討しましょう。

2.派遣先企業の把握

人材派遣会社は派遣先企業の業種・業況・事業規模によって、将来における受注獲得能力の安定性又は成長性が大きく異なります。

そのため、派遣先企業の特性を把握することが極めて重要といえます。

3.請負業務の適切な管理体制

人材派遣会社のうち、エンジニア派遣においては、派遣契約以外に「請負契約」にて受注しているケースも多々見受けられます。

請負契約は簿外債務リスクが内在された契約形態であり、プロジェクトマネジメント等適切に管理できる体制を構築できているか確認することが重要となります。

まとめ

人材派遣会社の売却・買収などをお考えの際は、まずM&A専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&A手法の検討を行います。

リガーレは、人材派遣業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスにもご対応可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

松本綾

シニアアドバイザー清水洋伸

メガバンクでのファイナンス業務を経て、アドバイザリー業務並びに財務デューデリジェンス業務に従事。

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