理美容・エステ業界のM&A動向と最新事例

理美容・エステ業界のM&A動向と最新事例

理美容・エステ業界では、人口減少に伴う市場規模の縮小は避けられない状況にあり、今後さらに競合他社との競争は激しさを増すと考えられます。

生き残りをかけ、競争力を強化するための手段としてM&Aを選択するケースは増加しています。

この記事では、理美容・エステ業界のM&A動向や実施するメリット、具体的なM&A事例などを紹介します。

理美容・エステ業界とは

まずは、理美容・エステ業界の定義や特徴について解説します。

理美容・エステ業界の定義・特徴

理美容・エステ業界とは、整髪、結髪などを行う美容室、理容室や、美容のためのサービスを提供するエステティックサロンなどを運営する企業群を指します。

総務省の「日本標準産業分類」によると、洗濯・理容・美容・浴場業の小分類として理容業、美容業、その他に含まれる細分類としてエステティック業のほか、リラクゼーション業、ネイルサービス業があります。

各業種の定義、具体例は下表の通りです。

分類定義具体例
理容業頭髪の刈込み、顔そりなどの理容サービスを提供する事業所理容店、理髪店、床屋
美容業パーマネントウェーブ、結髪、化粧などの美容サービスを提供する事業所美容室、美容院、ビューティーサロン
エステティック業手技又は化粧品・機器等を用いて、人の皮膚を美化し、体型を整えるなどの指導又は施術を行う事業所エステティックサロン、美顔術業、美容脱毛業、ボディケア・ハンドケア・フットケア・アロマオイルトリートメント・ヘッドセラピー・タラソテラピー(皮膚を美化して体型を整えるもの)
リラクゼーション業手技を用いて心身の緊張を弛緩させるための施術を行う事業所ボディケア・ハンドケア・フットケア・アロマオイルトリートメント・ヘッドセラピー・タラソテラピー(心身の緊張を弛緩させるのみのもの)
ネイルサービス業化粧品・器具等を用いて、手および足の爪の手入れ、造形、修理、補強、装飾などの爪に係る施術を行う事業所ネイルサロン、マニキュア業、ペディキュア業
出典:総務省「日本標準産業分類」を基にリガーレ作成

美容師と理容師は、美容師法・理容師法などの法令により定義や業務範囲が異なります。

美容師は、顔そり以外のパーマ、カット、ヘアセット、メイクをすることができる一方、理容師は、パーマ、カット、顔そりはできますが、ヘアセットやメイクはできません。

また、まつ毛エクステンションの施術についても、美容師免許が必要とされています。

このように、長らく美容師と理容師の垣根は高かったものの、2016年4月の厚生労働省の省令改正により、店舗で働く資格者すべてが美容師と理容師の資格を有しているなどの条件を満たせば、理容所と美容所を同一の場所で開設することができるなど、規制緩和が進みつつあります。

しかし、理容業は、業務範囲が美容業よりも限定されることや、近年は男性も美容室へ通うケースが増えていることなどから、比較的厳しい事業環境と考えられます。

エステ業界の特徴は、他の美容系業種と異なり、開業する際に資格が不要である点です。

そのため、エステ業界は参入障壁が低く、中小企業や個人経営者が多い業界でもあります。

エステ業は、ダイエットや脱毛、肌の美化を目的とするものも多く、これらは美容専門クリニックや医療機関でも同様の目的を果たすサービスが提供されているため、競合他社としては、エステ業に限られず、医療機関も含まれると考えられます。

また、理美容・エステ業界は、労働集約型の産業であり、売上高に対する人件費の割合が非常に高いという特徴もあります。

理美容・エステ業界の商流

(出典:リガーレ作成)

理美容室やエステサロンは、主にディーラーや代理店からヘアケア用品、化粧品、サプリメント等の商材を仕入れています。

理美容・エステ業の売上は、カット代や施術収入が中心ですが、サロンでのみ購入可能な頭髪化粧品や皮膚用化粧品など、粗利率の高い商品を販売し、収入を得るケースもあります。

近年は、AmazonなどのECサイトが美容業務商品の販売に参入しており、ECサイトを利用して直接取引するケースも増えつつあります。

消費者の中心は個人顧客ですが、法人顧客としては、ホテルや結婚式場などのブライダル関係のほか、医療機関や介護施設などがあります。

理美容・エステ業界の現状

出典:矢野経済研究所「理美容サロン市場に関する調査を実施(2023年)」

https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3287

矢野経済研究所によると、2022年度の理美容サロンの市場規模は、売上高ベースで2兆704億円、一方、エステティックサロンの市場規模は、3,163億円と、理美容の約15%程度の規模にとどまっています。

理美容業界の市場規模は、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、前年比約マイナス7.3%と大きく落ち込みましたが、2022年度は行動制限が緩和されたこともあり、回復基調にあります。

理美容・エステ業界が抱える課題と展望

次に、理美容・エステ業界の課題と展望について解説します。

競争の激化

出典:厚生労働省「衛生行政報告例の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/36-19a.html

厚生労働省の「衛生行政報告書の概況」によると、美容所(美容院・美容室)の数は年々増加しており、2022年度は26万9889軒と過去最高を更新しています。

美容所数や美容師数が増加しているのに対し、市場規模は増加していない状況です。

また、理美容業界では、低価格帯のチェーン店も台頭しており、顧客単価が伸び悩んでいるという課題もあります。

少子高齢化が進行し、日本の総人口が減少しつつある中で、理美容業の顧客獲得競争は今後より激化していくことが予想されます。

離職率の高さ

美容所数だけではなく、美容師数も年々増加しており、独立開業する美容師も一定数いる一方で、離職率も非常に高くなっています。

美容業界は、低賃金、長時間労働、休日の少なさなどの特徴があることに加え、見習い期間が長く、キャリアアップまでの道のりの長さに不安や不満を抱えるケースも少なくありません。

美容業界にとって、人材の採用や教育、定着も大きな課題の一つと言えます。

エステ業における消費者トラブル

前述の通り、エステティシャン(エステティック業務を行う技術者)は国家資格の取得が必要なく、誰でも開業できるということもあり、エステサロン業界は消費者とのトラブルが非常に多い状況にあります。

エステ業のサービスは、複数回の施術を一括で購入する場合も多く、長期間の施術を前提とする高額なコースを契約し、中途解約しようとした際にトラブルになったというケースが多くなっています。

特に近年は、若者や男性からも人気が高まっている脱毛エステでの契約トラブルが増加しています。

また、エステ業で扱うサービスには、医師資格が必要な分野がありますが、公的な資格のないエステティシャンの業務との境界が曖昧な部分があり、医師法違反などのトラブルも起こりやすくなっています。

こうした状況にあるため、エステ業界ではコンプライアンス体制の確立が必要とされています。

理美容・エステ業界におけるM&A動向

理美容・エステ業界では、市場規模の伸び悩みや、競合との競争の激化、人材不足、後継者不在などの理由から、事業承継を目的とするM&Aが増加しています。

ただ、多くの店舗を持つ大~中規模の理美容・エステ企業と、小規模の美容院とではM&Aの傾向は異なります。

ファンドによる大~中規模のM&A

2017年頃より、理美容業の大手グループを投資ファンドが買収する大型のM&Aの実施が見られます。

例えば、2018年にはAguグループが香港系投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズによって買収されたほか、2021年には美容サロンなどを運営するフレイムスグループとリタが、単独では難しかった投資基準を満たし、投資ファンドのニューホライズンキャピタルによって2社同時に買収されました。

こうした投資ファンドによる大型M&Aには、新規顧客の獲得、人材採用の強化、店舗拡大などの狙いがあります。

以上のことから、売り手は以下のような理由で増加傾向です。

居抜き物件の売却や運営委託

理美容・エステ業界では大型M&Aだけでなく、小規模の美容院やエステのM&Aも多くなっています。

小規模の美容院やエステでは、設備や内装などをそのまま残した状態で店舗施設の譲渡を行う居抜き物件の運営委託や売却が増加しています。

運営委託の場合、条件次第で従業員の雇用を継続させながら、新規運営者によってサービスや名称をそのまま使い、事業が行われます。

居抜き物件の売却の場合、既に人材育成が行われている従業員を残し、店舗を売却することで、今後の資金に充てることが可能です。

店舗や設備を新たに用意するには時間と労力、金銭的な負担がかかるほか、事業の立ち上げまでに時間がかかります。

居抜き物件による売却・運営委託は、買い手からするとスピード感があり、すぐに店舗運営が可能となるため、非常に便利な手段と言えます。

理美容・エステ業界におけるM&A活用のメリット

理美容・エステ業界におけるM&Aを活用した場合の主なメリットは以下の通りです。

売り手側のメリット

・事業の選択と集中

・後継者問題の解決

・廃業の回避

・従業員の雇用の継続

・個人保証・担保の解消

・売却益(創業者利益)の獲得

・経営の安定・拡大

・知名度の向上

買い手側のメリット

・事業規模、店舗数の短時間での拡大

・経営資源、人材の獲得(設備投資費用の削減)

・顧客の獲得

・ノウハウ、シナジー効果の獲得による収益性の向上

・容易に新規参入が可能(異業種)

理美容・エステ業界のM&A事例

ここでは、理美容・エステ業界における最近のM&A事例をご紹介します。

美容室・ネイルサロン運営のシェアリング・ビューティーによる美容室・まつ毛エクステ店運営のFERIAの買収

2023年7月、都内を中心に美容室・ネイルサロンを運営するシェアリング・ビューティーは、大阪府を中心に美容室・まつ毛エクステ店を展開するFERIAを買収しました。

シェアリング・ビューティーは、都内を中心に美容室11店舗、ネイルサロン4店舗を運営するほか、近年は、福岡・広島・名古屋・札幌と、地方都市での出店も加速させています。

また、美容室などの店舗運営のほか、美容メディア「HAIR」の運営やスタイリスト専売の自社ブランド「ONCE」を展開しています。

一方、FERIAは大阪府を中心に美容室7店舗・まつ毛エクステ店3店舗を展開する美容室チェーンで、設立15年の経営ノウハウや、大阪を地場として拡大してきた実績のある企業です。

シェアリング・ビューティーは、M&Aを積極的に行っており、今回FERIAグループが傘下となることで、関東と関西を中心とした25店舗展開となりました。

それぞれのブランドの強みを活かしながら、シェアリング・ビューティーの得意とする「HAIR」や「ONCE」というDXサービスでのシナジー効果を発揮し、美容業界のリーディングカンパニーになることを目指しているようです。

船井電機による脱毛サロン運営のミュゼプラチナムの買収

2023年4月、船井電機・ホールディングスは、全国で脱毛サロンを展開するミュゼプラチナムを買収しました。

船井電機は、薄型テレビ事業を主力とするAV機器等の電機メーカー。

日本国外への輸出や他メーカーへのOEM供給を行っていますが、2010年代以降、中国・台湾メーカーとの競争が激化したことにより経営が悪化し、現在は経営再建を図っています。

一方、ミュゼプラチナムは脱毛サロンを全国で170店程運営し、美容機器や基礎化粧品の販売も行っています。

船井電機は、テレビ事業に代わる収益の柱として、ミュゼプラチナムの美容事業を新たな柱に据えるという考えから、本M&Aを実行したようです。

今後は、美容機器の製造を行うほか、自社製品の販売にミュゼの店舗を活用するといった、相乗効果を狙っています。

また、ミュゼプラチナムは顧客データを活かしたマーケティング事業も展開しており、船井電機の製品開発にも知見を活かす狙いもあるようです。

理美容・エステ業界でM&Aを行う際のポイント

理美容・エステ業界でM&Aを行う際に留意すべきポイントを解説します。

コンプライアンス体制の確認

前述の通り、特にエステ業においては、法的なトラブルが起こりやすいため、エステサロンの買収を検討する場合には、サロンのコンプライアンス体制がきちんと整備されているかや、医師法違反といった問題がないかなど、事前に確認しておく必要があります。

なお、トラブルによる苦情や相談が増加している中、エステサロンに対する信頼回復を目指した動きとして、特定非営利活動法人日本エステティック機構による「エステティックサロン認証」の制度などがあります。

エステティックサロン認証とは、経済産業省の報告書に基づく基準に沿って審査が行われ、基準を満たすサロンに認証が与えられる制度です。

認証されたサロンは、法律を守るサロンとして信頼度が高まるため、エステサロンの売却をしたいという場合には、認証を受けることで売却がしやすくなる可能性もあるでしょう。

店舗、設備の確認

理美容・エステ業では、店舗や設備の獲得を目的とするM&Aも多く、事前に店舗や設備の状況を確認しておくことが重要です。

店舗の立地は集客率を大きく左右するため、利用者の多い地域や、駅から近いなど、多くの集客が見込める場所に店舗を構えることは、M&Aで売却しやすくなるポイントの一つです。

さらに、店舗の設備が整っているかも重要です。席数やシャワー台の数(エステでは、部屋数やベッド数など)によって施術できる顧客数が変わるため、スタッフ数にもよりますが、数が多い方が買い手にとって魅力となる可能性が高まります。

特に理美容・エステ業では、水を使う設備が必要となるため、排水管の状態が悪くないかも確認しておきましょう。

自社の強みをまとめる

美容師数、美容所数の増加に対し、国内市場が横ばい~縮小傾向にある理美容・エステ業界において勝ち残っていくためには、M&Aを実施することによって、競合他社との差別化ができるようなシナジーを得る必要があります。

ブランド力、美容師やエステティシャンの技術力、収益力といった自社の強みを明確にしておくことにより、買い手企業も自社とのシナジー効果や買収後のビジョンを描きやすくなるでしょう。

まとめ

理美容・エステ事業の会社の売却などをお考えの際は、まずはM&Aの専門家へ相談しましょう。

専門家は、豊富な知識、経験をもとに、相談者にマッチする相手先の探索や、M&Aの手法の検討を行います。

会社の強み、財務状況、相手先の希望などを整理したうえで相談するとスムーズです。

リガーレは、理美容・エステ業界のM&Aにも精通しているほか、財務・税務デューデリジェンスのみの対応も可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

この記事の執筆

松本綾

シニアアナリスト堀内槙

地方銀行を経てリガーレへ入社。M&Aチームのミドルバック業務およびデューデリジェンス業務に従事。

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