親族内承継とは?流れからメリットデメリットまで解説
後継者の決定は、会社の将来を決める大きな決断です。後継者には、会社の理念を継ぎながらも、時代を超えて続いていく会社へと成長を進めていく責任が生じます。
今回の記事では、親族内承継の流れやメリット・デメリットについてお伝えしていきます。
【前提】親族内承継とは
親族内承継についてご紹介していきます。
親族内承継とは、現経営者の血縁関係のある親族に会社を引き継ぎ経営を託すことを言います。
その一方で親族内承継に対し「親族以外」の人物に会社を承継していくことを親族外承継と言います。
このように事業承継には親族への承継か親族以外への承継の二つの種類があります。
親族内承継 | 親族外承継 | |
---|---|---|
メリット | ・創業家が事業を継続できる ・世襲であることにより社内の理解を得やすく反発も起こりづらい | ・専門性の高い人材を外部から招聘して経営を任せられる ・客観的に後継者を選定できる ・新しいアイデアやノウハウが組み込まれることで企業の発展に役立つ可能性がある |
デメリット | ・親族間の争いが起こる可能性がある ・親族に経営の素質がない可能性がある、など | ・コストがかかる ・社内の理解が得られず既存従業員が離職する可能性がある、など |
親族内承継の主な流れ
それでは親族内承継における、主な流れについて簡単にご紹介していきます。
親族内承継は実務的な手続きの前段階として、だれを後継者に指名するか、また育成方法をいかにするかが非常に重要になってきます。
現在の経営状況を把握して後継者を決定する
親族内承継を行う前に、まず現在の経営状況を把握し、適切な後継者を決定することが重要です。
後継者を選定するためには、トップの素養があるかを見極めなければなりません。つまりどのようなパーソナリティを持っているか把握することが重要になります。
このような取り組みは、現経営者が個人の適性や性格などから判断して後継者を決定し、外部者も交えた客観的なアドバイスを聞きながら重要な立場に育成していくことが重要になります。
決定した後継者の育成と幹部メンバーの育成
後継者の選定後は、次期経営者をどのようなステップで育成していくかを考えるとともに幹部メンバーの育成も重要になります。
まずは現経営者の業務の洗い出しをするとともに幹部の業務の洗い出しを行うことが重要になります。そのうえでどのようなステップで育成していくかは重要になります。
まずは現場に入りお客様とのコミュニケーションや製造業であれば製造工程を理解することが重要になります。また、経営を行う上で数字に対する感度を高めることは重要になりますので、管理部の仕事を通じて会社の全体像を理解することが重要になります。
相続・生前贈与・株式譲渡(売買)によって株式を承継する
後継者の育成とともに株式の承継も並行して進めていく必要があります。
親族内承継においては会社を譲り渡すこと、すなわち株式を引き継ぐことも重要にはなります。株式の移転は慎重に行う必要があります。
株式の移転方法は譲渡・贈与・相続がありますが株の評価額が事業承継にとって最適な価額になるようにコントロールしていくことも重要になります。
このうち現経営者が健在の場合は、生前贈与または株式譲渡が具体的な方法となります。
現経営者の財産状況、親族の状況など争続対策、相続税対策、納税資金対策を検討しながら進めていくことが重要になります。
親族内承継のメリット
親族内承継のメリットについて解説します。
1.周囲から理解を得やすい
まずは何と言っても周囲からの理解を得やすいといった部分があるでしょう。
現経営者の親族だからそのまま会社を継ぐ、ということは昔から連綿と行われてきたことであり、また新しい経営者と現スタッフが顔見知りというケースも多いでしょう。
こうしたところから、周囲からの理解が得られやすいのが親族内承継の大きなメリットのひとつです。
2.承継の準備をしやすい
具体的な手続きの部分や周囲への説明といった部分を総合的に踏まえて、承継の準備をしやすいのも親族内承継の大きなメリットのひとつです。
特に親族内で利害関係がない後継者の場合は、スムーズに手続きを進めていくことができそうです。
3.税務上のメリットを受けられる
税務上のメリットを受けられる可能性があります。
というのも法人版事業承継税制を活用できる可能性があるのです。
法人版事業承継税制は、会社の株式を「贈与」又は「相続」等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。
平成30年度の税制改正においても納税猶予の対象となる非上場株式等の制限、納税猶予割合の引上げを特例措置として導入するなど、この制度を利用できる間口が広くなってきていま
す。
親族内承継のデメリット
親族内承継のデメリットとして、以下の3つが考えられます。
これらのデメリットは親族内承継をする際に注意すべきポイントでもあるので、詳しく解説していきます。
1.親族間の争いが起こる可能性
例えば現社長のお子さんが複数いらっしゃる場合、親族間で争いが起こる可能性もあります。
会社の跡継ぎをめぐって親族間で深刻なトラブルが起こるというケースは枚挙にいとまがなく、こうした部分については事業承継の際にきちんと処理をしておく必要があるでしょう。
2.親族に経営の素質がない可能性
そもそも親族の後継者に経営の素質がなく、事業承継に失敗する可能性も想定されます。
例えば親族内承継にこだわりすぎるがあまり、全く経営の素質がない人物に経営を譲渡し、その後、会社が空中分解したり従業員が大量に離職するなどによって事業が存続できなくなる可能性もあるわけです。
こうした部分については親族内承継における重大なデメリットかつ注意点の一つと言って過言ではありません。
3.個人保証の審査がある
会社の運営上、金融機関からの借入がある場合は注意が必要です。
一般的には代表取締役がその債務について連帯保証を行うものですが、事業承継を行う際、親族内承継だとこういった個人保証の部分について問題が発生することがしばしばあります。
大きく分けて2つの問題があります。
まず1つ目は、後継者自身が会社の引き継ぐことによって発生する個人保証や債務の負担について難色を示しがち、ということです。
こちらについては粘り強く後継者と交渉して、可能な限り後継者に債務者の負担がないようにするなど処理が必要となります。
もうひとつが金融機関が現在締結中の融資契約において、個人保証を切り替えることに対して難色を示す可能性があるといったものです。
こちらについては新しい後継者に固有の財産がさほどないといった場合や、また後継者が債務を持っているなどで個人信用情報にネガティブ情報がある場合などに浮き彫りになりやすい問題です。
しかしながら、昨今では経営者保証ガイドラインができたことにより、金融機関への拘束力がないにしせよ後継者の経営者保証を解除しようとする動きが出ているのも事実です。
経営者保証の解除において重要な経営者保証ガイドラインが定める要件は以下の3つです。
- 資産やお金のやりとりにおいて法人と経営者が明確に区分・分離されている
- 財務基盤が強化され、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
- 金融機関に対し、財務情報が開示されている。
このような点に注意し経営者保証の解除にむけた準備を行っていくことも重要になります。
これらは現経営者から事業承継を行う前の段階で、専門家等と相談しながら問題を解決に導いていく必要があります。
まとめ
今回は事業承継の形の一つである「親族内承継」について、概要やメリット・デメリットをご紹介してきました。
親族内承継は会社の中での処理が比較的スムーズに進行しやすく、また従業員からの理解が得られやすいといったメリットがあります。
一方、個人保証の審査に関する問題や親族間の争いが起こる可能性があるなど、やはりいくつかデメリットが存在します。
親族内承継を行う場合にあってもやはり、専門家と相談しながら事を進めていく必要があるでしょう。
当事務所へご相談いただければ、こうした親族内承継や相続に関する諸問題についても全力でサポートさせていただきます。